08年1〜9月の世界のM&Aは21.6%減少−金融市場の混乱が響く−
国際経済研究課
2008年10月31日
2008年第1〜3四半期(1〜9月)の世界のクロスボーダーM&A総額は8,519億ドルで、前年同期に比べ21.6%減った。07年まで拡大傾向の続いてきた世界のM&Aは、金融市場の混乱の影響から、通年でも減少に転じる見込みだ。
<第3四半期では39.6%減>
トムソン・ロイターのデータ(10月20日現在)によると、08年1〜9月の世界のクロスボーダーM&A取引額(期間中に完了した案件で集計)は8,519億ドルで、前年同期に比べ21.6%減少した。第3四半期に限ると、39.6%減の2,256億ドルと大幅に減少している。9月半ばのリーマン・ショック以降、金融市場の混乱に拍車がかかり、資金調達が困難となったことがM&A取引額の減少につながっている。現在の傾向からは、通年でも過去最高を記録した07年の1兆5,559億ドルを下回る見込みである。
<米国企業による買収金額は半減>
国・地域別にみても、先進国のほとんどでM&Aが減少している(表1、2参照)。その中で、金融危機の影響の大きい米国は特徴的な傾向を示している。米国企業による買収は、08年1〜9月、48.3%減の1,037億ドルと半減し、英国(1,191億ドル)を下回るなどM&A市場での米国のプレゼンスは著しく低下した。07年は米国企業による買収全体の51.8%を占めていた投資会社などによる買収(注)が、62.5%減の390億ドルに急減した影響が大きい。
一方、米国に対するM&Aは一国としては最大の2,077億ドルと、16.9%の減少に踏みとどまり、構成比は1.4ポイント上昇した。金融機関への資本注入案件があったほか、ドル安や米国経済の後退で米国企業の企業価値に割安感が出て、米国市場でのシェア拡大を狙う同業種企業が買収に乗り出すケースが少なくないとみられる。
第3四半期には、スイス医薬大手ノバルティスによる医薬品会社アルコン買収(105億ドル)、スペイン電力大手イベルドロラのエナジーイースト買収(81億ドル)、フィンランドIT大手ノキアによるデータサービス企業NAVTEQ買収(76億ドル)などがあり、買収額上位10件のうち5件が米国企業の買収だった。なお、08年上半期の世界の主なM&A案件については2008年7月30日記事参照。
1〜9月の東アジアのM&Aは、被買収側では15.2%増の473億ドル、買収側としては80.6%増の840億ドルと、比較的活発だった。中でも、中国企業による買収が3.8倍の369億ドルと目立っている。第3四半期の大型M&Aとしては中国海洋石油(CNOOC)のノルウェーの海洋資源掘削企業アウィルコオフショア買収(39億ドル)があった。
<資源確保の動き強まる>
業種別では、製造業、サービス業ともに減少する中、資源価格の上昇を背景に各国が鉱物資源権益確保の動きを強めた結果、「鉱業」が89.6%増の485億ドルと大きく伸びた(表3参照)。特に中国は、2月のチャイナルコの英リオティント株取得(143億ドル)のほか、第3四半期には大手資源商社中鋼集団による豪資源会社ミッドウェストの敵対的買収(14億ドル)などがあり、資源・エネルギー権益取得の動きを加速させた。
製造業では、上半期のタバコとビール業界での業界再編を背景に「食料・たばこ」が57.4%増の696億ドルと伸びている。「機械機器」も「精密機器」(260億ドル、2.5倍)、「輸送機器」(133億ドル、54.1%増)の伸びで、9.3%増の685億ドルとなった。
サービス業では、金融危機で打撃を受けた欧米金融機関への出資が相次いだ結果、「銀行」が730億ドルと32.3%増えた。第3四半期にはカタール投資庁の英バークレイズへの出資(35億ドル)などがあった。第4四半期に入っても金融機関への資本注入は続き、10月には、三菱東京UFJ銀行がモルガンスタンレーに議決権の21%に当たる78億ドルを出資した。
<日本企業の対外M&Aは拡大の傾向>
日本関連のM&Aは、対日M&Aが21.9%減の166億ドル、対外M&Aが17.4%減の305億ドルだった。ともに過去最高だった前年同期からはやや減少しているものの、対内、対外ともに00年前後のITバブル期を上回る水準にある。
特に日本企業の対外M&Aはリーマン・ショック後も拡大傾向を維持しており、08年の日本の対外M&Aは、10月20日現在で466億ドルと、07年通年の410億ドルを既に上回っている。第3四半期の主な案件としては、丸紅、関西電力、九州電力によるシンガポールの電力会社セノコ・パワー買収(28億ドル)、三菱商事などによるオーストラリアでの石炭採掘プロジェクトへの出資(25億ドル)、丸紅のチリ銅山会社アントファガスタへの出資(13億ドル)などがあり、上半期に続いて活発だった。
対日M&Aは上半期に集中しており、第3四半期に限ると10億ドル超の大型案件はなく、米キャタピラーによる三菱重工子会社の新キャタピラー三菱の株買い増し(5億ドル)が目立つ程度だった。
金融危機の影響から、対日M&Aは当面の間、小規模の動きとなるとみられる。特に最大の買い手である米国による対日M&Aが縮小する見込みだ。過去5年の対日M&A金額上位10件のうち7件が米国によるM&Aで、しかも買収対象は、金融・保険3件、不動産1件、投資ファンド関連2件、小売業1件で、金融危機の影響を大きく受けている業種が多い。先行指標となる発表ベースでみても、08年に入ってからの米国による対日M&Aは55件(07年は134件)、43億ドル(81.6%減)と大幅に減少している。
(注)トムソン・ロイターの定義による、投資会社などによる非事業目的のM&A。
(安田啓)
(日本)
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