「家ナカ」型の消費が堅調−金融危機下の好調業種を探る−

(スペイン)

マドリード発

2009年02月18日

家計消費の冷え込みにより、国内経済は2008年末に15年ぶりのマイナス成長に突入した。小売業は耐久消費財を中心に大幅な売り上げ減少となったが、食品、家庭用品や電化製品の一部は、終業後や休日はゆっくり自宅で過ごすという「家ナカ」志向への転換に乗って堅調さをみせる。また、エコカーの売り上げが8%増加するなど、グリーン税制の効果も表れている。経済見通しは依然として暗いものの、09年の年明けバーゲンの売り上げ量は前年比10〜15%増との好材料もあり、消費回復への期待が高まる。

<家計消費の冷え込みでマイナス成長に突入>
国家統計局(INE)が2月12日に発表した08年第4四半期のGDPは前年同期比0.7%減と、四半期ベースでは93年以降15年ぶりにマイナス成長を記録した。また、前期比では、第3四半期の0.3%減に引き続き1.0%減と、2期連続のマイナス成長となり、景気後退入りが確認された。

中央銀行は、最大の押し下げ要因は内需、特にこれまで景気減速の主因だった住宅建設よりもむしろ、家計消費の収縮が響いたと分析している。年率3〜5%前後で伸びてきた家計消費は、08年に入り2%台に減速し、第4四半期には1.5%減とマイナスに転じた。背景には、サービス(失業者数115万人)、建設部門(同58万人)を中心とした雇用の悪化がある。第4四半期の総失業者数は321万人となり、この1年間で128万人増えた。うち半分は第4四半期の増加分である。失業率は、07年第3四半期に8.0%と過去最低を記録した後、急速に悪化し、08年第4四半期には13.9%まで上昇した。

失業問題に加え、金融市場の機能不全が続いたことで、原油・食料価格の下落によるインフレ沈静化や給与上昇、400ユーロの所得税減税といったプラス要因が相殺され、消費者信頼感指数は1年間で3割低下した。これにより、GDPの約6割を占める家計消費が急激に冷え込み、住宅建設部門の減速で調整局面に入っていた経済をさらにマイナス成長へと押し下げたとみられる。

<節約志向で「家ナカ」に回帰>
こうした中、消費の冷え込みや購買力低下に対応したビジネスが台頭しつつある。格安プライベートブランド(PB)はシェア拡大を続けており、08年10月には高級デパートもPBを立ち上げた(2008年12月17日記事参照)。市場調査会社TNSの調べによると、08年の家庭用基礎消費財(生鮮食料品、加工食料品、トイレタリー製品)の売上高は前年比3.9%増、数量ベースでも0.2%増と堅調だ。INEの小売売上高統計でも、部門別にみて食料品の低下が最も少なくなっている。この要因には外食離れがあるようで、TNSによると、内食の頻度が5.6%増と、伸び率は前年の4倍近くになっている。

これと平行して、娯楽・レジャーも「家ナカ」型が底堅さをみせる。08年の家庭用ゲーム機の売上高は前年比約1%減と、任天堂の「Wii」の市場投入などにより前年比50%増の大幅成長を記録した07年の水準を維持した。また、市場調査会社IDCによると、08年のパソコンの売り上げ台数は前年比18.2%増と好調だった。特に過去4年間で価格が約3割安くなったモバイルパソコンの売り上げ台数は、前年比42.7%増の416万台と全体売り上げ台数の7割に達した。他方、外出型レジャーは振るわない。08年の外食産業におけるビールの売上高が前年比3.5〜4.0%減となり、国内ビール生産量も12年ぶりに減少したほか、1〜9月の国内・国外旅行(延べ旅行者数)は、それぞれ前年同期比10.8%減、12.8%減と大きくなった。

<地デジ受信機器とエコカーに買い替え需要>
制度・税制が需要をリードしている分野もある。08年に電化製品部門で最も売れたのは、地上波デジタル受信機器である。1年で709万台(うち102万台がクリスマス時期)に売れ、電化製品部門の年間売り上げの48.4%を占めた。政府は10年4月に地デジへの完全切り替えを予定しており、現在、段階的にアナログ放送の停止を進めている。08年末の時点で、地デジ受信地域は人口の92.4%をカバーしており、人口の45.1%が受信機器を導入済みと、普及率は前年からほぼ倍増した。

また、08年の新車登録台数は前年比28.1%減って約10年前の水準まで後退したにもかかわらず、走行1キロ当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が120グラム以下のエコカーだけは、8.0%増えた。政府は、08年からエコカーに対しては購入時の自動車登録税(従来7%)を免除する一方、CO2排出量が200グラム以上の車種に対しては税率を14.75%と高く設定し、エコカーの普及を強く奨励している。エコカーの多くは小型車だが、トヨタ「プリウス」などのハイブリッド車も含まれ、新規登録台数に占めるエコカーの割合は07年の12%から08年には19%に拡大した。

<冬のバーゲン、大幅値引きと寒波で売り上げ増に>
09年1月初旬から始まった冬のバーゲンも活況を呈している。スペイン商業連合(CEC)によると、これまでのところ数量ベースでの売り上げが前年比10〜15%増と予想に反して好調という。最大70%までの大幅な値引き商戦や、各地で大雪を降らせた寒波が幸いし、特に衣料関連の1月中の売り上げは、数量ベースで前年比20〜23%(価格ベースでは3%減)の伸びを示した。CEC会長は、「例年よりも大規模な値下げで、売上額では前年の62億1,500万ユーロには届かないだろうが、バーゲン前の予測(15%減)に比べ、満足のいく結果となろう」とみている。

ローンでの購入が必要な住宅関連や自動車などと異なり、食料品や個人用品など現金で買える商品は、安くなれば売れているようだ。実際のところ、失業世帯を除けば、家計の懐具合は決して悪くはない。家計貯蓄率は08年中に前年の10.2%から11.9%へと大幅に上昇した。景気の見通しは暗いながらも、消費者のコスト節約意識をいかに刺激できるかという点が重要になりつつある。

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(伊藤裕規子)

(スペイン)

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