消費にも金融市場の混乱が波及−08年9月の小売売上高−

(米国)

ニューヨーク発

2008年10月16日

9月の小売売上高は、市場の予測を下回り、前月比1.2%の減少となった。自動車業界は、ローンやリース契約の枠が狭まり、新車購入が激減。また、これまで小売り全体の売り上げを支えてきたウォルマートでも勢いが落ちている。9月中旬から相次ぐ金融界の混乱が、自動車をはじめ、各業界に確実に影響を与えていることが明らかになった。

<売上高は3ヵ月連続で減少>
商務省の10月15日の発表(PDF)によると、9月の小売売上高(季節調整済み)は前月比1.2%減(前年同月比1.0%減)の3,755億ドルと、3ヵ月連続で減少した(図1参照)。変動の大きい自動車・同部品を除く売上高は、0.6%減(同3.6%増)の3,105億ドルなので、自動車部門に足を引っ張られて急速に落ち込んだことが分かる。なお、8月の売上高は速報値の前月比0.3%減から0.4%減に下方修正された。

photo

エコノミストの事前予測は、ダウ・ジョーンズ、ブルームバーグともに0.7%減だったが、減少幅は予想に比べ2倍近くに達した。業種別では、ヘルスケアとガソリンスタンドを除く全業種で減少している。特に2008年に入り不振が続いていた自動車部門(前月比3.8%減)は、8月(1.7%増)はプラスに持ち直し、小売り全体の減少を抑えたが、9月には再び減少し、全体に大きく影響した。このほか、家具(2.3%減)、衣料(2.3%減)、家電(1.5%減)、スポーツ用品(1.1%減)と、必需品以外の部門が軒並み落ち込んでいる(表1参照)。

第3四半期の合計も前期に比べ急激に減少している。グローバル・インサイトのエコノミスト、ベスーン氏は「第4四半期も確実に悪化する」とコメントする(ブルームバーグ10月15日)など、このまま景気後退入りするとみる識者が多い。

photo

<ローン審査の厳格化で新車購入者が激減>
調査会社オートデータの10月1日の発表によると、9月の全米新車販売台数〔スポーツ用多目的車(SUV)などの小型トラックを含む〕は、前年同月比26.6%減の96万4,873台と、ついに100万台を割り込んだ(表2参照)。8月の販売台数がガソリン価格の下落を受けてわずかながらも改善したことで、底入れの兆しを期待する声も挙がっていたが、9月の結果はその期待を大きく裏切った。年率換算(季節調整済み)した数値は1,250万台で、07年の1,619万台に比べ大きく減り、91年以来の低水準に落ち込んでいる。

photo

部門別にみると、乗用車、小型トラック部門ともに全セグメントで2ケタ台の大幅減となった。どのセグメントも減少幅が加速しているが、ミニバン・フルサイズバンの下げ幅が相対的に小さい一因として、ゼネラル・モーターズ(GM)の大規模な販促活動が挙げられる。同社は社員割引のセールに続いて、フリートセールと呼ばれる企業向け量販セールと、大規模に販促活動を展開し続けたことで、一部のモデルでは売り上げの改善もみられた。

ビッグスリーの販売台数は、GM28万2,806台(前年同月比15.6%減)、フォード12万355台(34.5%減)、クライスラー10万7,349台(32.8%減)だった。日本勢は、ホンダ9万6,626台(24.0%減)、トヨタ14万4,260台(32.3%減)、日産5万9,565台(36.8%減)で、各社とも急激に業績が悪化している。特に日産は7月、8月で健闘しただけに、9月の落ち込みが目立つ。

大手金融機関の破綻など一連の金融不安から、自動車購入時のローン、リース契約の枠が狭まり、新車購入が激減している。9月末の10日間でディーラーへの客足は急速に落ち、一度支払った頭金の返金を求める消費者すらあったと「ウォールストリート・ジャーナル」紙(10月2日)は報道している。また同紙は、大手ディーラーのオートネーションで、ローン審査の承認率が1年前の90%から60%に下がったとも伝えた。

<年末商戦に向けての見通しは暗い>
国際ショッピングセンター協会(ICSC)の10月9日の発表によると、大手小売店36社の9月の既存店売上高は前年同月比1.0%増とプラスを維持したものの、全体としては下降傾向となった。引き続き、全体の売り上げを下支えしているのはディスカウントストア、ドラッグストア、会員制量販店で、衣料品専門店と百貨店の不振は加速しつつある(表3参照)。

業態別にみると、ディスカウントストア(前年同月比0.9%増)、会員制量販店(7.4%増、ガソリンを除くと5.2%増)、ドラッグストア(3.8%増)が伸びているものの、ディスカウントストアと量販店は、ここ数ヵ月に比べると勢いが落ちた。また、百貨店(9.8%減)、衣料専門店(7.6%減)の落ち込みは深刻化している。

全体的に下降気味となった背景としては、ハリケーンの影響に加え、金融市場の混乱が小売市場にも波及したことが挙げられる。J.Pモルガン証券のアナリスト、グロム氏は「(ディスカウントストアにまで広がる低迷は)これまで恐れていた最悪の事態よりもひどい」と先行きを危ぶむコメントを出している(「ウォールストリート・ジャーナル」紙10月9日)。

主要既存店別にみると、ウォルマート(2.8%増)、ウォルグリーン(4.7%増)、コストコ・ホールセール(7.0%増)が健闘した。しかしウォルマートですら、必需品以外の売り上げは伸び悩んだという。これから年末商戦を迎えるに当たって、識者の見通しは暗い。「ニューヨーク・タイムズ」紙(10月9日)は、ホリデーシーズン後に小売店倒産の波が押し寄せることを懸念するアナリストもいるとし、経営コンサルタントのヒラー氏の「過去25年間で最悪の年末商戦になろう」というコメントを紹介した。

photo

<消費者心理は改善するも、再び後退の可能性>
民間調査機関のコンファレンスボードが9月30日に発表した9月の消費者信頼感指数(1985年=100、注)は59.8(速報値)で、8月の58.5(改訂値)から1.3ポイント上昇した。現状指数は58.8で8月(65.0)から6.2ポイント低下、6ヵ月先の景況感を示す期待指数は、60.5で8月(54.1)から6.4ポイント上昇した(図2参照)。

消費者信頼感指数は、エコノミストの事前予測(ダウ・ジョーンズ、ブルームバーグともに55)を上回り、これで3ヵ月連続の改善となった。9月の調査は、9月23日までの結果に基づいている。コンファレンスボード消費者リサーチセンターのディレクター、リン・フランコ氏は、9月の指数が改善した理由は単にガソリン価格の下落によるもので、9月中旬から相次いで起きている大手金融機関の破綻・買収が、9月の結果にはまだ反映されていないことを指摘した。また、「(金融市場の一連の混乱が収まり)ほとぼりが冷めるまでは、期待指数にどれだけ影響を与えるか予測ができない」と今後への不安を示している。

9月は現状指数が低下したが、他の指標でも消費者の景況感の悪化がみてとれる。景気が悪いと答える消費者の割合は前月の32.7%から34.2%に、就職が困難と答える消費者の割合は31.7%から32.8%に、それぞれ上昇した。

photo

(注)全米5,000世帯を対象に、毎月経済状態や雇用情勢について調査し、結果を指数化したもの。

(松本貴子)

(米国)

ビジネス短信 48f6c149497c8