中小企業の資金調達は困難な状況−景況感の冷え込みはこれから本格的に−

(米国)

ニューヨーク発

2008年11月13日

中小企業向けローンを厳格化した金融機関の割合は90年の景気後退期やITバブルの崩壊期を上回る水準となった。公的な信用保証制度も有効に機能しておらず、資金を調達したい中小企業にとっては厳しい環境となっている。中小企業の景況感の冷え込みは今後本格的に顕在化しよう。

<中小企業向けローンの基準は厳格化>
連邦準備制度理事会(FRB)が11月3日に発表した10月の「上級融資担当者調査(Senior Loan Officer Opinion Survey on Bank Lending Practices)」(注1)によると、小企業(年間売り上げ5,000万ドル以下)向けの商工業ローンで、「貸出基準DI」(注2)は74.5ポイントと7月調査(65.3ポイント)からさらに9.2ポイント上昇し、90年の景気後退期や2000年のITバブル崩壊期を上回る高水準となった(図1参照)。大手銀行の65%は最低融資額の基準を引き上げ、「良い顧客だけに多く貸し出す」という姿勢がみられる。

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また、特に規模の小さい企業が依存する傾向にあるクレジットカードローンや消費者ローンの貸し出し基準も同様の動きを示しており、それぞれ、58.8ポイント(前期66.6ポイント)、64.2ポイント(同67.4ポイント)と、過去最高を記録した前期よりはいくらか緩和がみられるものの、いずれも96年度の調査開始以来最も厳しい水準が続いている。また、この調査によると、60%近くの金融機関が主要顧客を除く既存のクレジットカードの信用限度を低く制限し、また、60%の金融機関が消費者ローンの最低融資額を引き上げて顧客の選別を図っている。

調査会社ラスムッセンが10月に発表した「ディスカバー・スモールビジネスウォッチ」(注3)によると、借り入れを必要としている中小企業の70%が「現在借り入れが困難な状況」と回答している。

中小企業の借り入れを支援するはずの中小企業庁(SBA)が実施している保証プログラムも利用は低調だ。08年度(07年10月〜08年9月)にSBAが中小企業に提供したローン保証「7(a)プログラム」は6万9,434件、127億ドルで、07年度(9万9,606件、143億ドル)に比べ減少している。また、土地や建物といった固定資産取得のための長期融資を提供する「504ローン・プログラム」も8,883件、53億ドルと07年度(1万669件、63億ドル)に比べ実績が落ちている。また、「ウォールストリート・ジャーナル」紙によると、「7(a)プログラム」は08年10月の実績が前年同月比50%とさらに低くなっている。

SBAのサンディ・バルア長官補は、この状況を「金融機関が信用基準を強化するとともに、中小企業が先行きを不安視し資金需要が減るという、最悪の状態が続いた結果だ」と説明している。しかし、潜在的な需要があるにもかかわらず、高い保証料〔7(a)プログラムで2〜3.75%。加えて、手数料が毎年残高の0.5%発生〕と煩雑な申請手続きが利用を阻害している、との見方も多い。

上院中小企業起業家委員会の議長であるジョン・ケリー議員(民主党、マサチューセッツ州)は「SBAのプログラムは中小企業にとって重要な資金調達手段であるにもかかわらず、十分に機能していない」として、07年来数度にわたりSBAに対し、プログラムの手続きの簡素化と保証料の低減もしくは撤廃を申し入れており、11月初旬にはブッシュ大統領にも書簡を送付した。しかし、「金融安定化法は最初のステップとしては良いが、中小企業にはその波及効果を何ヵ月も待つ余裕はない」というケリー議員の訴えにもかかわらず、現在のところ制度改善への動きは見られない。

<中小企業の景況感の冷え込みは今後顕在化>
全米最大の中小企業団体である全米独立企業連盟(NFIB)が10月に発表した中小企業へのアンケート調査「エコノミック・トレンド」によると、10項目の指標を基に中小企業の景況感を数値化する「楽観指数」は、9月に前月の91.1ポイントから92.9ポイントに上昇した。06年11月から23ヵ月連続で基準値の100ポイントを下回ってはいるものの、08年5月に75年1月以来最も低い89.3ポイントを記録して以降、回復基調で推移している(図2参照)。

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しかし、この数値は進行中の金融危機の影響を十分に反映していないことに留意する必要がある。楽観指数の基となる各調査項目(図3参照)を見ると、今回の楽観指数の上昇に大きく寄与しているのは「今後経済が好転する」の項目であり、調査時点での住宅金融2社への公的資金投入決定などサブプライム問題の一服感による希望的観測によるものと推測できる。金融危機が深刻化したのは9月中旬以降だが、同調査でも、9月15日までの回答から算出された数値は94.4ポイントであるのに対して、9月16日以降の回答のみに基づく数値は90.2ポイントと前月の数値を下回っている。中小企業の景況感の冷え込みは、今後本格的に顕在化するだろう。

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(注1)調査は通常四半期ごとに実施されるが、FRBが必要と認めれば年6回まで調査頻度が増やされる。
(注2)「貸し付け基準を強化した」と回答した融資担当者の割合から、「貸し付け基準を緩めた」と回答した融資担当者の割合を差し引いたもの。
(注3)ラスムッセンが毎月中小企業1,000社を対象に行う電話聞き取り調査。

(池田教)

(米国)

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