食品の格安オンラインショップが驚異的伸び−金融危機下の好調業種を探る−

(英国)

ロンドン発

2009年02月27日

世界的に景気が低迷する中、生活必需品である食料分野でも大きな変化がみられる。消費動向が「外食から家庭食へ」「高価な商品から安価な商品へ」と移行していることを背景に、庶民向け大手スーパーは積極的な出店計画を打ち出し、新規に雇用を増やそうとしている。また、レストラン業界では、ファストフード店などの売り上げが増加している。

<雇用を拡大する大手スーパー>
景気後退の中でスーパー大手のセインズベリーがロンドン本社の従業員200人を削減するというリストラを行った一方で、スーパー大手各社は強気の姿勢を示し、雇用の拡大を図っている。ウェイトローズは2009年中の新規雇用者を4,000人とすると発表した(同社プレスリリース1月15日)。また、テスコが1万人、アスダは7,000人など、新規出店などにより雇用を創出している(「フィナンシャル・タイムズ」紙1月28日、「ガーディアン」紙1月12日)。スーパーは増加を続けている失業者の吸収先にもなっている。

スーパー各社が雇用を拡大している背景には、不況で消費者の購買姿勢が変化してきたことがある。消費者は外食から家庭内食(スーパーなどで食品購入)へと移行し、各スーパーは安価な商品を求める消費者のニーズに迅速に対応している。例えばテスコは、サプライヤーにコスト減の必要性を訴え、商品価格の引き下げを図っている。「ディスカウンター」ブランドなどの低価格商品群に力を入れ、既存の350品あるディスカウントブランドに加えて、09年中に新たに100品を追加することを発表している(「フィナンシャル・タイムズ」紙2月12日)。

<消費者は「安い」を選択>
庶民向けスーパーであるアスダのここ12週間の売り上げが前年同期比7.2%増加、テスコでは同3.2%増加したこと(「フィナンシャル・タイムズ」紙2月18日)や、アルディ、リドルといったディスカウント・スーパーが軒並み売り上げを伸ばしていることは、不況の中で消費者が「品質」ではなく、「価格」を選択していることの表われだろう。

食品基準庁が1月30日に発表した調査「Public Attitudes to Food Issues」によると、「スーパーなどで食物を買う際に何を最も重要視するか」という質問(複数回答)に対して、55%が「手ごろな値段」と答え、「品質」と回答したのはわずか1%だった(図参照)。

photo

また、食品価格が上昇したことで出費が増えていると答えた割合は全体の74%に上り、その約4分の3が「スペシャル・オファー(安売り)の商品を買う」、「嗜好(しこう)品を買わないようにする」と回答するなど、出費を減らすために以前と比べて購買行動が変化したと答えている。

<注目を集める賞味期限切れ格安オンラインショップ>
この流れの中で、賞味期限切れの食品などを扱い、低価格で販売するオンライン食品スーパーのアプルーブド・フードが注目を集めている。食品に使われる表示として「消費期限(Use by Date)」と「賞味期限(Best Before Date)」がある。食品基準庁の定義によると、前者は主に肉や魚などの腐りやすい食品に使われ、期限切れの食品を食べれば健康を損なう恐れがあるのに対して、後者の場合は期限が切れていても、味が落ち歯ごたえが変わる可能性はあるが、健康に悪影響を及ぼすことはないとされている。同社ではそのような「賞味期限」切れの商品を扱うことで庶民向けスーパーよりもさらに低価格な値段で商品を販売している。

「フィナンシャル・タイムズ」紙(1月10日)は、庶民向けといわれているテスコで2.55ポンド(約344円)で販売されているチョコレートを、アプルーブド・フードでは1ポンド(約135円)で販売するなどの破格的な安さを武器に、08年9月の金融危機以来売り上げを伸ばし続け、この不景気の中で売り上げを10倍に伸ばしたことや、アクセスが殺到して同社のサイトが数日間閉鎖されるなどの事態が起こっていることを報道している。

(滝沢将史、椎名由祐)

(英国)

ビジネス短信 49a73acf5b108