大幅値引きで小売業が健闘−金融危機下の好調業種を探る−
香港発
2009年02月24日
経済が急減速する中で、小売業の健闘が目立っている。2008年のクリスマスおよび09年の旧正月商戦ともに前年同期の実績を上回った。理由の1つに中国本土からの旅行客の増加が挙げられる。
<08年第4四半期はマイナス成長>
08年の香港のGDP成長率(実績見込み)は、第1四半期こそ前年同期比7.3%と高い伸びを示したが、その当時から、広東省に工場を持つ香港メーカーでは、労働法改正、ワーカー賃金の高騰、環境規制強化、人民元高などが響き、経営は厳しさを増していた。さらに香港のサービス業も、人件費・オフィス賃料の高騰に苦しんでいたので、期を追うに従って成長率が鈍化し、第2四半期は4.2%、第3四半期は1.7%だった。第4四半期は米国発金融危機の影響が実体経済にも波及し始めて、マイナス成長(推定マイナス0.9%)が確実視されている(図参照)。
香港株式市場の代表的指数であるハンセン指数は08年通年で48%下落し、住宅価格も08年7月から12月にかけて19%下落した(暫定値)。香港は日本に比べて株式や不動産に投資している人が多く、逆資産効果で消費に悪影響を与えることが懸念される。
香港の物流も悪化している。香港港のコンテナ取扱量は、08年12月に前年同月比24%減、09年1月に同23%減と大幅な落ち込みが予測されている。香港国際空港の貨物取扱量も09年1月は29%減と、明らかに荷動きが鈍くなっている。
<「究極の割引」、1香港ドル商品も登場>
景気の悪い話が多い中で、小売業の健闘が目立っている。
08年10〜12月のレストラン業界の売り上げは、中華レストランが前年同期比10%増、ファーストフード店は9%増、全体でも8%増と堅調だった。特に中価格レストランチェーンは不況時こそ攻めのチャンスと強気の経営を行っている。香港系の大家楽(Cafe de Coral)は10〜12月に香港で5店舗増やし、日系の定食チェーン大戸屋は、08年7月に香港に初めて進出し、09年2月に2号店を開店した。今後3年間で香港に15店の開設を計画している。
香港ではクリスマスと中国の旧正月(09年は1月26日が元日)が、年間で重要な商戦期間だ。
08年12月の小売売上高は、0.8%増とわずかながら前年同月を上回った(図参照)。自動車・自動二輪は前年同月比22%の大幅減少だったが、耐久消費財17%増、電気製品7%増などが全体を支えた。香港小売管理協会は、クリスマス商戦の売り上げを前年同期比5〜8%減と予測していたので、事前予測より健闘したといえよう。
堅調だった背景には、消費意欲を刺激するため、一般の小売店では5割引きも珍しくないなどのバーゲンを展開、通常は値引きをしないクリスチャン・ディオールやカルバン・クラインなど有名ブランドも値引きを行ったことがある。
旧正月の間は各地の大型ショッピングモールの成績が好調だった。中心街にある「時代広場(タイムズ・スクエア)」の訪問客が前年同期比5%増となり、売り上げは30%増だという。巨大モール「メガボックス」を訪れた客は30%増、高級モール「エレメンツ」は25%増だった。
旧正月明けの「究極の割引」として、「1(香港)ドル(08年12月は約11円)商品」も現れた。2月8日の香港市民マラソン当日に「がんばれ香港セール」として、セブンイレブンがペットボトル入り紅茶を1香港ドルで販売した。香港レストラン協会は、期間・数量限定で、1香港ドルのカラオケ、ビール、ワンタンめん、チャーシュー載せご飯「叉燒(チャーシュー)飯」、鶏を丸ごと1羽蒸した「貴妃鶏」、飲茶デザート「エッグタルト」を提供し、話題を集めた。
<中国本土からの旅行客増が貢献>
08年は人口701万人の香港に、中国本土から1,686万人の旅行客が訪れ、観光・小売業に大きく貢献した。中国旅行客は、08年12月に前年同月比6.4%増、旧正月期間(09年1月25〜31日)に同5%増だった。小売管理協会によると、12月の小売売り上げの20〜30%を中国旅行客が占めるという。
従来、中国本土から香港を訪れるためには、出身戸籍地でビザを取得する必要があった。しかし、08年12月には香港の隣の深センで、出稼ぎ者も香港ビザを取得できるようになった。この規制緩和も旅行客増加の原因の1つとなったとみられる。
(森田悟、姚慧俐)
(中国)
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