景気後退で政府は09年予算案の見直し発表
ブダペスト発
2008年10月20日
金融危機のあおりを受け、10月に入ってブダペスト証券取引所指数(BUX)、フォリント相場とも大きく下落した。政府は09年3%の経済成長を見込んで編成した09年予算案の見直しを発表した。国内の一部の自動車・部品メーカーは生産調整のための製造停止、従業員の解雇などを発表している。今後外国市場の縮小に伴い、輸出に依存している国内経済の先行きが懸念される。
<株価やフォリントが大幅下落>
ブダペスト証券取引所指数(BUX)は2007年7月に3万118ポイントの高値を付けた後、徐々に下落を始め、08年10月10日には終値1万4,484ポイントまで下落した。
10月9日には国内銀行最大手のOTP銀行(ハンガリー)が国有化されるとのうわさが流れ、同社株が1日で14%急落、政府が記者会見で根拠のない憶測にすぎないと否定するなど、昨今の金融市場の混乱に翻弄(ほんろう)されている。
為替市場は、08年2月に中央銀行がフォリントの対ユーロ交換レート変動枠を撤廃(2008年3月3日記事参照)、08年4月から5月にかけての基準金利の引き上げ(2008年6月4日記事参照)などを行った影響で、2月の1ユーロ265フォリントから8月には229フォリントまで上昇、フォリント高の傾向が続いていた。
しかし、欧州に飛び火した金融市場の混乱を受け、10月に入りフォリントは大きく下落している。10月1日の1ユーロ241.52フォリントから10日には264.03フォリントになった。
さらに、週明けの10月13日に国際通貨基金(IMF)が「政府への財政支援を惜しまない」とする声明を発表したことが、投資家の不安をあおり、15日には266.09フォリントまで下落している。その後、16日には欧州中央銀行(ECB)がハンガリー中央銀行に対し50億ユーロの特別貸し出し枠を設けることを発表している。
フォリントの急激な変動を受け、10月14日にMKB銀行(ハンガリー)は外貨建て貸出停止を発表。続いてフォルクス銀行(オーストリア)もスイス・フランおよび米ドル建ての貸出停止を発表している。
株価とフォリント下落の理由について、金融専門家からは、政府債務残高がGDPの65%以上と財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)なこと、ユーロやスイスフランなど外貨建て貸出率が高く(08年8月時点で個人向貸出の81.7%、出所:中央銀行)、自国通貨下落による返済能力低下などのリスクが高いことを指摘する声が出ている。
<成長率を2%以下に直し09年予算案を再策定>
リーマンブラザーズ破綻以降の経済情勢の激変を受け、政府は9月中旬に議会に提出した09年予算案の見直しを発表した。
同予算案の前提となった09年経済見通しでは、経済成長率を3.0%としていたが、2.0%以下の成長率に修正し、再度予算案を策定するとしている。
同予算案と併せて、減税による経済の競争力強化を目指して発表した税制改革案(2008年10月14日記事参照)については、財政赤字削減による経済安定化を優先し、先送りした。対GDP財政赤字の目標については、08年は当初目標のGDP比4%から3.4%に、09年は3.2%から2.9%に変更したいとしている。
また、10月13日に議会は、貯蓄補償機構(NIDF)による銀行預金の補償限度額を600万フォリントから1,300万フォリントに引上げることを決議した。1,300万フォリント超についても政府が全額補償するとしている。
中央銀行は、10月8日に必要な対策はすべて講じる用意があるとしながらも、国内の金融システムは安定しており、市場介入の必要はないとコメントしている。
米欧の主要銀行による政策金利の協調引き下げ時にも、インフレ抑制などを理由に現状の8.5%の金利を維持、利下げは実施していない。
16日には、フォリント資産の売込みよる銀行の外貨不足などを受け、ユーロの流動性供給策として、欧州中央銀行(ECB)から50億ユーロの支援を受けることで同意した。
<8月の輸出入、03年以降初のマイナス>
鉱工業産業全体の19.4%を占める自動車・同部品の輸出比率は、約90%(自動車94%、同部品88%)に達し、国内産業はEUを主とする外国市場に大きく依存している(ハンガリー投資・貿易促進公社)。
中央統計局の8月の貿易収支(速報)の発表では、前年同月比で輸出が0.7%減、輸入が1.9%減と03年以降初めて輸出入ともに前年比マイナスとなっている。今後、外国市場の縮小に伴う国内経済への影響が強く懸念される。
IMFは10月8日、金融危機が多くの新興国の成長に影響を与えるとして、ハンガリーの経済成長率予想を政府発表の「08年は2.3%、09年は3%」より低い、「08年は1.9%、09年は2.3%」と発表した。
<自動車業界で生産一時停止や従業員解雇>
金融危機は国内の自動車・部品生産にも暗い影を落とし始めている。
西部のセントゴットハード市でエンジン43万基、シリンダーヘッド50万個などを生産(07年)しているGM(米国)は、生産調整のため、同工場のエンジン製造を一時的に停止したと発表した。
西部ジュールの自動車用ゴム・プラスチック部品製造ウェリタス(ドイツ)は従業員1,000人のうち100人を解雇、西部ショプロクベシュドウのシートベルト製造アウトリブ(スウェーデン)は従業員750人中26人を解雇すると発表している。
一方、北部のエステルゴム進出しているスズキ(日本)は、「スイフト」「SX4」などの乗用車を07年に23万台生産、08年には30万台への増産計画を発表しているが、現在のところ増産計画に変更はないとしている。
また、6月に8億ユーロを投じて、同社初となる東欧の製造工場を南東のケチケメート市に設置すると発表したダイムラー(ドイツ)は、進出計画に変更はないと発表している。
(和波拓郎)
(ハンガリー)
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