EU首脳会議、金融危機で包括的取り組みを採択

(EU)

ブリュッセル発

2008年10月20日

EU各国首脳は10月15〜16日の欧州理事会(EU首脳会議)で、EU全体として包括的に金融システム安定化に向けて取り組んでいくことで合意した。また、グルジアをめぐる問題に関しては、ロシアの南オセチアとアブハジア周辺地帯からの軍隊撤退を歓迎したが、ロシアとのパートナーシップ協定の交渉再開で意見が割れた。

<金融危機対策室の設置を決定>
EU首脳会議は、新たな取り組みとして、金融危機対策室(the financial crisis cell)の設置を決定し、欧州委員会委員長、欧州中央銀行(ECB)や各国中銀の総裁、各国首脳らが一体となって、迅速かつ効果的に金融危機に対応するための体制を整備することで合意した。また、国境を越えて展開する金融グループの監督体制を強化する方針を打ち出すとともに、銀行などの自己資本に関する指令(資本要求指令)改正に関する作業や、欧州委が近々改正案を提出予定の格付け機関に関する規則など、金融システム安定化に向けた取り組みの迅速化を支援することで合意した。

そのほかに、公的支援を受ける銀行などの役員報酬が高額であることに対する批判が強まっているため、企業役員の報酬の適正化について、加盟国に対し何らかの措置を取るよう要請した。

また、予算政策については、安定・成長協定は引き続き遵守しなければならないとしたものの、協定で認められている通り現在の例外的な状況を反映した形で適用されるべきであるとし、柔軟な対応に含みをもたせた。

2008年下半期EU議長国フランスのサルコジ大統領は今回、国際的な金融システムの安定化を目指して改革の必要性を強調した。欧州委のバローゾ委員長も、銀行の資本規制、預金保証制度、会計基準の見直しなどの対応策を歓迎するとともに、グローバル化が進む金融市場のもと、欧州だけの対応だけでは十分でないと指摘。サルコジ大統領とともに、グローバルな金融システムの安定化を目指して、新たな枠組みを協議するグローバルな国際対話の機会創出が必要であると力説した。

<エネルギー供給源・供給ルートを分散化>
議長総括では、エネルギー安全保障について、電気・ガスの域内市場に関する立法化パッケージを早期にまとめることを要請するとともに、エネルギー効率化アクションプランの実施推進、エネルギー源の分散化、市場の透明性の確保、一時的な供給混乱に対応するための危機管理メカニズムの構築、液化天然ガスターミナルの整備などの基本インフラの整備の必要性がうたわれた。

さらに、供給源、供給ルートの分散のため、エネルギー資源産出国、パイプラインの通過国らとの関係強化を表明。09年春にその時の議長国であるチェコの主催でカスピ海諸国とパイプラインの通過国による会合が開催される予定であることを歓迎すると述べている。

<対ロシア関係で足並みそろわず>
他方、EU首脳会議は、グルジア問題に関して、ロシア軍の南オセチアとアブハジア周辺地帯からの撤退の動きとともに、両地域の安全と地位に関するジュネーブでの国際協議開始を歓迎した。ただし、首脳会議の議長総括は、欧州委員会と理事会に対して、11月14日にフランスのニースで開催予定のEU・ロシア首脳会議に向けて、対ロシア関係を慎重に検討していくとの表現にとどまった。ただ、モルドバ、グルジア、ウクライナなど東方近隣諸国との関係は強化することで合意した。

EU27ヵ国首脳は今回、ロシアとのパートナーシップ協定の交渉再開をめぐって、意見の一致をみることができなかった。当地報道資料によると、EU議長国フランスをはじめ、大多数の加盟国がパートナーシップ協定交渉の再開に向けて、今回のロシアの取り組みを評価した。しかし、エストニア、リトアニア、ラトビア、ポーランド、スウェーデン、デンマーク、チェコ、英国など8ヵ国が、南オセチアとアブハジア周辺地域からの撤退だけでは不十分であるとの認識を示したという。

このようにEU・ロシア首脳会議前までの交渉再開の見通しが暗くなる中、ソラナ共通外交・安全保障上級代表は「欧州委や理事会で開始された対ロシア関係の検討が終わり次第、交渉は再開されるだろう」との見通しのもと、EU・ロシア首脳会議前の交渉再開に期待感を示した。ルクセンブルクのアッセルボルン外相も記者団を前に、「ニースでのロシアとの首脳会議開催後、直ちに交渉は再開されるだろう」との見解を示した。

<リスボン条約発効を目指し再協議へ>
また今回のEU首脳会議では、アイルランドにおけるリスボン条約批准否決を受けて、カウエン同国首相が分析結果を報告した。12月開催予定の次期EU首脳会議で今後の取り組みに向けた解決策を協議することで合意した。欧州議会のポテリング議長は、09年6月の欧州議会選挙を見据え(注)、「次期首脳会議は、近い将来にリスボン条約発効を目指す道筋をつけるべく、意見の一致をみなければならない」と語った。

<賢人会議のメンバー承認>
なお、EU首脳会議は、07年12月の首脳会議で設置が決まった賢人会議に関して、ゴンザレス議長(スペイン元首相)らが提示した9人のメンバーを承認した。賢人会議はEUの将来を議論するために提唱された会議であり、今回の議長総括で出来る限り早く議論を進めることが明記された。

(注)現行の条約とリスボン条約とでは全体の議席数、および各国に配分される議席数が異なるため、欧州議会では欧州議会選挙前の発効を求める声が強い。

(岩田知統)

(EU)

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