ローン販売不振で失速する自動車販売−ロシア金融不安の影響−

(ロシア)

ロシアNIS課

2008年10月14日

グルジア紛争による国際的孤立、米国の金融危機を背景に、ロシアでは国内大手銀行の信用不安や株価の暴落が発生、中央銀行によると第3四半期には差し引き167億ドルもの資本が純流出した。信用収縮の動きが自動車ローンの金利引き上げや審査の厳格化につながり、好調だった自動車市場にも影響が出始めている。

<鈍化する外国車販売台数の伸び>
外国車販売台数は、オイルマネーを背景とする購買力の上昇で、ここ数年拡大を続けてきたが、金融不安を受け成長が急激に鈍化している。在ロシア欧州ビジネス協会(AEB)の発表によると、2008年8月の外国自動車販売台数は、前年同月比23%増、9月は22%増だった。7月の44%増、上半期47%増に比べ、勢いが半減している。

ブランド別にみると、9月にはホンダ、フィアット、双竜自動車など一部のブランドの販売台数が前年同月に比べ高い伸びをみせたが、フォード、三菱自動車、起亜自動車、ボルボ、奇瑞汽車などが10%を超える減少となった。モデル別では、「ラノス」(シボレー)、「アクセント」(現代自動車)、「フォーカス」(フォード)が20%以上落ち込んだ。現代自動車CISのデニス・ペトルニン社長は「10月も低い販売実績にとどまるだろう」と予測する。

<金利引き上げと審査基準の厳格化が直撃>
国内の信用収縮の動きを背景とする各銀行の金利の引き上げと審査基準の厳格化が自動車販売に影響している。自動車ローン大手アブソリュートバンクは9月25日、全ローン商品の金利を2〜3%引き上げると発表した。大手銀行のズベルバンクやVTB24、ガスプロムバンクも自動車ローン金利の引き上げを相次いで明らかにしている。

審査基準の厳格化について、フォードや日産を扱う自動車販売会社ニジェゴロド・ブローケルのレオニド・ゴイフマン社長は、同社の提携銀行であるボルガ・ビャトカ銀行・ズベルバンクとモスクワ銀行は、ローンの審査期間を1日から2〜3日に引き伸ばしていると話している。また、8月に10%だった頭金の最低ラインを9月には30%に引き上げ、さらに、所得証明書の提出をローン申請者に求めているという(経済紙「ベドモスチ」10月9日)。

自動車ローン大手アバンギャルド銀行副頭取のワレリー・トルホフ氏は「自動車ローン貸し付け競争の激化に伴い、低所得者層への融資を拡大してきたが、(信用収縮の中)これまでのような甘い融資条件を維持することは難しい」と指摘する(経済紙「コメルサント」9月26日)。

特に地方の自動車販売会社への影響は大きい。ニジュニ・ノブゴロドの自動車販売会社ツェントル・アフトは9月の売上高が前月比12%減という。ノボシビルスクの自動車販売会社アフトスタルト執行役員のオレグ・クリコフ氏は「夏までは10人の自動車ローン申請者がいれば9〜10人が審査に通過したが、今は5人に満たない」という。

<ローン利用者減が市場縮小を招く>
自動車専門調査会社アフトスタトによると、ロシアでは自動車購入者の約半数がローンを利用しており、期間は3〜5年、金利は年率10〜14%が主流であるという。07年にロシアで販売された240万台の新車のうち115万台が自動車ローンを介したもので、07年の自動車ローン市場は160億ドル、1件当たりの平均貸付額は1万3,900ドルだった。

同社のセルゲイ・ツェリコフ所長は、金利と審査基準の引き上げで自動車購入者の20〜30%しかローンを利用できなくなり、ロシアの自動車市場が20〜25%縮小する可能性があると指摘する。

外国自動車メーカーの中には、09年のロシアでの販売予測を見直す動きもあり、トヨタは当初予測の15%増から5%増に、フォードは25%増から5%増に下方修正した(「ベドモスチ」紙10月3日)。

<独自のローンサービス導入の動きも>
自動車メーカーや自動車販売会社の中には、提携先銀行のローン金利引き上げによる売り上げ減少を避けるため、独自のローンサービスを展開しようという動きも出てきている。大手自動車メーカーではソレルス(旧セベルスタリ・アフト)が自動車ローンサービスの立ち上げを検討しているほか、モスクワを拠点とする自動車販売会社フェイバリット・モータースのウラジーミル・ポポフ共同経営者も「ローンサービスの導入のため、既にいくつかの銀行と交渉を開始した」という。なお、最大手自動車販売会社ロルフは、4月にキャピタル・モスクワ銀行を買収し、自動車ローン市場に参入している。

(齋藤寛)

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