生産休止企業に補助金−雇用保護プログラムを開始−
メキシコ発
2009年02月18日
カルデロン大統領は2月11日、労働者の大量解雇を防ぐため、生産休止に追い込まれた企業に補助金を支給する「雇用保護プログラム」を開始すると発表した。政府は同プログラムに20億ペソ(約126億円)を支出する。対象となるのは、自動車や電気・電子などの製造業で、雇用者数、経営状況、支払い給与水準の変動などに応じて補助金を支給する。
<「家計・雇用のための国民的合意」の一環>
「雇用保護プログラム」は、大統領が1月7日に発表した「家計・雇用のための国民的合意」における政府の緊急経済対策25項目(2009年1月14日記事参照)のうちの1つ。経済省は「ハイテク産業開発プログラム」(PRODIAT、2008年12月28日付官報公示)の中で新たに生産休止企業への補助制度(タイプB)を設け、運用規則を1月28日の官報に公示し、2月9日から補助金申請の受付を始めた。
PRODIATは本来、電気・電子、自動車、航空機、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなどのハイテク産業の振興を目的とし、労働者研修、市場調査、新生産技術の導入などの企業活動を政府が支援するプログラム。経済省の競争力強化10ヵ条(2008年3月5日記事参照)の1つとして09年度から導入されるもので、3月に補助対象プロジェクトが公募される予定。
今回発表された「雇用保護プログラム」はPRODIATのタイプBとして運用規則が定められているが、本来のPRODIAT対象事業(タイプA)とは大きく性格が異なる。生産休止に追い込まれている企業の多くが自動車や電子など輸出比率が高い製造業で、PRODIAT本来の対象産業と類似しているために、PRODIATの一部として組み込まれたものと思われる。
大統領は発表に際し、現在直面している危機の深刻さを認めた上で、「重要なのは、メキシコのために何ができるかを皆が考えることだ」と語り、政府が補助金を支給する代わりに雇用主は解雇を極力避け、労働者はストライキなどを控えて生産休止中の給料減額を受け入れるなど、痛みを分かち合い、一致団結して危機に臨むことが必要だと強調した。
政府は、地方自治体などと協力して進めている「臨時雇用促進プログラム」(地方公共事業の拡大による臨時雇用の促進)と合わせると、70万世帯の雇用を保護することが可能だと見積もっている。
<対象は自動車、電子などの製造業>
「雇用保護プログラム」の対象となるのは、「機械機器(電気機器を除く)・部品の製造・組み立て・補修」、「電気・電子機器・アクセサリー・部品の製造・組み立て」、「輸送機器・部品の製造・組み立て・補修」のいずれかで社会保険庁(IMSS)に雇用主登録している企業。そのほかの産業の企業は対象外となる。
対象産業に属する企業が需要減少による生産調整のため、一時的に労働日数・時間・シフトを削減するなど「一時的労働条件変更(MTCT)」について労働者との間で合意し、労働調停・仲裁委員会に届け出た場合(もしくは届け出ると宣誓する場合)、同プログラムの補助が受けられる。
<雇用水準、経営状況に応じて補助金額を決定>
受け取れる補助金の額は、(1)従業員数、(2)生産休止に追い込まれた月数で計算した日数(生産休止した実際の日数ではない)、(3)雇用数の変化、(4)売上高の減少率、(5)1人当たり給与の減少率、に応じて決まる。
(1)は賃金が最低賃金の10倍以下の労働者数がカウントされ、10倍超の労働者は対象外。(2)は1ヵ月を原則30日と計算し、1日でも生産休止に追い込まれた月は「30日」とカウントする。(1)と(2)を乗じた数に110ペソを乗じた金額が補助金のベースとなるが、(3)、(4)、(5)で算出した調整係数(1より小さくなる)を乗じたものが実際の補助金支給額となる。
(3)については、前年同期に比べて雇用減少率が少ないほど(雇用を可能な限り維持しているほど)補助金の額が大きくなる。(4)と(5)はどちらか小さい方が補助金算出には採用されるが、減少率が大きいほど補助金の額は大きくなる。
1月28日に官報公示された運用細則には、雇用者数が450人で、2月に5日間生産を休止し、雇用減少率が10%、売上高減少率が41.6%、1人当たり給与減少率が12.5%の企業の事例が補助金計算の例として挙げられているが、この場合の実際の補助金受給額は33万4,125ペソ(約210万円)になる。
<解雇を一定範囲にとどめることが条件>
企業は09年1月分から2ヵ月単位で9月分まで補助金を申請でき、申請時に当該企業の売り上げの状況、雇用状況などを外部監査人の報告のかたちで提出する義務を負う。また、補助金受給後定められた期間内に最終監査報告書を提出する義務がある。
最終監査報告書では、監査期間(補助金申請期間)の企業売上高と前年同期の売上高を報告する必要がある。補助金受給の条件として、監査期間中の平均雇用者数(月単位)を前年同期と比べた雇用減少率が、売上高の前年同期比減少率の3分の1以下でなければならない。もし、売上高減少率の3分の1以上に雇用者数を減らしてしまった場合、企業は補助金を政府に返納する必要がある。
同プログラムに基づく補助金申請手続きの詳細と申請フォームなどは、経済省のウェブサイトに掲載されている。
(中畑貴雄)
(メキシコ)
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