M&A、新エネルギー、「現代サービス」案件が増勢(山東省)−2008年の対中直接投資動向(6)−
青島発
2009年04月01日
2008年の山東省の対内直接投資の新規契約件数は、前年比43.3%減の1,527件と減少傾向が強まった。投資金額(実行ベース)は、10.2%増の82億246万ドルとなった。
韓国、日本などからのグリーンフィールド投資が減少し、M&A案件や、国内企業の香港経由などの投資が増えている。金融危機の影響で、生産、雇用調整が進み、合弁解消、撤退などの事業再編が本格化している。
<済南市、泰安市など内陸部で急増>
青島市と煙台市への投資額は、それぞれ前年比5.8%増、12.0%増にとどまり、全体に占める両市の割合は5割を切った(表1参照)。一方で、中西部都市の急増が目立つ。省内投資額3番目(約1割)の済南市(8億6,448万ドル)が40.6%増となったほか、これまで投資が少なかった泰安市(1億5,788万ドル、2.1倍)、聊城市(1億1,864万ドル、2.7倍)、棗庄市(1億7,652万ドル、89.8%増)が急増した。
<日本、韓国のシェア降下>
国・地域別にみると、全体の8割(実行金額ベース)を占めるアジア諸国・地域からの投資が4割増となった。中でも香港・マカオが53.6%増、シンガポールが87.8%増と急増した(表2参照)。
一方、これまでの主要投資国だった韓国と日本は、それぞれ4.8%増、22.4%増と増加しているものの、シェアは低下した。特に韓国のシェアは前年より18.4ポイントも縮小した。
<M&A、PPF案件が増える>
香港やシンガポールからの投資急増は、中国企業が相手先の証券市場に上場し、そこからの資金調達を増やしていることが背景にあるとみられる。これらの国・地域の証券市場に上場した「地場企業の海外特定目的会社から大型投資があった」(山東省対外貿易経済合作庁関係者)ようだ。08年は、ニューヨーク、ロンドン、オーストラリアの欧米証券市場への上場も相次いだ。
また、香港からの投資が急増したのは、「企業所得税実施条例(08年1月施行)による影響も大きい」(同関係者)。進出企業が日本の親会社などへ配当する場合は08年1月以降、日中租税条約に基づき10%の源泉徴収納税が必要になった。一方、香港の親会社などへ配当する場合は、源泉徴収納税額は中国・香港二重課税防止協定に基づき5%(25%以上出資している場合。それ以外は10%)にとどまる。欧米、日本企業を中心に、税制面での優遇を求めて香港経由で投資する動きが活発化したとみられる。
グリーンフィールド型投資が減少する一方、国境を越えたM&Aやプライベート・エクイティファンド(PPF)投資による直接投資が増加している。M&AやPPF投資、海外証券市場上場に絡む案件を合わせた投資は17億6,000万ドルに上り、総額の21.5%に達した。M&Aでは、食品大手ケロッグ(米国)がビスケットメーカーの正航集団(青島市)を買収するなど国際著名企業の案件もあった。
案件の大型化も進んでいる。契約案件のうち3,000万ドル以上のプロジェクトは132件で全体の17.3%を占めた。うち、1億ドル以上の案件は8件で、自動車、造船、エネルギー、製紙、海水淡水化、不動産などの分野だった。
<新エネルギー、現代サービス業関連の案件が増加>
製造業の減少と対照的にサービス業の増勢が続いている。第二次産業は、金額で11.3%増えたが、件数では半減した(表3参照)。中でも、牽引役だった紡績業は、金額が35.4%減、件数で67.5%減と急減した。
特に製造業では、労働契約法施行(08年1月)による人件費、労務管理費の増加の影響が大きい。進出日系企業では、契約満期時の経済補償金の支払い義務化が大きな負担となっており、「経済補償金積立を損金算入(注1)できるようにしてほしい」(在青島日系企業関係者)として、税制改革を求める声が強まっている。政府側も「山東省の主力産業である労働集約型分野では、投資の魅力が失われつつある」(山東省対外貿易経済合作庁関係者)と認めている。
一方、省エネ・環境分野への投資が目立つ。山東省政府によると、新エネルギー(風力、太陽エネルギーなど)関連プロジェクトの投資額(9案件合計)は、全国投資実行額の17%に達した。具体的には、香港の華潤集団などによる風力や波力発電のプロジェクト、ドイツのaleo solar AGと孚日集団〔●(さんずいに維)坊高密市〕によるソーラーモジュールの合弁生産、ゴールドマン・サックスグループなど海外投資ファンドによる皇明太陽能集団(徳州市、太陽熱温水器大手)への資本参加などが挙げられる。
第三次産業への投資額は21.4%増で全体の約3割にまで拡大した。特に、IT関連を中心に各種サービス業、卸・小売業などが増え、今後も「現代サービス業」(注2)分野を中心に投資が拡大する見通し。
第三次産業で最大業種の不動産業(全体の8.9%)への投資額は、不動産市況の悪化で減少した。上半期は約3割増だったが、通年では1%減、契約件数では約6割減となった。一方、「情報、コンピュータサービス・ソフト、物流」は金額で3.3倍、「ビジネスサービス」は約2倍と急増した。省政府や済南、青島、煙台、威海、東営など各市政府による積極的な誘致活動が実を結んだ格好だ。青島市を中心に、欧米企業によるソフトオフショア開発拠点や、韓国最大のネットショッピング企業のINTERPARKによるコールセンター(青島因特派克商務服務)の設立があった。
<「内販」志向型が有望>
金融危機による世界的景気後退が、進出外資の事業再編を加速している。進出数最多の韓国系企業は、07年末ごろには夜逃げ事件が相次ぎ、「09年に入っても特に加工貿易企業で撤退が続いている」(大韓貿易投資振興公社関係者)ようだ。日系製造業企業では生産減に伴い、従業員の自宅待機や減給、レイオフなど雇用調整が進んでいる。合弁解消、同業他社への売却などによる撤退も出始めた。
08年の契約件数が前年に比べ半減したことから、09年の投資額は減少に転じる可能性が高い。山東省政府関係者は、日本企業による新規投資の大幅な増加は当面期待できないとする一方で、「製造業企業による国内販売志向型の投資が増える」と見込んでいる。
(注1)多くの日系企業では、一時的に発生する多額な経済補償金支払いによる負担を避けるため、経済補償金の積み立てを開始している。しかし現行制度では、経済補償金積み立ては損金不算入で課税対象となっている。
(注2)物流、金融、情報、コンサルティング、旅行、コミュニティー・サービスなどを指す。
(荒木正明、馮平)
(中国)
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