カジノ併設型総合リゾートの行方に黄信号
シンガポール発
2008年11月06日
世界的な信用収縮のあおりを受け、国内でカジノ併設型総合リゾート(IR)の開発を進めるラスベガス・サンズの資金調達難や工事の遅れが大きく報道され、完成に向けて不安視する向きもある。これに対し、政府当局はIRの成功のため開発会社と密接に協力する姿勢を強調している。
<サンズの株価が急落>
世界的な景気後退は、国内の観光に打撃を与えている。外国人来訪者数は9月までに4ヵ月連続で前年同月比減となった。F1(フォーミュラー・ワン)自動車レースが開催されたにもかかわらず、9月のチャンギ空港の利用客は前年同月比0.4%減の289万人と、世界的な景気後退や国内のホテル宿泊料金の高騰などにより2004年2月以来初めての減少を記録した。政府観光庁(STB)は9月24日、08年通年の来訪者数は目標の1,080万人に達しないとの見通しを明らかにしている。
国内2ヵ所で建設中のIRのうち、中心部のマリーナのカジノを開発している米ラスベガス・サンズ本体の経営への不安が最近になって高まっている。米国などでの各紙報道によると、08年後半から、米経済の悪化を背景にサンズを含むラスベガスの主要なカジノ経営会社の売り上げは減少し、株価も急落、資金調達にも苦慮しているという。
ニューヨーク株式市場のサンズの株価は07年12月31日の103.05ドルから、10月1日に31.32ドルへと下落していたが、同社のシェルドン・アデルソン会長が自己の資金4億7,500ドルを自社に注入すると10月1日に発表されると、逆に同社の資金調達能力への不安感が高まって株価はさらに値を下げ、10月28日に4.95ドルまで急落した。
STBは10月28日の声明で、サンズのシンガポールでのプロジェクトについて「あらゆる事態を想定しているが、現段階での憶測は時期尚早だ」と述べ、カジノを成功させるためサンズと密接に協力していると強調した(「ビジネス・タイムズ」紙10月29日)。この声明を受けて市場にようやく安心感が広まり、サンズの株価は上昇に転じている。
<営業開始が遅れる可能性も>
「ストレーツ・タイムズ」紙(10月30日)は1面で、サンズの事業について消息筋の情報として、工事が大きく遅れているため予定していた09年末に完成しない可能性があると報じた。これに対し、サンズは09年末の完成予定の延期はないと強調している。STBが05年に発表した観光10年計画では、15年までに外国人来訪者を年間1,700万人に増やすという目標を設定しており、目標達成にカジノの存在は不可欠だ。サンズは、カジノによる1万400人の直接雇用を約束しており(注)、雇用創出面でも影響が大きく、工事の進捗状況に関心が集まっている。
一方、マレーシアのカジノ娯楽施設運営会社ゲンティン・インターナショナルは11月3日、セントーサ島に開発中のIRについて、10年第1四半期にはテーマパークの「ユニバーサル・スタジオ」と4ホテルなど、IR全体の約6割が予定どおり開業すると公表した(「ストレーツ・タイムズ」紙11月4日)。ゲンティンは、2ホテルや大型水族館など残り4割の開業時期について政府と調整中だとしている。クアラルンプール株式市場に上場しているゲンティンの株価も金融危機の影響で大きく下落している。同IRも約1万人を雇用する計画だ。
(注)サンズは1万400人のうち75%をシンガポール人とすることを約束。また、間接的な雇用は15年までに3万人との見通しを示している。
(本田智津絵)
(シンガポール)
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