09年の経済成長率は3%台にとどまる公算

(韓国)

ソウル発

2008年10月17日

世界的な金融不安は急激なウォン安、株安をもたらした。韓国経済は減速感を強めており、2009年の実質GDP成長率は3%台にとどまるとみられている。一部の輸出企業はウォン安メリットが期待されているものの、全般的に見ると、国内外の景気悪化や輸入価格の上昇による企業収益の悪化が懸念される。

<ウォン、株価とも大きく下落>
世界的な金融市場の混乱は韓国経済にも大きな影響を及ぼしている。ウォンと株価の下落が深刻だ(図参照)。このところ、ウォンの対ドルレートはウォン安基調となっていたものの、9月中旬までは1ドル=1,100ウォン台を維持していた。しかし、9月末以降は下落速度が増し、10月には一時、1ドル=1,400ウォン台と、通貨・経済危機以来10年7ヵ月ぶりの安値を記録した。

07年末以降、経常収支が赤字基調となっていることに加え、リスク許容度が縮小した外国人投資家が韓国からの資金引き揚げに動いたこと、円キャリー取引の解消が膨らんだこと、韓国の輸出企業がウォンへの換金を遅らせたことなどが、急激なウォン安の要因だ。直近ではやや戻しているものの、依然として不安定な状況だ。

株価は米国など世界的な株安の影響を受けている。特に10月に入ってから下げ足を早め、韓国総合株価指数(KOSPI)は一時1,200ポイント台に下落した。

このような中、政府・韓国銀行(中央銀行)は断続的にウォン買い介入し、金融市場の混乱の解消に向けて10月9日には利下げに踏み切った(2008年10月10日記事参照)

photo

<経済成長率を下方修正>
国内外の主要機関は相次いで経済成長率の予測値を下方修正している。有力民間シンクタンクの1つであるLG経済研究院は10月14日、08年の実質GDP成長率を当初予測の4.9%から4.4%に下方修正した。金融市場の混乱などによる世界経済減速が輸出鈍化をもたらすというのが主な修正理由だ。09年の成長率も3.6%にとどまるとみている。そのほかの主要内外機関も金融不安が実体経済に波及し始めた最近の状況を踏まえ、相次いで従来の予測値を下方修正している。いずれも09年の実質GDP成長率は3%台の低成長にとどまるとみている。

<一部輸出企業除き収益悪化>
金融市場の混乱の中でも、特に、最近の急激なウォン安ドル高が韓国企業の収益に大きく影響している。主要業界の影響は次のとおり。

○食品業界
食品業界は輸入依存度が高く、ウォン安ドル高の影響を大きく受けている。CJ、大象など主要食品メーカーは、ウォン安ドル高によりトウモロコシなどの穀物原料価格が30%以上も上昇し、収益が悪化する見通しだ。ウイスキーやワインなどの酒類も、輸入価格が30%以上上昇している。消費低迷が続いており、食品メーカーは輸入価格上昇を販売価格に転嫁しにくい厳しい状況にある。

○自動車業界
輸出比率の高いメーカーはウォン安効果を享受する見通しだ。GM大宇は生産量の90%以上を輸出しており、ウォン安ドル高による収益向上が見込まれる。「毎日経済新聞」(10月11日)は「輸出の多いGM大宇は微笑」という見出しを付けた。ルノーサムスンも近年、輸出比率が高まっており、ウォン安メリットが期待される。

輸入車業界はウォン安ドル高の打撃を受けている。特に、BMWなど外貨建てで完成車を輸入している販売業者は業績悪化が予想される。

○航空業界
航空会社は燃料費、航空機購入、保険料などの70%をドルで決済しているため、為替差損が発生している。大韓航空は1ドル=10ウォン下落するごとに200億ウォンの損失が発生すると報道されている。ウォン安による直接的な影響だけでなく、海外旅行需要が減少する恐れが強いことも懸念材料だ。

○小売業界
ウォン安、株安により消費者マインドが冷えており、小売業界は厳しい状況に置かれている。主要デパートの10月の定期セールの売上高は伸び悩んだ。ロッテ百貨店、現代百貨店のセール期間の1日当たり売上高は、07年はそれぞれ前年同期比17%増、13%増と好調だったが、08年の伸び率はそれぞれ4.7%、4.1%と低かった。特に、衣類と家庭用品の売り上げが不振だった。

<「KIKO」による損失も急増>
輸出企業の為替差損の発生を防ぐ目的で設計されたデリバティブ商品の「KIKO」(「ノックイン、ノックアウト」)が、急激なウォン安で皮肉にも差損をさらに拡大させている。ウォンレートが当初、想定した限度額を超えて下落した場合には、購入者に大きな損失が発生する仕組みになっているためだ。

「ソウルファイナンス」(10月9日)は中小企業中央会の推計を引用し、「(中小企業の総損失額は)1ドル=1,200ウォンの場合には1兆1,033億ウォン、1ドル=1,300ウォンの場合には1兆4,385億ウォンに増える。1ドル=1,500ウォンを割れば2兆ウォンを超えよう」と紹介している。

政府はKIKOを購入した中小企業の被害は深刻だとして、対策に乗り出した。10月1日に「中小企業流動性支援方策」を発表し、KIKOによる損失に苦しむ中小企業に対して緊急融資を行うことにした。

<日系企業にも大きな影響>
在韓日系企業は一般的に、韓国企業向けや韓国の最終消費市場向けの販売比率が高いため、今後、売上高が伸び悩むことを懸念している。原材料などを円建てで日本から輸入してウォン建てで販売する日系企業の場合、顧客との製品価格の改定交渉次第では、業績悪化を免れないとの危惧も出ている。さらに、「KIKOの損失を受けた韓国企業からの代金入金が遅延している」、「為替変動幅が大きいため日本本社への送金ができない」、「外部事業環境が不透明なため事業計画が立てられない」などの声も聞かれた。

(百本和弘、崔喜楽)

(韓国)

ビジネス短信 48f6f48aac9b8