雇用は徐々に悪化、消費は消極的に、世界不況の影響(1)−金融危機下の好調業種を探る−
ヘルシンキ発
2009年02月23日
世界的な金融危機の中でも、2008年のフィンランド国内消費は堅調さを維持した。年末までは雇用情勢がさほど悪化しておらず、労働者は07年末の労使協定で3年先の賃金までベアを約束されているためとみられる。しかし、経営者や消費者の意識は次第に悪化の度合いを強めてきている。大型商品の売り上げも急減している。
添付ファイル:
資料( B)
<12月は輸出入とも前年同月比15%減>
フィンランド税関が2月9日に発表した貿易統計(速報値)によると、08年通年の輸出は655億2,500万ユーロで前年と横ばいだった。月別にみると、12月は前年同月比で15%減と11月(20%減)に続き大幅に落ち込んだ。一方、輸入は通年で4%増の617億9,500万ユーロだったが、12月は前年同月比15%減と11月(14%減)より悪化した。これにより08年の貿易黒字は38.6%減の37億ユーロにとどまり、92年以来の低さとなった。
輸出の品目別では、木材製品と鉄鋼製品がともに大幅に落ち込み、電気・電子製品も10%減った。一方、食品は増加した。輸出先国別ではロシアがドイツを抜いて首位に躍り出た。貿易は世界経済が好転するまで弱含みで推移するとみられる。政府は早くも09年のGDPは少なくとも2%のマイナス成長となると予測している。
<失業率は微増へ>
08年通年の失業率は6.4%(表1参照)で、91年以降では最も低かった。統計局の労働力調査(表2参照)によると、08年12月の就業者数は249万7,000人で、前年同月に比べ7,000人増えている。労働市場がタイトだったため、08年9〜11月の賃金・給与水準は前年同期比で7.2%上昇した。すべての産業で賃金・給与が上がり、就業率は70.6%と高率だった。12月の失業率は6.1%だった。
09年、10年は最悪の場合、失業率は7.5%から9.5%に達するかもしれないといわれている。企業の多くはとりあえず一時的なレイオフでとどめているが、輸出需要がこのまま減退し続ければ、本格的なレイオフに踏み切らざるを得ないと思われる。しかし、ベビーブーム世代が09年から12年にかけて退職していくため、多くの企業が対象者に早期退職制度を提案しつつあり、失業の増加は比較的穏やかに進行するとみられている。
<主要企業の業績は大半がまずまず>
ジェトロが1月上旬にペッカリネン雇用経済相にインタビューした際に(2009年1月23日記事参照)、同相は「政府、銀行とトップ50企業のバランスシートは競合国よりも強い。09年は明らかに利益は落とすだろうが、このような困難なときでもトップ50の企業はとにかく利益を出すだろう」と強調した。
例外的に不調なのは紙パルプ産業だ。2月上旬に多くの企業が08年第4四半期の業績を発表(添付資料参照)したが、大部分の企業が堅調な業績を上げる中で、製紙大手のストラエンソなど紙パルプ業界は少なくとも金融危機をまともに受けて売上総利益が大幅なマイナスとなった。
好調に推移していたノキアの売上総利益は、08年第4四半期で12億3,900万ユーロと前年同期比53%減という激しい落ち込みとなったが、通年では前年比8.6%減ったものの70億ユーロを確保した。サムソン、LG、ソニーエリクソン、モトローラなど携帯各社が軒並み第4四半期で利益を出せなかったことに比べると、ノキアの強さが分かる。
もっとも利益が出せるのは08年までで、09年はフィンランドの企業のほとんどが売上高、利益とも落ち込むと予想されている。
<企業は先行きの景況に悲観的>
フィンランド産業連盟(EK)は2月5日、会員1,109社(従業員計28万人)を対象に1月に実施した景気動向調査の結果を発表した。それによると、1月の景況指数はマイナス41で、米国発金融危機の影響で急落した08年10月と同様の大幅マイナスだった。先行きについては44%が悪化すると回答し、53%が「変化なし」で、先行き景気は回復すると答えたのは3%だけだった。
EKによると指数は08年末に全産業で急激に落ち込み、09年の上半期も厳しい状況が続く見通しだ。最も悲観的にみているのは建設業だが、ほかの産業部門でも生産・雇用はおしなべて似たように落ち込みむという。08年は年末に向けて製造業と建設業の生産が大幅に縮小し、またサービス業でも売り上げの伸びが止まった。受注が急速に縮小して、生産現場に大幅な余剰感が出ている。
また、IMFは2月4日、フィンランド経済について、「金融機関は今回の大混乱に対して立ち直りが早く、安定指標は比較的健全ではある。しかし景気の下落は今後、金融システムにリスクを引き起こす可能性がある」と述べ、中期的には「人口の高齢化、生産性向上の低下、労働と商品市場の硬直性が長期的成長と財政の維持に問題を引き起こす」と指摘している。
<危機発生後も消費は堅調>
こうした情勢下で消費市場はどのような動きをみせているだろうか。
12月商戦の場合は前年同月比2.7%増だった(表3参照)。9月の同7.0%増の後、10月には6.7%増、11月には0.5%減と急減速したものの、年末の消費はまずまずといったところだったといえよう。
危機発生後にも消費が比較的堅調だった背景には以下のような理由が考えられよう。
(1)政府が09年に所得税減税を行うと決めていたこと。
(2)金融セクターが健全で、銀行融資が継続して行われていること。
(3)08年の名目賃金が5.5%増で、09年も5.0%とほぼ同率の賃上げが見込まれること(2007年12月20日記事参照)。
(4)90年代の危機時以来記録的に好調な雇用が続いたこと。
(5)08年10月以降の住宅金利が急速に低下したこと〔欧州銀行間取引金利(EURIBOR)12ヵ月物は10月初旬の5.52%をピークに09年1月29日には2.29%に急落〕。
(6)ほかの欧州諸国に比べて消費者が抱えているローンがそれほど多くないこと。
(7)エネルギー価格が下落していること。
<消費者の購買意欲は消極的に>
統計局が毎月発表する消費信頼感指数(Consumer confidence indicator)は、08年9月の8.1から10月はマイナス0.2、11月がマイナス4.5、12月がマイナス6.5、09年1月がマイナス3.9と急激にマイナスに転落している(図参照)。これは失業への不安心理が消費行動にも影響したと考えられ、その不安は09年1月にも引き続き現われたといえる。しかし、現実には小売売上額にはストレートに反映しておらず、ローンの借り入れを増やすなどの行動もみられる。
(長田榮一)
(フィンランド)
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