豚インフル感染、ニューヨークで増加

(米国)

ニューヨーク発

2009年04月28日

ニューヨーク市の豚インフルエンザ感染者は限定的ながらもじわじわ増加している。州や市の対策は万全とのことで、市内はおおむね静かだが、マスクの買い置きや病院患者の急増も見られる。日系企業のなかには、WHOによるフェーズ4への引き上げを受けて、出張自粛対象を米国にも広げるところがでてきた。

<高校で感染者が増加>
28日14:00(米東部時間)、ニューヨークのブルームバーグ市長は記者会見し、市内の感染者が今後も増加する見通しを述べた。疾病対策センター(CDC)によると、感染者数は45名に達したが、これは前日までの28名に、疑いのあった17名を加えた数。17名についてはいずれも陽性が確認されたと想定できる。ただし、患者はいずれも症状が軽く快方に向かっているとのことである。

その一方で、今回の集団感染が発生したセント・フランシス高校(クイーンズ区)の近隣の177特別支援校で、11名の高熱患者を含む82名が病気療養中との事実が明らかになった。このうち1名は兄弟がセント・フランシス高校に通学しているとのことで、豚インフルエンザへの感染の疑いがもたれている。同校は明日休校になるとのこと。さらに、マンハッタン区でも6名の生徒が発熱し、検査を受けているとのことである。ただし、市によれば100万本のタミフルが備蓄されており、用意は万全とのことである。

<州も万全な対応を強調>
ニューヨーク州保健局(DOH)は、ウェブサイトに豚インフルエンザ特集ページを開設。26日から24時間対応電話窓口も開設している。番号は1-800-808-1987。開設から4時間で300件以上の問い合わせがあったとのこと。

パターソン州知事は26日、衛生緊急準備計画(Health Emergency Preparedness Plan)を開始、豚インフルエンザに対し「厳戒態勢(High Alert)」を敷き、迅速な判定と対応に努めることを発表した。知事は「ニューヨーク州は国内で最も強固な州全体をカバーするモニタリング能力と研究施設および医療対応システムを備えている」と語った。

DOH副局長(公衆衛生担当)は「ニューヨーカーにはぜひ、他の季節発生的なインフルエンザと同様に、常識的な予防策を徹底してもらいたい。地元の学校や保健局から指示がないのに、健康な子供を学校に行かせないといったことをする必要はない」とし、市民には落ち着いた対応を要請した。

<ニュージャージーでも疑いが>
ニュージャージー保健高齢者サービス局は27日、最近メキシコに旅行した4名とカリフォルニアに旅行した1名に、豚インフルエンザの疑いのある症例があると発表した。結果はCDCによる検査待ちの状況で、29日には判明予定とのことである〔ブルームバーグ(4月28日)〕。

ただし、27日の同局プレスリリースによると、いずれも症状は軽く、自宅療養中で入院しているものはいないとのこと。ニュージャージー州でもウェブサイト内に豚インフルエンザ特集コーナーを開設し情報提供に努めている。

<ニューヨーク市内は平静だが>
ブルームバーグ市長は26日、27日にも記者会見を行っている。これらの会見によると、ニューヨーク市での感染はセント・フランシス高校以外では確認されておらず、同校を除いた学校は全て開校する予定だという(本日になって177特別支援校の休校を発表)。同市長は、市民がマスクを装着する必要もなく、深刻な症状がない限り病院に行く必要もないと述べた。ニューヨークを訪れている旅行客にも「安心して欲しい」と呼びかけている。会見に同席したクラーク下院議員も、「用心をする必要はあっても警戒の必要はない」と述べている。また、ニューヨーク市は州政府からタミフル1,500本を受け取ったという。

ただし、タミフルについて製造業者は「十分な供給がある」と述べているものの、クイーンズ地区のドラッグストアでは需要に追いついていないのが実情だという(「ニューヨーク・ポスト」紙、4月28日)。

また、タミフルと同様にマスクも売り切れという店舗が多い。筆者が、実際にニューヨーク市内のドラッグストアやディスカウントストアを数件訪れてマスクを販売しているか聞いてみたが、どの店舗もマスクは売り切れという返答ばかりが返ってきた。しかし、ニューヨーク市内の様子は普段と何ら変わりなく、街中や地下鉄および郊外電車内、駅構内にもマスクをする市民は全くといっていいほど見られない。

その一方で、「警戒の必要はない」と政府機関の呼び掛けにもかかわらず、SARSや狂牛病など過去の例から市民の中には過度に反応する者もいるにはいるという。

地方紙の「メトロ」紙(4月28日)によれば、現在ニューヨーク市における感染はクイーンズの学校の中にとどまっているにもかかわらず、市内の緊急病棟はインフルエンザに似たような症状を訴える市民や、インフルエンザの感染を恐れる市民が著しく増えているという。さらに、地元TV局のABCニュースは、タイムズスクエアにオフィスを持つ大手会計事務所のアーンスト・ヤング社が女性社員一名の感染を確認したと公表した数時間後、この発表を撤回した例を挙げ、情報の氾濫と過度な警戒で市民に動揺が生じていると報じた。

<日系企業も慎重に対応>
27日の世界保健機関(WHO)による警戒水準「4」への引き上げを受けて、ニューヨークの日系企業のなかにはさらなる対応を検討したり、すでに実施に移したりするところも出てきた。具体的には、メキシコへの渡航自粛について米国にもその対象を広げるもの。主に日本の本社からの出張者が対象となる。

米国出張については自粛していない企業もまだ多いが、「不要不急なものは取りあえず避ける雰囲気」という声もある。ただし、米国駐在員に帰国勧奨が出たという話は聞かれず、工場などの操業についてもメキシコのマキラドーラなども含めて「従来どおり」とのことで、サプライチェーンなどへの深刻な影響を案ずる声は、今のところ聞かれない。

(梶田朗、松本貴子、疋野輝紀)

(米国)

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