工場敷地内の土壌・地下水の定期調査を義務化-9月めどに実施細則を発令-

(タイ)

アジア大洋州課

2016年08月24日

 タイ工業省は4月29日、工場敷地内の土壌・地下水汚染に関する新規則を公布した。10月26日に施行予定の同規則は、12業種にわたるメーカーに対し、定期的な土壌・地下水調査を実施し、その結果を報告することを義務付ける。規制内容は周辺国と比較し要求内容が多く、行政側の姿勢は積極的だ。運用に当たって、9月をめどに実施細則が発令される見込みであり、その内容が注目される。

<新規則の対象は約5,400社>

 タイ工業省は、2016429日付で省令「工業エリアにおける土壌・地下水汚染に関する規則」を公布した(施行日は公布180日後の1026日)。工場法の下位規則に当たる省令で、タイ工業省・工場局(DIW)が主管する。同省令は対象業種となった企業に対し、土壌・地下水の定期的なモニタリングを義務付ける。対象物質ごとに基準値を設定し、それを超えた場合には浄化や拡散防止などの対策を講じることを要求する。従来、土壌・地下水の環境基準は定められていたが、調査や対策を義務付けたのは同省令が初めて。

 

 対象業種は、繊維、紙パルプ、化学、塗料、火薬・インク、石油精製、非鉄精錬、照明器具・絶縁材・電池、塗装・めっき、廃棄物関係3業種の計12業種で、DIWによると対象企業は地場、外資系を含め約5,400社に上るという。他方、対象物質は120130種類となる予定で、揮発性有機化合物(VOC)、重金属類、農薬類、油などが含まれる。詳細は物質ごとの基準値とともに、実施細則で規定される。土壌・地下水の分析はDIWが認可した分析機関で実施する。本規制では、調査、報告を怠った場合には罰則があり、上位法令である工場法に基づき、罰金、操業停止などが適用されることになっている。

 

<既存企業は20174月末までに初回調査を実施>

 同省令によると、新規設立企業は工場操業開始前に初回の土壌・地下水調査を実施し、その結果をDIWに提出し確認を得る必要がある。また、操業開始後180日以内に2回目の調査を実施し、調査後120日以内にDIWへ調査結果を提出する義務がある。他方、既存企業は対応までの猶予期間が設定され、省令施行後180日以内(20174月末まで)に初回調査を実施し、調査後180日以内にDIWへ調査結果を提出しなければならない。また、初回調査の実施後180日以内に2回目調査を実施し、DIWへ調査結果を提出する義務がある。新規、既存ともに、3回目以降は、土壌(3年ごと)、地下水(毎年)の調査を定期的に実施し、120日以内にDIWへ調査結果を提出しなければならない。

 

 新規企業では、工場用地造成時に廃棄物が埋め立てられ、建設前の更地の調査で汚染が見つかることも想定される。既存企業では、自社ではない近隣企業による汚染や、人為的ではなく自然由来の物質により基準超過している場合、汚染原因者をどのように特定するかがポイントとなる。

 

<行政の運用姿勢は積極的>

 アジアを中心に土壌・地下水の環境リスクに詳しいDOWAエコシステム・ジオテック事業部の小泉信夫氏によると、対象物質、基準値、調査の進め方などについて詳細事項を定めた実施細則は、バンコク日本人商工会議所が20167月にDIWから講師を招き開催したセミナーでの説明では、20169月をめどに発令の準備が進められているという。小泉氏によると、DIWは本制度を積極的に運用しようとする姿勢がみられるという。タイでは、近年の経済発展と国民生活向上に伴い環境保護の意識が高まり、政府も環境対策を優先課題としているようだ。2009年に発生したマプタプットでの公害問題が、周辺住民および環境保護団体(NGOなど)による行政訴訟へ発展し、事業凍結仮処分、工場の操業停止となるほど大きな問題となったことが、本省令の背景にある。

 

 小泉氏によると、新興国の環境規制には、大気・水・廃棄物が先行し、経済発展が進むにつれ土壌・地下水が続く傾向があるという。韓国では1995年に、台湾では2000年に法律が導入されたほか、中国とマレーシアでも法律制定の動きがある。今回のタイの規制導入の特徴は、調査報告義務について操業開始時のみならず、操業中も定期的に必要となるなど強制力を持つことにあるという。また、小泉氏によると、土壌調査を3年ごとに課すのは珍しく、厳しい要求内容であるという。規制対象物質は日本の26種類と比較すると120130種類となる予定で、圧倒的に多い。基準値は他国と比較して厳しいものと、緩やかなものの両方がある。指定された120130種類以外の物質でも有害性のあるものについては、企業が計算式にのっとり基準を作成するよう求めており、企業側の負担が大きくなることも予想される。

 

 運用については、周辺国での導入事例をみても安定的に定着するまでには一定期間を要するとみられる。DIW担当専門官の数、調査会社の数、環境ボーリング会社の数が十分にない点などがネックとなる可能性がある。

 

(水谷俊博、藤江秀樹)

(タイ)

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