農業・食肉関係企業の株価が急落−金融危機の農業・農村への影響(2)−

(米国)

シカゴ発

2008年10月17日

7月以降の穀物価格の下落が止まらない。投機資金の動きのほか、好天による生産、在庫量の回復傾向も相場を弱含みにしている一因だ。また、金融危機が拡大するにつれ、農業・食肉関係企業の株価の下落も顕著になっている。今後の経済の動きは不透明感がぬぐえないが、個人消費、需要動向を占う意味でも穀物価格の底入れのタイミングが注目される。

<下落を続ける穀物価格>
10月10日のシカゴ商品取引所(CBOT)の先物価格(1ブッシェル当たり)は、トウモロコシが4ドル8セント1/4、大豆が9ドル10セントと、ともにストップ安を記録した(注)。6月末から7月にかけて史上最高値を記録したCBOTの先物価格(2008年10月6日記事参照)は、わずか4ヵ月足らずの間に、トウモロコシが約48%、約44%と大幅に下落した。10月に入ってからは断続的にストップ安を記録、9月29日以降の2週間でともに1ドル下落している。

これは、インデックスファンドやヘッジファンドが大量の手仕舞い売りや解約に伴うポジション整理をしているのに加え、景気後退の懸念の高まり、信用収縮、需要減退の見通しなどから、穀物価格も株価や原油価格と同様の動きを示しているものである。

この流れに追い打ちをかけているのが基礎的要因だ。農務省(USDA)は9月30日と10月10日に最新の穀物在庫(PDF)需給見通し(PDF)を公表したが、これによるとトウモロコシと大豆の2007/08穀物年度(07年9月〜08年8月)の期末在庫と08/09年度の生産量・期末在庫は、いずれも市場の事前予測を大きく上回った。これは、08年夏までの価格高騰や景気後退による需要減退を反映して、07/08年度の期末在庫が増加した結果、08/09年度の期首在庫が増加し、供給量の増加につながったためだ。

また、ハリケーンの影響が懸念された9月の降雨は結果的に土壌に適度な水分をもたらす恵みの雨となり、トウモロコシの1エーカー(約40アール)当たりの単位収量を前月より1.8ブッシェル引き上げた。大豆は6月の洪水後に行われた再作付けにより、作付・収穫面積がそれぞれ220万エーカー引き上げられた。これらの結果、08/09年度の期末在庫率(09年8月)は、トウモロコシが9.1%(前月比1.0ポイント上昇)、大豆が7.4%(前月比2.8ポイント上昇)とやや改善し、これまでUSDAが需給逼迫基調との見通しを示してきたのとは対照的に、相場には弱材料となった。

<需要減退懸念が株価の下押し要因に>
CBOTの穀物の先物価格と歩調を合わせるかのように、10月に入り、農業関係企業の株価(ニューヨーク証券取引所)は、軒並み急落している。ここ1年以内の最高値と比較すると、世界最大の農業機械メーカー、ジョン・ディアは、10月7日に36ドル(高値は1月14日93.58ドル)、化学肥料のモザイクは同じく10月7日に33.91ドル(6月17日161.01ドル)、また、穀物・バイオ燃料メジャーのアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)は10月9日に15.29ドル(4月21日47.79ドル)、同メジャーのブンゲは10月9日に42.87ドル(1月14日132.34ドル)となっている(図1参照)。

株価全体の低迷に加え、USDAの公表にもあるように、景気後退による需要減退の見通しが強まったことが、農業関連企業の株価の下押し圧力になっているとみられている。

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<食肉関係では買収・合併の動きも>
また、飼料価格高騰に苦しむ食肉関連企業の株価の下落も顕著だ。鶏肉業界1位のピルグリム・プライドは、10月6日に2.17ドル(07年10月1日35.44ドル)まで下落。牛肉・鶏肉業界2位のタイソン・フーズは10月9日に10.71ドル(08年4月21日19.35ドル)、豚肉業界1位のスミスフィールドは10月8日に12.98ドル(07年10月1日31.94ドル)まで下落した(図2参照)。食肉販売数量の大きな落ち込みは見られないものの、農業関連企業と同様の理由に加え、食肉価格の下落、ドル高や中国の生産増加傾向による輸出の減少などが懸念材料となっている。

鶏肉に特化しており、バッファーがないために特に苦しい経営が続くピルグリム・プライドは同業他社との合併がうわさされるほか、タイソン・フーズは優先株2,000万株の売却や優先債権4億5,000万ドルの換金などによる7億500万ドルの資金調達を含めた15億ドルを軍資金に、海外を含めた企業買収による体力強化に意欲を示している。ジョン・タイソン会長は「世界(経済)で起こっていることを考えると、格安案件が出てくることもあり得る」とし、負債償却、買収推進、戦略的投資によるビジネスの展開を図り、難局を乗り切る考えを明らかにしている。

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<懸念される農家経済への影響>
最近の穀物相場の動向は、外部市場からの投機資金が流入して先物市場の流動性が過剰になり、これが価格を押し上げる大きな要因であったことを明らかにしつつある。また、金融危機と信用収縮が、食料関係を含む商品需要や価格にも大きな影響を与えることも鮮明になってきた。

このような状況の中、米国経済を下支えしているともいえる今後の農家経済への影響が懸念される。投機資金の急激な流出による先物価格の下落は、先物市場でヘッジ取引をしていた穀物エレベーターなど集出荷・流通業者の採算を悪化させ、先物市場の流動性の減少は、これらの業者のヘッジを一層困難にする恐れがある。このような農家と直接取引を行う集出荷、流通業者の信用悪化は、農家経済にも大きな影響を及ぼしかねないが、トウモロコシが4ドル、大豆が9ドルを探る展開の中で先物市場の価格の下落はどこまで続くのか、市場の専門家の見方は、2通りに分かれる。

下落が続くという見方は、金融危機と信用収縮で投機資金がさらに流出するとみられることを根拠とする。一方、間もなく価格は下げ止まるとする見方は、やや改善されたとはいえ、在庫率は依然として低水準にあり、基本的な需給動向は変わらず、バイオ燃料政策による強い需要の下支えがあることを根拠とする。収穫期は価格が弱含みで推移することを念頭に置いた上で、農家経済、農業・食肉関係企業、個人消費などの動向を探るためにも、穀物価格の底入れのタイミングが注目されている。

(注)トウモロコシは1ブッシェル=25.401キロで08年12月限の価格、大豆は1ブッシェル=27.216キロで08年11月限の価格。

(三野敏克)

(米国)

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