法制度や投資インセンティブの整備進む−バルカン諸国のビジネス環境成熟度(5)−

(アルバニア、欧州)

欧州課

2009年04月30日

EUと2006年に締結した安定化・連合協定(SAA)が09年4月1日に発効したアルバニアは、EU加盟を最優先目標に掲げて、4月28日に正式にEU加盟を申請した。欧州委員会の支援を受けて、会社設立手続きの迅速化、ビザ取得手続きの簡素化、会社登記・納税手続き・公共調達の電子化など投資促進につながるシステムの構築が順調に進められているが、汚職のまん延、組織犯罪の横行などが依然として解決すべき課題として残っている。

<EUとの協定に従って投資関連法制度を整備>
90年代初めに、半世紀に及んだ鎖国政策を改め、国際社会に復帰したアルバニアは、06年6月、EU加盟に向けSAAに調印した。自由貿易協定(FTA)を含む貿易に関する暫定協定は06年12月に既に発効し、09年4月1日にはSAAが発効した。さらにベリシャ首相は4月28日、09年上期のEU議長国を務めるチェコのトポラーネク首相にEU加盟申請を行ったが、これは6月28日に予定される議会選挙対策とみる向きもある。

アルバニア政府は、EUの監督・支援の下で、投資環境改善につながる法制度の整備を着実に進めている。例えば、06年には、特許と公共調達に関する新法を導入した。これらの法律には、特許契約の期間を20年から35年に延長するなどの条項や、取引の透明性、行政担当者の説明責任の明確化、外国人投資家に対する公平な取り扱いの保証が盛り込まれている。

従来、アルバニアでの会社登記は煩雑で多額の手数料が必要だったが、07年5月、会社設立に関する「一元的な(ワンストップ・ショップ)」手続き法案が国会で成立し、08年から施行されている。07年9月には新しい登記センターも稼働し、現在では会社登記にかかる日数は1日、登記費用は1ユーロで済むようになった。各種認可申請も同様に「ワンストップ申請」が09年5月から稼働する見込みで、申請後10日以内に許可が取得できるようになる予定だ。

<投資促進のため法人税率など引き下げ>
税制面では、投資促進のため、法人税率が08年に従来の20%から10%に引き下げられている。また、個人所得税も07年8月に20%から10%に引き下げられた(年収が3万レク未満の場合、1万レクは控除対象。1レク=約1円)。このほか社会保障費の雇用主負担分も06年6月に29%から20%に引き下げられている。首都ティラナを含む12の主要都市でイータックス制度が導入され、税金、社会保障負担分の納税と還付を電子申請することが可能だ。

投資インセンティブとしては、輸出向け機械の付加価値税(VAT)免除、手工芸品製造者へのVAT免除、国有不動産の優遇価格でのリース、観光開発インセンティブ(観光開発地区への投資に優遇税制)の付与、エネルギー分野への投資への優遇税制の適用などの措置をそろえている。

また、産業振興地区として主要都市に近い7地区(ドゥラス、ブロラ、シュコダル、エルバサン、コプリク、シェンジン、レジャ)が指定されている。それぞれの地区はケース・バイ・ケースではあるものの、一部が自由貿易特区(FAZ)に指定されている。また港湾、空港へのアクセスが良く、電力・水道設備が整い、労働力も確保しやすく、35年という期限付きながら周辺地域よりも安く土地が提供される。

投資先としての潜在的な魅力としては、a.ギリシャなど地中海諸国と中・東欧を結ぶ交通の要衝としての将来性、b.アドリア海をのぞむ450キロもの風光明媚な海岸線があること、c.クロムをはじめ、銅、ニッケル、セメント、カオリン、アラバスター、大理石などの鉱物資源などの鉱床があること、d.若年層が多く、比較的低賃金で、熟練工が確保しやすいこと、などが挙げられる。

<通信、保険などの分野で民営化進む>
政府は公営企業の民営化を進めており、07年7月に国営固定電話会社アルブテレコムの株式76%の売却が国会で承認され、トルコのコンソーシアムがアルバニアのGDPの1.5%に相当する1億2,000万ユーロで購入した。国営携帯電話会社のアルバニア・モバイルコミュニケーションズ(AMC)の株式もギリシャのコスモートに00年7月に85%が売却され、09年2月にさらに12.6%が売却された。このほか、08年12月には国営保険会社INSIGの政府保有株式61%が、国際入札を通じて米国の保険会社アメリカン・リザーブ・ライフ・インシュアランスに売却された。

一方、電力・エネルギーなどの分野では民営化プロセスは遅れている。アルバニア電力エネルギー会社KESHは06年に経営難に陥り、政府は07年にGDPの0.5%に相当する公的資金をつぎ込むことを余儀なくされた。KESHが経営難に陥った主な原因は、干ばつにより水力発電ができなくなり、電力不足を補うために国外からの割高な電力輸入に頼らざるを得なかったことと、電力料金の徴収率が約80%(請求が生じない技術的ロスなどを含めると50%未満)と低いことだ。同社は07年に経営陣を刷新、料金の請求制度と徴収方法の改善による経営安定化に取り組んでいる。

道路、港湾、空港などの民営化も今後本格化するとみられる。

<最大の懸案は汚職・腐敗、組織犯罪の横行>
03年から進められたSAA交渉の中で、EUは民主主義に基づく法治国家として必要な仕組みの構築と運用をSAA締結の条件としてつきつけ、改善を義務付けた。国内法制度の整備や司法権の独立性の確保と効率化などで、政府はこれに基づき各種国内改革を推進してきた。

司法・行政改革について、欧州委員会が08年11月に発表した国別進捗報告書「プログレスレポート2008」は、司法改革の進捗は遅く、透明性が確保されていないと指摘する。特に、裁判官の任用について行政の不透明な関与が続いていることが司法の独立性を脅かしているとしている。

また、犯罪組織による経済活動だけでなく、税金を納めない就労も多く、政府が管理しきれずに統計に入らない経済活動(灰色経済と呼ばれる)が経済全体の約50%を占めているとさえいわれている。統計上14.4%だった05年の失業率も、実態は30%近かったとみられている。

知的財産権保護についても、産業に関する知的財産権保護法が08年7月に導入され、ビジネス分野での知的財産権意識に若干の向上が期待できるものの、国全体として、海賊製品などに対する意識が低く、違反製品が法廷に持ち込まれるケースは極めて少ないという。

アルバニア経済は過去10年にわたり、平均7%程度の安定した成長を続けてきた。産業構造も従来の農業依存型から変わり、工業、サービス業の比率も高まってきている。経済構造の変化に伴い、原材料やエネルギー、機械などの輸入が急増し、貿易赤字が拡大している。07年には、原油価格の高騰などもあって貿易赤字がGDPの26.8%に達し、貿易収支の悪化が懸念材料となりつつある。

堅調な経済成長を遂げる一方、欧州委のプログレスレポートは「機能する市場経済の確立に向けた政治的コンセンサスは強化されているものの、政策の具体性が欠如しているため、経済改革の実効性が伴わない場合がある」と指摘している。

(岩井晴美)

(アルバニア)

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