時短促進で雇用維持を図る−欧州各国の雇用政策の現状−
ウィーン発
2009年07月13日
政府は労働時間短縮に対する補助金制度を拡充し、企業が解雇ではなく労働時間削減によって人件費を抑制し、雇用維持を図る新たな雇用促進法案を6月17日に議会に提出した。7月中にも成立する見込みだ。
<現行の時短制度を敬遠する企業も>
2009年第1四半期の失業率は4.7%で、米国発金融危機が発生した08年第3四半期に比べて1ポイント上昇した。失業者はこの間に3万7,400人増加し、雇用維持対策が喫緊の課題となっている。
オーストリアでは、1970年代から労働時間短縮に対する政府の補助金制度(以下、時短制度)がある。時短制度は、企業が景気の悪化や自然災害などにより雇用維持が困難な状況に陥った場合、労使交渉で従業員の労働時間を一時的に短縮して、賃金と社会保障費負担を抑制できるというもの。
企業は短縮後の実労働時間に応じた賃金と社会保障費(雇用主負担分)を負担することになり、人件費を削減できる。労働者は、短縮された労働時間に該当する賃金部分の6〜8割を雇用サービス(Arbeitsmarktservice)によって補償される(注)ため、実質的な賃金所得の減少は軽微にとどまる。また、時短制度利用中の自由時間に労働者が職業訓練などを受ける場合には、雇用サービスの補助金制度(費用の15%が上限)を利用することができる。
「時短制度はあくまで一時しのぎの対策」(雇用サービスの担当者)として、時短制度の利用期間は最大18ヵ月と定められている。また、時短制度を利用した企業は、時短制度の対象となった労働者を、制度利用中のほか、利用終了後も一定期間(最大4ヵ月)解雇できない(ただし、労働者側に法的な落ち度があった場合や、自主退職の場合は雇用契約を解除できる)ことから、利用をためらう企業もある。
<新法案で利用期間を最大6ヵ月延長>
政府が6月17日に提出した新雇用対策法案は、時短制度の利用可能期間を現在の最大18ヵ月から24ヵ月に拡大すること(10〜12年までの時限措置)と、時短制度導入後7ヵ月目から社会保障費の雇用主負担分を雇用サービスが支払うことを盛り込んでいる。
地元経済紙によると、09年6月中旬の時点で321社、5万6,860人(全就業者数の約1.4%)が時短制度を利用している。特に利用が多い地域は、製造拠点の多いオーバーオストライヒ州(1万7,839人)、シュタイヤーマルク州(1万5,088人)、ニーダーオストライヒ州(1万2,876人)。さらに18社、2,242人が7月1日から時短制度を利用することが決まっている。
政府は時短制度の利用を一層促すことで、失業率の悪化を食い止めたい考えだ。
(注)例えば、月給1,000ユーロの労働者の賃金が時短制度により月給800ユーロになった場合、雇用サービスは差額の200ユーロに対する失業保険支給額(通常6〜8割のため、この場合は120〜160ユーロ)を支払う。この労働者の月収は920〜960ユーロになる。
(木場亮、エッカート・デアシュミット)
(オーストリア)
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