消費低迷も食品部門は安定−金融危機下の好調業種を探る−

(イタリア)

ミラノ発

2009年02月27日

2009年の冬季セールは前年より5〜10%減が見込まれるが、小売業界は予想していたほどの落ち込みにはならなかったと受け止めている。食品など一部に堅調な業種もあるが、耐久消費財は厳しく、明暗を分けている。自動車産業などは政府の新たな支援策の効果に期待をかけている。

<3期連続でマイナス成長>
国家統計局(ISTAT)の発表によると、08年第4四半期の実質GDP成長率(速報値)は前期比マイナス1.8%、前年同期比マイナス2.6%で、ともに3期連続のマイナスとなった。四半期ベースで公表されるようになった80年以降では最悪である。

イタリア産業連盟(Confindustria)は内需の落ち込みを要因に挙げており、9月のリーマン破綻以後、銀行の融資基準の厳格化によって企業の設備投資が抑制されたことに加え、製造業の一時帰休などの雇用不安が購買意欲の低下を招き、耐久消費財を中心とした家計支出の縮小につながったと分析している。

<食品部門は安定、有機食品が人気>
国内最大の商業者連盟(Confcommercio)によると、12月の家計消費支出(推定値)は前年同月比0.5%減で、10月(2.2%減)、11月(5.0%減)の急激な減速傾向が一時的に緩和したとしている。

「衣料品・靴」は1月のセールを見越した買い控えで3.1%減となったが、10月(4.2%減)と11月(5.0%減)に比べれば下げ止まりの傾向がある。「食品・飲料」も11月の6.2%減から12月には0.6%減まで戻している。

自動車を含む「移動関連の財・サービス」は11月(19.2%減)、12月(5.8%減)と厳しい状況だが、予想していたほどの大きな落ち込みにはならず、総じて過去数年のクリスマス商戦と大きく変わらないとみられている。

各業種が不振にあえぐ中、唯一堅調を保っているのが食品部門だ。

農業団体(Coldiretti)が実施した食品消費動向調査によると、08年は、比較的高価な原産地呼称ワイン(DOCGなど)の購入額と原産地呼称付きの食品を購入する人の割合が、前年よりそれぞれ6%、8%増加したという。もともと食に対して保守的な国民性から、基本的にイタリア料理や地元産品を好む傾向が強いが、景気悪化で購入量を減らしてでも良質のものを求めるこだわりは強いようだ。

さらに、有機食品関連のビジネスも好調だ。同調査によると、日常的に有機食品を購入する消費者は前年比で23%増えており、レストラン(20%増)や学校給食など(16%増)への有機食品の導入、有機農法を体験する「アグリツーリズモ」(農業体験ツアー)の利用(18%増)も伸びている。

有機農地面積と有機農家数が欧州最大で、有機による農産品や加工品は他国以上に消費者に浸透している背景もある。さらに、世界的に食の安全性を脅かす事件が多発していることや健康意識の高まりも、不景気でも強い理由と思われる。

<ネット市場も拡大傾向>
クリスマス時期には書籍の販売が増加したとのデータもある。大手チェーンのモンダドーリやフェルトリネッリでは、12月中旬から年末にかけての売上高が前年より5%程度伸びたという。プレゼントとしてほかの商品よりも手ごろな値段のため格好の「逃げ場」として重宝されたことや、クリスマスと年末を家で過ごす人が多かったことの影響と考えられる。いずれも消費者の節約志向が反映された結果だろう。

ネット通販市場は他国に比べて小規模だが、現在の不況下で拡大している数少ない分野だ。

Eコマース協会(Netcomm)とミラノ工科大学が発表したレポートによると、08年のネット通販全体の売上高は約60億ユーロ(前年比20%増)とまだ小売業全体の1%程度にすぎない。技術開発の遅れもあって米アマゾンなど大手が進出していない事情もあるが、売上高の1割強を占める旅行商品(28%増)をはじめ、書籍・CD・DVD(21%増)、衣料品(43%増)などが大きく伸びている。価格比較サイトの利用が増加していることからも、より低価格の商品を求める消費者の利用は今後も高まりそうだ。

<家電、自動車は依然厳しく>
耐久消費財の落ち込みは続く。

市場調査会社GfKによると、08年10〜12月期の家電製品の売り上げは前年同期比10.3%減の約60億ユーロ(通年では前年比5.9%減の210億ユーロ)だった。牽引役だったカーナビ、DVDプレーヤーやビデオカメラが不調で、空調機器も落ち込んだ。スマートフォン(インターネットに接続可能な携帯電話)やネットブック(インターネットやメール利用に特化した低価格パソコン)などハイテク製品は不況時でも好調を維持したが、全体を押し上げるには至らなかった。

イタリア自動車工業会(ANFIA)によると、08年11月の新車登録台数は前年同月比29.0%減の13万9,295台、12月は12.8%減の14万1,490台で、09年1月も32.6%減の15万7,418台と厳しい状況が続いている。

政府は09年2月6日、欧州の排ガス規制EURO4とEURO5に適合する新車(乗用車、トラック)への買い換えと、メタンや水素などを燃料とするエコカーの購入に対する新たなインセンティブ(1台当たり1,500〜4,500ユーロ)を閣議決定した(2月11日施行)。2月中旬には徐々にフィアットのディーゼルやメタン車種の受注が増加し始めたことから、一部工場ではそれまで休止されていた製造ラインの再開が決定されるなどの効果が出ている。

<冬季セールは5〜10%減少の見込み>
09年の冬季セールは、高級ブランドを含む各店が高め(平均50%以上)の割引率を設定したことや、例年より開始時期が前倒しされた(注)ことから、当初の出足こそ好調だったが、最終的には前年より減少する見込みだ。

小売店連盟(CIDEC)の中間調査では、対象店舗の6割が08年より売り上げが減少し、売り上げの大半が初日からの10日間に集中したと回答した。合計では08年より5〜10%程度落ち込むとみている。CIDECは「懸念していたほど悪い結果ではなかったが、家計支出が縮小していることは確実だ。クリスマス商戦に比べ売上高は多かったが、期待していたほどではなかった」と述べた。

Confcommercioの試算(08年12月29日時点)では、セール全体の売上高は68億ユーロ(年間売上げ総額の19.5%に相当)で、1家族当たりの平均支出額は432ユーロ、1人当たりでは173ユーロと予想していた。

(注)これまでセール開始日は一律に1月6日の祭日(主顕節)以降と決められていたが、08年に各州で法改正が行われてからは前倒しされる傾向にある。ミラノのあるロンバルディア州の09年冬季セールは1月の第1土曜日(3日)に開始された。

(中川明久)

(イタリア)

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