株買い上げなどの総合経済政策を発表へ

(マレーシア)

クアラルンプール発

2008年10月29日

ナジブ副首相兼財務相は、世界金融危機に対応して、総合経済対策を11月4日の議会で発表することを明らかにした。主な内容として、株価安定に向けた政府系ファンドへの拠出、不動産、商業分野での外国投資ガイドラインの見直し、サービス産業の自由化などが盛り込まれる予定だ。また、世界金融危機は、欧米向け輸出需要減を招き、日系製造業の活動にも影響を与え始めている。

<サービス部門の自由化などで外資呼び込み>
経済総合対策の詳細は、11月4日の議会で明らかにされる予定だが、ナジブ副首相は大まかな方向性として現時点で次の5点を明らかにしている。

(1)政府系ファンドに50億リンギ(10月29日時点で1リンギ=27円)の資金を投入し、下落株を買いあげる。
(2)不動産、商業部門の外国投資ガイドラインを見直し、外国企業の誘致を強化する。
(3)サービス部門の自由化で、雇用を創出し投資を促進する。
(4)大型開発計画の見直し。
(5)金融機関と中央銀行による特別ファンドを通じ、中小企業への金融を支援する。

製造業では外資による100%の投資が認められているが、サービス、不動産、商業などは、政府がマレー人を優遇するブミプトラ政策の下で保護している。外国投資ガイドラインの見直しとサービス部門の自由化は、外資呼び込みと雇用創出を狙うものだが、これまで特にサービス部門は外資にとって不透明な部分も多く、これらの産業分野をどこまで外資に解放するのかは注目点である。

また、第9次マレーシア5ヵ年計画で開始した大型開発計画の見直しも行われる見込みだ。現在国内5ヵ所(イスカンダル開発地域、北部コリドー経済開発地域、東部コリドー開発地域、サバ開発コリドー地域、サラワク再生エネルギーコリドー地域)で大規模開発が動いているが、これらの見直しも行われる予定だ。国内の大型プロジェクトの中でも、これら5ヵ所は20年から30年にわたる長期大規模プロジェクトで、日系企業も注目している。

中銀は10月14日、「マレーシア金融機関は回復力があり、かつ健全である」と公式発表し、これまで金融システムの改革などを通じて国内金融システムは強化されており、十分な融資資金があるので国内金融システムは世界金融危機の中でも強固である、と強調した。

また、銀行、保険業界の全体資産の9割がリンギ建てであることから、他国の金融危機が国内金融機関に与える影響は少ないとの見方も示した。2日後の16日には、リンギ建て、外貨建てのすべての預金を2010年12月まで全額保証することも発表した。中銀は、この先12ヵ月は金融危機の影響を受けて厳しい時期になるが、10年には回復するという楽観的な見通しを示した。

金融危機前は、年明け以降続いてきたインフレへの対策が政府の重点事項だった。しかし、年初の2%台から8月には8.5%まで上昇したインフレ率も、落ち着きをみせてきており、08年は5.5〜6%、さらに09年第2四半期は4%を下回ると政府は予測している。インフレ対策は一段落したという見方だ。

一方で、新しく浮上してきた世界金融危機で、ナジブ副首相は、08年通年のGDP成長率は推定値の5.7%を下回り、09年見通しの5.4%も見直す可能性があることを示唆した。中銀のゼティ総裁も「景気減速を阻止することが最重要課題」と明確に示し、11月4日に発表される総合経済対策を軸に、景気対策に重点を置くことを強調した。

<日系企業にも影響出始める>
政府が比較的楽観的な見方を示す一方で、日系企業への影響は確実に出始めている。ある日系製造業は「特に欧米向け輸出需要は激減している。生産調整を行う必要があり、いつから始めるか本社と調整している」と語る。また中小企業では、生産調整による利益減少で、雇用調整(人員削減)の検討を始めているケースもある。輸送機器関係は、一時、原油高で販売が厳しくなっていたのに加え、金融危機でさらに厳しい状況に置かれている。また化学関係では、欧州の新化学品規制REACHに対応して好調だった欧州向けの輸出が、金融危機で需要減に直面している。

一方、運輸関係は、原油価格が下がったことでコスト面が改善しており、今のところ直接的な影響は見えておらず、輸出減の影響が貨物に出てくるまでには少しタイムラグがあるようだ。

進出日系製造業は輸出型が多く、その4分の1は電子電気企業である。電気電子セクターの最大輸出国である米国の金融危機が、日系企業の活動に与える影響は大きい。

(手島恵美)

(マレーシア)

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