大手6行に公的資金を注入−中小企業への貸し渋りを防止−

(フランス)

パリ発

2008年10月23日

サルコジ大統領は10月13日、金融安定化に向け総額3,600億ユーロの銀行救済措置を発表、15日にはこれを盛り込んだ補正予算も成立した。しかし、株式市場の動揺は収まらず、政府はさらに10月20日、大手銀行6行に総額105億ユーロの資金を投入すると発表した。21日のパリ株式市場は好感したものの、不安定な動きが続きそうで、景気の減速は09年にさらに強まりそうだ。

<銀行間取引に信用保証>
銀行救済措置を盛り込んだ補正予算は上下院の審議を修正なしで通過、10月15日に成立した。銀行の資金調達を容易にするため銀行間取引に政府保証を供与する信用保証会社と、経営危機に陥った金融機関(保険会社を含む)への公的資本注入を目的とする国家資本参加会社(Societe de prises de participation de l'Etat:SPPE)を設立する。

前者による信用保証は2009年12月末までの時限措置で、信用供与枠を3,200億ユーロに設定した。担保として企業向け債権のほか、不動産ローンや消費者ローンなどの債権も認められ、信用供与が受けやすくなる一方で、自己資本の充実や中小企業への融資額の増加などの条件が課せられる。新会社の資本金のうち政府出資分は34%で、残りの66%は民間銀行が出資する。一方、SPPEによる公的資本注入(株式買い取り)には400億ユーロを充てる。財源は政府債を発行して確保する。

<景気後退懸念で株価急落>
フランス銀行連盟(FBF)は10月14日、「大統領が発表した政策は銀行の期待に沿ったものだ」と政府の対応を歓迎した。中小企業経営者連盟(CGPME)も「銀行による中小企業への貸し渋りが緩和されるだろう」と期待を寄せたが、一部のエコノミストからは信用供与に課せられる条件が銀行にとって厳しいものになるとして、利用の広がりを疑問視する声も出ている。

パリ株式市場のCAC40指数は10月13日、銀行救済措置の発表を好感し急反発、11.18%上昇した。14日も2.75%と続伸したが、15日は米国の景気後退懸念が強まったことで、6.82%下落、16日も低下を続けた。「レゼコー」紙(10月16日)は株式市場の今後の動きについて「世界的な景気減速を受け、投資家や証券アナリストは企業収益の大幅な下方修正を見込んでいる。株式市場の反発時期はいつになるか見えない状況だ」との悲観的に見ている。

<財政出動はせず>
フィヨン首相は10月15日、金融不安について「公的資本の注入が必要な銀行は現時点ではない」とした上で、「金融危機の根は深く、われわれは危機を脱したとは思わない」との慎重な見方を示した。09年の経済成長率についても、政府予算編成(2008年10月10日記事参照)の前提となった1.0〜1.5%を大きく下回る可能性が高いことを認めた。

IMFは10月8日、フランスの09年の経済成長率を0.2%と予測。国内の民間エコノミストの中にはマイナス成長を予測する声も出ているが、フィヨン首相は財政出動による景気浮揚策は実施しない考えを確認した。金融危機・景気後退の中でも「歳出を抑える財政運営の姿勢は変わらない」として、09年政府予算案は変更しない方針だ。GDP比で2.7%と設定していた財政赤字は、景気減速に伴う税収減でさらに拡大することになりそうだ。

政府は、SPPEの財源となる政府債の発行について、公的債務(08年6月末で1兆2,693億ユーロ)は一時的に拡大するものの、将来は買い取った株式の売却益を債務返済に充てるため財政負担は限定的になるか、場合によっては国の利益につながる、と説明している。

<銀行に105億ユーロを注入>
政府は10月20日、フランスの大手銀行6行に総額105億ユーロの資金を投入すると発表した。政府は銀行の自己資本増強を支援することで家計や中小企業向けの融資を拡大させたい考えだ。21日のパリ株式市場は公的資金の投入を好感し、主要銀行株は軒並み上昇した。

これは10月13日に発表されたサルコジ大統領の金融安定化政策の一部を具体化したものだ。公的資本注入のため設立されたSPPEが、銀行が発行する永久劣後債を買い取る形で資金を供与する。BNPパリバは、劣後債引き受けで各銀行の自己資本比率はおよそ0.5ポイント上昇するとしている。

政府は金利を市場金利より4ポイント高く設定するほか、銀行に公的資金援助の見返りとして、a.家計や中小企業向け融資額の拡大(3〜4%)、b.経営者の報酬に関する倫理規定の施行(退職金の上限設定、報酬委員会の設置など)、を義務付ける。収益悪化にもかかわらず、経営者が巨額の退職金を受け取るゴールデン・パラシュート問題について、社会規範に反するとして大幅な是正を求める方針だ。

21日のパリ株式市場は公的資金注入を好感し、BNPパリバが7.5%、ソシエテ・ジェネラルが10.2%、クレディ・アグリコルが15.7%上昇した。政府は今回、公的資金注入の具体的な額を提示することで株価の動きを安定させる狙いもあったようだ。株式市場は銀行株について、13日の救済措置発表を好感しながらも、資金不足の噂などを契機に大きく変動する不安定な動きを続けていた。ラガルド経済・産業・雇用相は同日、金融不安が続く場合には、09年にも同様の措置を実施する意向を示した。

金融安定化法のもう1つの柱である銀行間取引への政府保証供与について、政府は信用保証会社(la societe francaise de refinancement de l'economie:SFRE)を17日に設立した。24日までに信用供与サービスを開始する予定。フィヨン首相は10月20日、SFREを通して国の信用保証を受ける銀行にも企業や家計、地方自治体への融資額を3〜4%増やすことを義務付ける方針を確認した。フランス銀行(中央銀行)は、08年8月の融資額は前年同月比7.6%増加しているが、金融不安定化の影響で9月以降は伸び率が大きく減速するとみている。

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(山崎あき)

(フランス)

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