薄型テレビやPB商品の売れ行きは好調−金融危機下の好調業種を探る−

(シンガポール)

シンガポール発

2009年02月19日

2008年に景気後退入りし、クリスマス商戦では外出を控え自宅で過ごす消費者が増えたのを反映して、薄型テレビの販売が好調だ。また、生活に密着した製品では、割安感のあるプライベート・ブランド(PB)製品の人気が高まっている。しかし、急速な景気変化で雇用環境が変化しており、今後は小売業界を取り巻く環境は一段と厳しさを増すとの見方が多い。

<クリスマス商戦は健闘するも前年水準割れ>
08年9月のリーマン・ショック以降、国内では解雇や給与削減の発表が相次ぎ、消費マインドは急速に冷え込みつつある(2008年12月19日記事参照)

統計局(09年2月13日発表)によると、例年最も売り上げが伸びる12月の小売売上高指数は、08年の場合、前月比で19.9%上昇と比較的健闘した(実質ベース)。08年12月は低迷が続いていた乗用車販売が、(自動車購入時に必要な)自動車所有権証書(COE)の価格が低下した影響で17.6%増と大幅増に転じたほか、衣料品・靴が40.4%増、時計・宝飾品が24.8%増とクリスマス・ギフト需要は堅調だった。とはいえ、指数は前年同月比ベースでは3.9%下回っており、10月以来3ヵ月連続で前年水準を割っている。

国際的な大手金融グループHSBCのエコノミストは08年12月の小売売上高について、「COE価格と金利の低下に消費者が一部反応したが、雇用市場が09年にさらに悪化すると見込まれるため、消費トレンドの回復とみるのは時期尚早だ」とみている(「ストレーツ・タイムズ」紙2月13日)。雇用統計(09年1月30日発表)によると、08年の解雇者は前年(7,675人)を大きく上回る1万3,400人(暫定値)に上っており、09年には解雇者はさらに増えると見込まれる(2009年2月5日記事参照)

また、シンガポール観光庁(STB)は、09年の外国人来訪者数を900万〜950万人と、前年割れとなった08年(1,010万6,000人)をさらに下回ると見込んでおり、観光客の一層の減少も小売業界にとって逆風となる見通しだ(2009年2月9日記事参照)

<自宅でテレビを見て過ごす人が増える>
全般的に低迷する小売業界の中でも、家電や通信機器の販売はこれまでのところ比較的堅調だ。特に08年12月には、家具・家庭用品の売上高指数は前月比25.3%上昇し、通信機器・コンピュータは6.6%の伸びだった。

家電の中でも薄型テレビの販売が好調で、市場調査会社GfKアジアによると(09年1月26日発表)、08年12月の売り上げは前月比27%増加し、特にクリスマス、年末年始にかけて好調だった。テレビの売り上げ増は、外出を控え、自宅でテレビを見て過ごす人が増えているからだ、との指摘がある。地元ニュース専門テレビ局のチャンネル・ニューズ・アジアによると(09年2月10日放送)、08年の地元中国語番組「チャネル8」の視聴率は前年より5.4%、マレー語放送「スリア」は12%、「チャンネル・ニューズ・アジア」も5%、いずれも上昇した。

携帯電話は、08年8月からアップルの人気機種「iPhone」が発売されたほか、国内居住外国人が大きく増加したことなどが、好調な販売を支えている。通信会社最大手のシンガポール・テレコムによると、同社の国内の携帯電話契約者は08年末時点で前年同期比26%増加した。

<コメ、パン、調理油など割安PB製品に人気>
生活必需品では、割安感のあるPB品の販売が好調だ。調査会社ACニールセン(09年1月19日発表)によると、08年5〜10月のPB製品の売り上げは前期(07年11月〜09年4月)に比べ26%増と、ブランド製品(6%増)を上回って大幅に伸びた。PB製品の売り上げ増に最も貢献した品目は、コメ、パン、調理油だった。

PB製品の好調を受けて、国内最大の労働組合系スーパー、フェアプライスがPB製品の品ぞろえを現在の約2,000品目から、12年までに3,000品目に増やす。このほか、香港系スーパー・チェーンのコールド・ストレージも、PB製品を現在の約1,600品目から、年内に20%拡大するとしている(「ストレーツ・タイムズ」紙1月20日)。

<所得税や物品・サービス税の引き下げ論も>
しかし、外国人を含め人口は484万人(08年6月時点)と少なく、民間消費の国内経済への貢献は比較的小さい。米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙(1月23日)は社説で、シンガポールのこれまでの輸出牽引型経済モデルはもはや有効ではなくなり、所得税率を引き下げて消費を刺激し、社会保障基金に相当する「中央積立基金(CPF)」への貯蓄義務を緩和して、より自由に貯蓄と投資ができるようにすべきだと主張した。これに対し、財務省は同紙への投稿で、「民間消費はGDPの40%にすぎない」と反論。CPFへの貯蓄についても、一部は自由に投資可能だと指摘した上で、「リスクがなく、金利も比較的高い(3〜4%)CPFに貯蓄することで、老後のために必要な資金が守られる」と説明した(同紙2月4日)。

一方、シンガポール小売業協会(SRA)は2月13日、消費の底上げのため、08年暮れにかけて、物品・サービス税(GST)の税率を現行の7%から2%まで大幅に引き下げるよう政府に陳情したことを明らかにした(「ストレーツ・タイムズ」紙2月14日)。しかし、ターマン・シャンムガラトナム財務相は2月5日、政府予算案の国会審議の総括演説で、「GSTの税率の引き下げは、大幅な消費拡大はもたらさない」として、税率を引き下げない方針を強調している。SRAは今後も引き続き、政府にGST税率引き下げを求めていくとしている。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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