09年はほぼゼロ成長に−主要機関の経済予測−
ベルリン発・デュッセルドルフ発
2008年10月21日
連邦政府、主要経済研究所、経済団体が発表した秋季の主要経済予測によると、2008年は従来どおり2%弱の成長を見込むものの、09年は0%台前半の成長にとどまるとの予測が大半を占めた。一方で、09年には深刻な景気後退(リセッション)に陥るとの見方も出ている。金融危機の影響がどれほどの規模で、どれほどの期間続くのかが今後の焦点になる。景気対策としては財政出動でなく、さらなる改革の推進を求める声が強まっている。
<09年の成長率を0%台前半に引き下げ>
主要経済研究所(注)、連邦政府、ドイツ商工会議所連合(以下、DIHK)などの08年秋季経済予測が出そろった。08年の成長率については金融危機や世界的な景気減速にもかかわらず、春季の予測と同様にほぼ同様の1%台後半の成長を見込んでいる。しかし、09年は春季の1%台前半の予測から、0%台前半に引き下げられた(表1参照)。
いずれの予測でも現状について経済の減速は明らかとしている。主要経済研究所は「08年秋、ドイツ経済はリセッション入りの瀬戸際にある」、連邦政府は「ドイツ経済は負荷テストの中にある」と記している。また、原材料価格高騰に伴うインフレ圧力、一部の国・地域における不動産市場の調整、さらには金融危機の先鋭化が世界経済の負担になっていると指摘している。
地域別にみると、米国では多くの指数が弱い景気状態を示し、欧州では先行指数が、ここ数ヵ月急速に落ちており、経済はこれ以上成長しないとしている。日本では需要が減退している。ただし、新興国では、拡大のテンポは落ちているもの、生産の伸びはなお続いているとみている。
金融、不動産の両部門が経済成長に占めるシェアが大きい国では、リセッション入りの危機にあるとして、米国、英国などにおける今後の景気後退を示唆した。
ただし、今後数ヵ月で金融部門の安定化に成功すれば、09年半ばから世界経済は次第に回復すると見立てている。金融部門の安定化に成功しない場合は、実体経済における投資の減少をもたらし、不安定な欧米の金融システムは、グローバルな経済のつながりを介して、安定的な金融システムを有する国の経済に対してもダメージを与えると予測する。
<個人消費により09年後半に成長回復を見込む>
グロース連邦経済・技術相は10月14日に財界首脳や銀行界首脳と会談後、世界的な金融危機の影響にもかかわらず、ドイツ経済はなお抵抗力があるとの見方を示した。ドイツ産業連盟(BDI)もドイツ産業の強さを指摘している。主要経済研究所は、ドイツ企業はここ数年のリストラによって強くなっているという。また金融部門は伝統的な銀行業務にかなり重きを置いているため、世界的な金融危機の影響は、他国よりも小さいという。国内では総じて、金融危機がドイツの金融機関にもたらす影響は限定的で、産業界は危機を乗り切れる体力があるとみている。
08年下半期のリセッション入りを予測する見方は既にあった(2008年8月27日記事参照)が、主要経済研究所は対照的に、08年下半期は成長を維持すると予測する。ただし、個人消費はマイナス幅が拡大し、投資の伸びも小さくなり、外需も減退するとみている。
09年については、金融危機に伴う実体経済の減速傾向は織り込まれているものの、欧米各国が発表した一連の金融危機対策により金融機関が正常化に向かうとの前提に立つ予測が多く、09年中に経済は成長を回復するとみている。
主要経済研究所によると、経済を支えてきた外需は、ドイツ経済の成長を牽引、または下支えする力を失うが、新興国の需要は依然として強く、世界経済を支えると予測している。また為替市場におけるユーロ安により価格競争力が増し、09年後半には輸出は回復に向かうとみている。
内需については、設備稼働率の低下や、金融危機の影響による資金調達コストの増加、売り上げや受注見通しの軟化により、経済のもう1つの柱であった投資の後退を予測している。さらには、失業率も下げ止まると見ている。一方で、ここ2〜3年の失業率の低下、エネルギー価格の下降に伴うインフレ率の低下により、個人消費が経済を下支えすることが期待される、としている。
<金融危機の拡大続けばリセッションに>
連邦経済・技術省の外国貿易諮問委員会は、金融危機がドイツの実体経済に及ぼす影響について、「現時点ではだれにも正確に予測できないが、大きな損害を見込む必要があり、輸出への影響は大きい」とみているようだ。
主要経済研究所は今回の予測で、今後も金融危機の拡大が止まらない場合の「リスクシナリオ」を併せて発表した(表2参照)。欧米以外にも金融危機が拡大し、実体経済ではさらに投資が落ち込む。世界経済全体が後退し、資金調達コストが上昇し、家計も先行き不透明で消費を押さえ込む。これらが現実になる場合、70年代から80年代初頭のオイルショック時にみられた顕著なリセッションに陥ると予測する。投資は大幅に減退し、労働市場も明らかに悪化する。「リスクシナリオ」の可能性は基本シナリオに比べれば低いものの、ここ数週間、リスクシナリオに近づく可能性は高まっていると主要経済研究所は指摘する。
<産業界は景気テコ入れ策を要望>
経済界は秋季の経済予測の内容を、08年第2四半期GDP発表時に続いて冷静に受け止めている。DIHKは製造業の景況感の悪化について、景気循環的な側面があると指摘している。BDIは経済の勢いは明らかに弱まったが、連邦政府の金融危機対策により、市場は安定化すると確信している。
主要経済研究所、DIHK、BDIは、景気対策として、所得税率のフラット化、社会保険料負担の軽減など改革の推進、あるいは成長や雇用を生み出す教育、研究、インフラへの投資を求めている。加えて、BDIは例えば温室効果ガスの排出権取引や自動車業界における気候変動対策などの負担の見送りも要望している。一方で財政再建路線の維持も求めている。
また、グロース連邦経済・技術相も経済見通し発表の際のプレスリリースで、「現在の内外の脆弱(ぜいじゃく)な経済状況下で、これ以上の負担には耐えられない。これまでの成長政策を推進するとともに、所得税率のフラット化、社会保障保険料の引き下げにより、国民負担を軽減する必要がある」と述べた。また、「今後は企業や家計に関し、負担となる措置は控えるべきだ。例えば、個人用乗用車に関する欧州全体での二酸化炭素(CO2)削減目標設定により、ドイツ自動車業界に対しこれ以上負担をかけるべきではない」と産業界の要求を政府としてもEUに求める姿勢をみせた。加えて、「中小企業などの信用力の低下に対して、復興金融公庫の資金を投入するなど、投資の拡大を図る」として、政府支出を削減してでも、民間投資を維持させたい意向を示した。
(注)主要経済研究所とはifo経済研究所(ifo)、キール世界経済研究所(IfW)、ハレ経済研究所(IWH)、ライン・ヴェストファーレン経済予測研究所(RWI)、ハンス・ボェックラー財団マクロ経済・市況研究所(IMK)、ウィーン高等研究所(IHS)、オーストリア経済研究所(WIFO)、チューリヒ工科大経済研究所(KOF)。
(太田雄彦、小谷哲也)
(ドイツ)
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