大統領が企業救済に政府系投資ファンド創設を提案
パリ発
2008年10月27日
サルコジ大統領は10月23日、企業部門への支援措置として新規投資に関する事業所税の全額免除や、経営危機に陥った民間企業に政府が出資するための政府系投資ファンドの設置などを発表した。これに対して評価する声もあるが、保護主義に陥って外国投資家を遠ざける、との懸念も出ている。
<新規投資に関する事業所税を免除>
サルコジ大統領は総額3,600億ユーロの銀行救済措置を実施したばかりだが(2008年10月23日記事参照)、「国内で経済危機が既に始まっている」として、企業の投資促進や経営難に陥った企業への救済などを含む包括的な経済支援策を打ち出した。
具体的には、a. 2009年末までの期限付きで新規投資に関する事業所税(注1)を全額免除(約11億ユーロ)、b.企業の研究開発投資に関する税控除(注2)を即時還付、c.資金調達が困難な中小企業と銀行の融資をつなぐ仲介ポストを政府内で創設、d.政府系投資ファンドによる企業救済、などが政策の柱となる。
中小企業経営者同盟(CGPME)は今回の政策を「全般的に良識あるものだ」と評価しているが、現在、多くの中小企業が直面している資金不足を早期に解決できるものではないとする声もある。CGPMEが10月7〜20日に行ったアンケート調査では、ほぼ4割の中小企業が、融資コストの上昇や融資条件の厳格化などで資金調達が困難になったと回答していた。CGPMEは経営危機に陥った中小・零細企業が急増しているとして、政府に大規模な中小企業救済措置の実施を求めていた。
<政府系投資ファンドの財源は約1,000億ユーロ>
サルコジ大統領は「国益にかかわると判断される場合、国が経済活動に直接介入するための政策手段が必要だ。産業戦略上の強力なテコとなる政府投資ファンドを設置する」と表明した。大統領は国益を左右する「戦略的な技術やノウハウを持ち、敵対的買収の対象になりそうな企業の資本の安定」に向け、一時的な資本出資に同ファンドを使いたい考えだ。08年末までの立ち上げを目指す。EU加盟国にも、産業政策の一環として政府投資ファンドの創設を提案する。
大統領は財源の一部を政府債で調達するとしたが、政府系金融機関である預金供託公庫(CDC)の資産活用が主な財源になるとみられている。「レゼコー」紙(10月24日)は、財源はおよそ1,000億ユーロになると伝えた。
サルコジ大統領は経済・財政・産業相時代にも、経営破綻に陥った重電大手アルストムへの公的資本注入(06年に株式売却)や、医薬大手アベンティスとサノフィ・サンテラボのフランス資本同士の合併を仲介するなど、左派寄りの産業政策を実施していた。
同紙(10月24日)は「フランスがEUに提案する閉鎖的な経済モデルを引き金に保護主義に陥る可能性がある。外国投資家、特にアジアの投資家に対して、国家株主という盾をふりかざせば、彼らを長期的に遠ざけることにもなりかねない」と警鐘を鳴らしている。
(注1)地方税の1つ。納税年度の2年前に事業所が賃貸していた不動産評価額、事業に使用していた固定資産などの合計額を課税対象とする(フランスの税制を参照)。
(注2)研究開発費用の30%を法人税から税額控除できる(2007年9月6日記事参照)。
(山崎あき)
(フランス)
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