金融危機でドイツ鉄道(DB)子会社の株式公開を延期

(ドイツ)

ベルリン発

2008年10月22日

2000年以降国内で最大の民営化案件となるドイツ鉄道(DB)の運行子会社(DBML)の株式公開は、10月28日に予定されていたが、金融危機により延期されることが決まった。現在の不安定な市場では適正な価格で取引される保証がない、というのがその理由だ。

ドイツ鉄道の民営化の具体的な進め方については、大連立政権のキリスト教民主同盟・社会同盟(CDU/CSU)と、民営化に消極的な社会民主党(SPD)との間に大きな意見の相違があった。結局、旅客・貨物の運輸・サービス部門だけを切り放して子会社のドイツ鉄道モビリティー・ロジスティクス(DBML)として、その株式の24.9%だけを民間に売却することで両党の意見がまとまり、民営化法が連邦議会で可決された。線路や駅舎などのインフラは国有のドイツ鉄道にそのまま残る。

シュタインブリュック財務相はDBML株式公開(IPO)の延期を発表するに当たって「現在の状況では連邦の資産を市場で取引すべき時期ではない。金融市場が再び健全化し、IPOを実行するのにふさわしい環境が整えば実施されるだろう」と述べた。

<幹線整備などにも影響>
延期には、09年9月に予定されている議会選挙との関係も影響しているとみられる。今回の金融危機を受けて、民営化が十分な利益を納税者に還元できないとして、すべての政党の政治家が民営化を凍結するよう政府に要求していた。この数週間のDBMLの株式売却見込額は、政府の予測した50億〜60億ユーロを下回り、市場関係者は50億ユーロ以下になるとみていた。市場関係者は今後の対策として、IPOを延期するという選択肢のほかに、価格や販売比率の引き下げもあり得るとみている。

これから半年以内に金融市場が回復し、政府が満足できる水準で株式公開できる保証はどこにもない。しかし、政府としては09年夏の選挙キャンペーンが始まる前までに民営化を実行に移さざるを得ず、それ以降になる場合は9月以降に発足する新政権が、民営化について再度連邦議会の承認を取り付ける必要がある。

年々増大する鉄道輸送を反映して、DBが必要とするコストも増加してきている。既に幹線のうち3万4,000キロ分の速やかな整備が必要とされているが、財源不足のため実施されておらず、ルール地方や港湾地域への鉄道網拡充も着手されていない。運輸・建設・住宅省の分析では、04年から15年までの間に旅客輸送は380億人キロ(17%)、貨物輸送は1,520億トンキロ(65%)それぞれ増加するものとみられ、このような需要に応えるためには、民間資本の導入は不可欠となっている。

(山室啓介)

(ドイツ)

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