大手行への公的資金投入を発表
ロンドン発
2008年10月15日
ブラウン首相は10月13日、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)、ロイズTSBとHBOSの統合行の大手金融機関2行に対して、それぞれ200億ポンドと170億ポンドを注入し、株式を取得することを発表した。既存株主の買い増しがなければ、注入後にはロイズTSB・HBOS統合行での政府の持ち株比率は43.5%となり、RBSでは過半数を超える見込み。資本注入は10月10日に発表されたG7行動計画に沿うかたちとなる。
<「前例はないが、不可欠」と首相>
ダーリング財務相とともに記者会見に臨んだブラウン首相は、今回の対応策について「前例はないが、不可欠な」行動だと説明した。首相官邸のウェブサイトによると、公的資金を受け入れる銀行は2008年は取締役に対して現金でボーナスを支払うことができないという。また、これら銀行が競争に基づく適正なレートで個人や小規模事業者への貸し出しができるよう政府が強く求めるほか、政府がこれら銀行の非常勤役員を任命することになるとしている。政府が取得する株式は、議決権を持つ普通株の構成比率が高くなっている。
政府は10月8日、既に大手行に対し500億ポンド規模の資本注入を行う救済策を発表しており、今回はその一部を具体化したものとなる。BBCのビジネス・エディターであるロバート・ペストン氏は、公的資金の注入について「銀行は屈辱を味わい、英国銀行界にとって今日は最も異常な日として残るであろう」とコメントした(10月13日電子版)。一方、当初公的資金の注入がうわさされたバークレイズは、政府の支援なしで自己資本を65億ポンド引き上げる方針であるとBBCは報じている。
ロイズTSBは9月、HBOSを約120億ポンドで買収することで合意していたが、公的資金注入を機に買収条件について両者間で再度詰め直すことを発表した。13日の株価をみると、ロイズTSBの株価は14.5%の下落、HBOSの株価は27.5%の下落、RBSの株価は8.4%の下落となった。一方、公的資金を受け入れなかったバークレイズ(3.7%上昇)、HSBC(7.5%上昇)、スタンダード・チャータード(20.1%上昇)の株価は上がり、明暗を分けた。翌14日もロイズTSB(6.6%下落)、HBOS(5.2%下落)、RBS(1.1%下落)が下げる一方で、バークレイズ(14.2%上昇)、HSBC(1.2%上昇)、スタンダード・チャータード(10.5%上昇)の株価は上がった。
ロンドン株式市場のFTSE100種総合指数では、10日の終値は前週比21%減となる3,932.1となって4,000の大台を割り込んだが、13日には大きく反発して4,000(8.3%上昇)を回復し、翌14日にはさらに3.2%上昇して4,394.2で引けた。
英国銀行協会(BBA)は、「金融システムは世界の通貨市場の閉塞(へいそく)によって、時に正常に機能しなくなることがあり、こうした中で政府が発表した一連の支援策は顧客の信用を取り戻し、預金者、住宅保有者、産業界を助けるのに有益な施策である」として歓迎した。英国産業連盟(CBI)は、政府が資本注入した銀行に対して、中小企業や住宅取得者に2007年の水準での貸し出しを維持するよう条件付けたことを評価した。一方で住宅金融貸付組合(CML)は、住宅価格と需要がともに下落する中で、住宅取得者への貸し出し水準が07年と同レベルまで回復することは疑わしい、としている。
<欧州中銀などと協調して流動性支援>
イングランド銀行(中央銀行)は10月13日、欧州中央銀行(ECB)、スイス国民銀行とともに、担保に応じて1週間物、1ヵ月物、3ヵ月物のドル資金を、固定金利で無制限に借りられるよう制度変更したことを発表した。これは米連邦準備制度理事会(FRB)による一時的なドル・スワップ枠の拡大により実現するもので、短期金融市場での資金詰まりを打破するため10日のG7行動計画に盛り込まれた内容を実行に移したかたちとなった。
「フィナンシャル・タイムズ」紙(10月14日)は、資金調達難の解消に向けて英国と欧州各国政府が協調行動を強める中、13日にはロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は下がったと報じている。一方、英国債10年債利回りは同日、19ベーシス・ポイント上昇して4.655%となった。
また同紙によると、370億ポンド規模の政府による資本注入や短期資金供給拡大によって、英国の金融システムへの信頼感が回復し、外国為替市場においても13日にはポンドはドルに対して1.5%上昇して1ポンド=1.7368ドルに、円に対して1.2%上昇して1ポンド=174.97円に、ユーロに対しても1.7%上昇して1ユーロ=0.7782ポンドになるなど、ポンド高に振れた。
<国内の自動車工場は操業短縮>
世界を覆った信用収縮の波は、消費に影を落としている。英国自動車製造販売業者協会(SMMT)によると、9月の新車登録台数は乗用車で前年同月より21.2%減の33万295台と大きく落ち込み、9月までの累計でも前年同期比7.5%減となった。バン・トラックでも9月の登録台数は同19.2%減(9月までの累計では0.7%減の37万7,531台)と大きく落ち込んだ。
「タイムズ」紙(10月2日)は、フォードが英国南部サウザンプトンにあるトランジット・バンの工場でクリスマス期まで勤務日を週4日に、ベントレーがクルー(Crewe)工場で勤務日を週3日に短縮したほか、トヨタもダービー工場での夜勤を取りやめたと報じている。同紙は「消費者が新車を購入するためのローンが確保できない」とのルーラント・デ・ワード英フォード会長の言葉を紹介するなど、信用収縮の波が製造業にも及んでいることを伝えている。
住宅価格も下落が続いている。ハリファックスによると、9月の平均住宅価格は前月比1.3%減の17万2,108ポンドとなり、08年2月以来連続の下落となっている。ハリファックスのチーフエコノミストであるマーティン・エリス氏は、住宅市場の冷え込みが続く背景について「(物価高などで)家計所得が圧迫される中、住宅ローンの供給が減少している」と分析している。
<失業者増が加速>
雇用環境も悪化している。ONSによると、08年5〜7月期の英国の就業者数は2,953万8,000人(就業率74.7%)で、前期比で1万6,000人の減少となった。一方、失業者数は172万4,000人(失業率5.5%)で、前期比8万1,000人の増加となった。TUC(英国労働組合会議)のブレンダン・バーバー書記長は「失業者数の増加は加速しており、09年中に失業者数は200万人の大台に達するだろう」とコメントしている。
当地日系企業にも影響は及んでいる。日系商社は「顧客からの納入延期の要請や支払い遅延が起こり始めた」と話している。また、英国企業にも顧客基盤を持つ日系人材派遣会社も「金融関係を中心に雇用環境が著しく悪化しており、リストラなどにより登録者数も急激に増加した」という。
(長谷部雅也、中本健一、アレクサンダー・ブラックショー)
(英国)
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