57品目の鉄鋼輸入に強制規格を導入−日系企業からは不満の声−

(マレーシア)

クアラルンプール発

2009年03月02日

政府は、棒鋼、ビレットなど鉄鋼57品目の輸入を自由化(関税撤廃と許可証の廃止)すると同時に強制規格を導入した。これにより、マレーシア規格(MS)を満たしていなければ輸入することができない。これに対し、日系企業からは、関税が撤廃されたものの、MS規格適合検査のための新たなコスト負担が生じ、減税メリットが相殺されていると不満の声が上がっている。

<安全性の確保を理由に強制規格導入>
政府は、2004年以降、鉄鋼、セラミック、セメントなどの原材料・中間財の自由化を進めてきた。その一環として、08年11月には、鉄鋼54品目の輸入許可証(AP)の廃止と57品目の輸入関税撤廃を実施した〔2008年関税(輸入禁止)令改正No.5、2008年関税(免除)令改正No.9〕。これにより、輸入者はAP申請の事務作業が軽減されると同時に輸入額15〜25%相当の金銭的メリットを受けられることになった。

問題は、自由化と同時に57品目(表1参照)に対し強制規格が導入されたことだ。この制度は、国内で製造されているローカルの鉄鋼と同様に、輸入する57品目の鉄鋼に対してもMS規格への適合検査を義務付けている(既に国内製造の鉄鋼には、MS適合性は数年前から要求されている)。政府が指定した検査機関での検査をパスした鋼材でなければ輸入できない。通関時には、検査をパスしたことの証明書(COA:Certificate of Approval)が求められる。

強制規格導入の背景について、政府は、建材用の棒鋼などで中国製の粗悪品が国内に流入しており、そのような建材で作られた建物の安全性が懸念されるためと説明している。既に数年前からMS適合性を要求されている地場鉄鋼メーカーの間に、MS不適合の輸入鋼材に対する不満があったともいわれている。

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<通関ごとにCOAの入手が必要に>
COAは通関ごとに入手する必要がある。建材用はCIDB(建設業開発委員会)、非建材用は、SIRIM(標準工業研究所)が発行機関として指定されている(注)。

建材用のCOAを入手するには、まず輸入業者が貨物到着前に必要書類をCIDBに提出する(表2参照)。その後CIDBが指定する検査日に、CIDBの検査官と一緒に貨物が保管されている港に同行し、検査官のサンプル抽出作業(鋼材の一部を30センチほど切り取る)に立ち会う。CIDB検査官は抽出したサンプルを持ち帰り、検査を実施、規格適合と判断したらCOAを発行する。輸入業者はCOAが入手できた時点で通関可能となる。

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多くの電気・電子、自動車関係の日系企業が輸入している非建材用の鉄鋼のCOA入手方法は次の3通りある(表3参照)。

最も利用が多いと思われるのが方法1で、上述の建材用のステップとほぼ同様になる。建材用と異なる主な点は、検査官と検査機関がSIRIMであることと、申請書類、申請料(1,000リンギ、1リンギ=約26円)、検査料(1トン当たり2,000リンギ)だ。

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2つ目の方法は、貨物が出荷される前に試験を済ませる方法である。輸出国のSIRIMが指定した外国の試験機関の検査結果があれば、国内での水際検査は限定的なメニューとなる。水際検査が方法1より簡素化されるため、検査期間が短縮できるのがメリットだ。ただし、輸出国でのサンプル抽出はSIRIM職員がしなければならず、近隣諸国の場合は活用できる方法かもしれないが、日本の場合は現実的ではない(サンプル抽出のためのSIRIM職員の出張経費は、輸入者が負担)。

3つ目の方法は、SIRIMが既に実施している製品認証の制度を利用するもので、水際検査が、方法2より、さらに簡素化される。国内の地場鉄鋼メーカーの場合は、既にSIRIMの製品認証を受けていることから、この方法で対応しているケースが多い。

<強制規格導入は日系企業のコストアップ要因に>
この強制規格の導入により、通関時の期間とコストが増大したとして、電気・電子、自動車関連の日系企業の間からは、不満の声が出ている。

電気・電子製造用の鉄鋼を輸入する日系企業のケースでは、検査費用に平均1件当たり5,000リンギから6,000リンギの費用が発生しているという。通関ごとに費用が発生するため、年間では大幅なコストアップ要因となる。輸入関税は撤廃されたものの、金銭的メリットが相殺されてしまう。

また、これまで通関の必要日数は平均1〜2日だったが、水際検査の導入により、COA申請→検査→COA入手→通関までに合計6日以上かかる。そのため港で貨物が滞留し、余計な保管料が発生している(国内最大の貨物取扱港のクラン港は、保税倉庫での貨物保管無料期間は3日間)。

日系企業567社が加盟するマレーシア日本人商工会議所(JACTIM)は、「建設用鋼材の安全確保が目的なら、建設材料用だけに検査を限るべきだ。自動車や電気電子で使用する鋼材は、輸入原材料を加工して最終製品にするため、原材料を検査したところでは意味がない。環境や安全についての強制規格を、原材料・中間財に対して一律に実施すること自体が無意味」だとして、1月29日に政府への改善要求を提出している。

(注)非建材用の強制規格制度の詳細ガイドラインと申請書類はSIRIMのウェブサイトからダウンロードが可能。建材用はCIDB(電話番号603-2617-0200)に連絡して入手する。

(手島恵美)

(マレーシア)

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