海外発トレンドレポート

製造業の発展に伴い検査機器に需要あり
(ベトナム・ハノイ発)

2023年2月3日

ベトナムにおける製造業向け検査・計測機器市場

工業化の促進を1960年から北部で開始したベトナムは、2021~2025年における国内総生産(GDP)に占める製造業の比率を25%以上とすることを目標としている。2015年にはその比率が10.60%、2020年には16.69%と徐々に増加し、2021年、コロナ禍のため国内経済は大きなダメージを受けたものの、政府目標である25%を達成した(図1参照)。

図1:製造業分野のGDP比率推移

ベトナムの製造分野がGDPに占める構成比は、2015年から2021年までおおよそ右肩上がりで推移している。2021年は同期間中最高の25.13%に達した。

出所:ベトナム統計総局

短期、中期的にベトナムの製造業はさらに発展を続けることが見込まれる。2021年末の数字では、ベトナム全国で稼働している企業857,551社のうち、製造関連企業は128,971社で15%を占めている。また、2022年8月、国家経済社会調査情報センターが発表したベトナムの大手民間企業トップ500社レポート(VPE500)に掲載された500社のうち、製造関連企業は266社で、全体の53.2%を占める重要な産業となっている。外国人投資家による投資案件でも製造業分野が最も多く、2022年12月末までの累計で15,947件の製造関連プロジェクトが実施されている。特に、コロナ禍前までは、韓国企業の進出がめざましかった(図2参照)。また、韓国および台湾の PC、携帯電話関連メーカーの進出は当地報道で多く見られたが、これは中国からの生産拠点分散化が近年急速に進んでいるためと考えられる。

図2:外国直接投資(FDI)件数推移 (単位:件)

韓国の外国直接投資(FDI)件数推移は2013年から2019年にかけて3倍以上に増加している。しかし2020年、2021年は大きく落ち込み、2021年は361件まで減少。同期間中、日本は2013年の291件から2019年の435件まで増加。2021年には199件まで減少。同期間中、台湾は2013年の66件から2019年の152件まで増加。2021年には63件まで減少。

出所:ベトナム計画投資省

製造業の発展に伴い、本業界が海外から輸入する原材料や機械設備も年々増加している。年間輸入額が最も多いのは「コンピューター、電子製品・部品」および「設備機械、ツール・付属品」となっている。これらの品目の輸入額はコロナ禍においても増加している(図3参照)。

図3:ベトナムの年間輸入額推移(単位:百万米ドル)

2015年から2021年にかけて、「コンピュータ、電子製品・部品」は23,211百万米ドルから75,441百万米ドルまで増加している。同期間、「設備機械、ツールと付属品」は23,211百万米ドルから46,296百万米ドルに増加している。

出所:ベトナム統計総局

検査計測機器については、主に中国、アメリカ、EU、日本、韓国などから輸入している。これらの主要取引国はベトナムと貿易協定を締結しており、検査計測機器の輸入税率は0%であるため、輸入が容易となっている。

ベトナム検査機器輸入者からのヒアリング調査結果

当地の検査測定機器輸入販売業者数社へヒアリング調査を行い、機器輸入の現状を以下にまとめた。

1.T社

設立:2012年
従業人数:30名
拠点:ハノイ市、ホーチミン市

当社は測定機器(電圧計、ノギス、空気流量計、粉塵や騒音等の測定機器)や顕微鏡等を輸入販売している。サムスンの下請け企業、日系企業などが主要顧客で、建設業界に工具を販売することもある。商流は、直接輸入とベトナム国内の代理店経由の仕入れを使い分けており、直接輸入する場合は、基本的に100%前払いによる支払条件にて輸入決済を行っている。輸入単価は日本製、米国製、ドイツ製はほぼ同等のイメージで、販売数量は安価な中国製が最も多い。メンテナンスや修理は自社で実施し、必要な場合は、海外の製造元の技術者にオンラインで説明を受けながら修理対応を行っている。検査機器の部品交換を行う場合は、正規部品による交換修理を実施しているのが特徴である。高価な部品以外は個別発注ではなく機器の定期輸入のタイミングを待ち、他の製品と一緒に輸送することによりコスト削減を図っている。通常、定期輸入のタイミングは1.5~2か月に1回程度である。

マーケティングについては、顧客訪問は行わず、主にウェブ上で機器紹介を行っている。SEO対策が功を奏し、ウェブ上の検査機器検索結果においては2~3番目の順位で表示される。

売上は毎年15~20%増加していたが、コロナ禍の影響により昨年は伸び率が少し減少した。しかし2023年はコロナ禍以前の売上げに回復することが見込まれる。

今後、日本の大手企業への導入実績がある検査測定機器メーカーと取引をしたいと考えている。日本における導入実績は、ベトナムでのマーケティング上で非常に重要なポイントになると考える。なお、日系企業への販売については、顧客の要望により、通常は日本製を優先し選定提案している。

2.E社

設立:2011年
従業人数:100名
拠点:ハノイ市、バクニン省、ダナン市、ホーチミン市、ミャンマー、シンガポール

当社は主に電気電子、建設、環境関連商品の研究開発用分野の検査・測定機器を販売しており、日本およびベトナムでの展示会等に出展した経験がある。売上は毎年約30%増を維持しており、コロナ禍の影響はあまり受けなかった。現在、売上が最も大きいのは電気電子分野であり、全体の50%を占める。また、オンライン販売が売上の30%を占める。顧客は日系を含む外資企業およびベトナム企業であり、小売店、国家機関、教育研究施設にも商品を納めている。当社の優位性は、(1)取扱商品数の多様性(100,000品目以上)、(2)直接メーカーより輸入しているため適切な価格が提案できること、(3)技術力の高いアフターサービスチームを備え、故障や校正サービスに対応している点にある。自社内で大半の修理やメンテナンスを実施できるほか、校正事業者認証(ISO 175025:2017)を取得している。

日本製品の売上は全体の15~20%ほどであり、まだ多いとは言えない。その理由は、日本製機器を購入する顧客は日系企業が多いため、既に販売実績のある日系機械商社からの切り替えが難しい点にある。商習慣上、日系企業は一度関係を築いた納入業者を変更することに対し非常に高いハードルを設けているように思う。また企業によっては、ベトナム法人による直接購入ではなく、シンガポールにある関連法人経由でないと購入できないというケースもある。

最近では、ドイツブランドで中国でのOEM製品の品質が高くなってきており、値段も安いため、将来、ベトナム市場でのシェアを拡大すると予測している。

3.N社

設立:2012年
従業人数:12名
拠点:ハノイ市、ダナン市、ホーチミン市

当社の主要販売製品は、二輪・四輪車、航空機、石油・ガス業界向けの部品加工設備および測定機器で、顧客の60~70%が日系企業である。検査機器は日本、EUから輸入しており、日本メーカー1社の総代理店を務めている。

日系企業とのコミュニケーションは英語で行っている。支払いについて日系企業は非常にスムーズであり、信頼できる商売相手であると理解している。

当社は切削設備と測定機器を合わせて販売することが多く、現在の売上は年間約1.5百万米ドルであり、測定機器が1/3を占め、残りが切削ツールや機械である。マーケティング・販売方法は、(1)展示会への出展、(2)既存顧客からの紹介、(3)インターネット上の広告、の3つを組み合わせている。

当社はオンライン販売を行わず、顧客との対面販売方法を採っている。顧客から製品製造プロセスの設計支援や工程改善へのコンサルティングを求められることがあるためである。

補足および考察

今回の調査では、各社とも年々販売実績が伸びており、日本製検査機器測定機器は高い評価を受けていることがわかった。また、各社とも、日本製検査測定機器のより詳細なスペック情報および具体的な導入実績情報(大手企業での導入実績有無等)が欲しいとの要望があった。日本企業にとって、ベトナムへの顧客に対する売り込み時、導入実績は重要なポイントであると言えよう。

修理調整対応については、海外の販売元への返送は時間と輸送費用がかかり、また顧客からは常に迅速な対応を求められるため、多くがベトナム国内で行われている。検査機器の一台当たりの単価はそれ程高額ではないこともあって、万が一、輸入後に初期不良が発見された場合でも海外への返品交換は行わず、社内で修理対応することが多いようだ。一例として、T社での輸入平均価格は2億~3億ドン(約8,500米ドル相当)である。

各社共に各部門が海外製造元と直接コミュニケーションが取れる体制を整えている。今回のヒアリングにおいては、比較的社員規模が大きい企業では日本語を含む複数の言語で対応、小規模企業においては英語で対応を取っている傾向が見られた。顧客サービスの面からも、迅速な調整、修理が可能な体制を整えることが最も重要であり、各企業は技術部門の育成に力を入れている。これは同時に、海外メーカーからの支援が必要であることを示している。日本の機械メーカーにおいても、英語を用いた製品・技術説明資料、修理や調整に関する技術指導に対応できる体制の構築が求められている。

機器の輸入価格については、日本、米国、ドイツ各国からの輸入価格にはあまり差がないとのヒアリング結果となった。また品質についてのユーザー評価は、各社共に、日本製が最も高いとの回答だったが、他国製品の品質が高くなってきており注意が必要である。

日本の製造企業のウェブサイト上の製品情報はまだまだ不十分なものが多く、販売機器の詳細情報をネット検索で入手できる環境整備が求められている。

商流については、海外からの直接輸入、またはベトナムにある代理店からの購入となっている。海外からの輸入の場合は、商社を経由せず、直接製造元と取引することを望んでいる。

また、今回ヒアリングした輸入販売各社は、日本の検査測定機器のベトナムでの販売代理店になることを希望している。このうちE社は、日本の検査機器製造企業への代理店契約アプローチは「非常にハードルが高い」と語った。同社によると、日系企業は欧米企業とは異なり、一度販売代理契約を結ぶと、販売実績が悪くとも代理店契約の解除や新たな代理店指定を行わない傾向があり、代理店になるチャンスが非常に限定されたものになっているという。一方、欧米企業は実績を重視し、代理店収益が好調でない場合は早期に代理店契約を解除し、新規代理店へ移行してくため、E社は多くの欧米製品の代理店として活躍している。販売実績の好ましくない代理店を持つ日本メーカーは、実績を重視したフレキシブルな代理店指定に移行し、真に実力のあるベトナム輸入販売業者に代理店指定のチャンスを与えることが必要であると言えよう。


作成
ジェトロ・ハノイ事務所
執筆
プラットフォームコーディネーター 中川良一
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)ハノイ事務所が委託先JAVINA INVESTMENT DEVELOPMENT CO.,LTD(以下JAVINA)に作成委託し、2023年1月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびJAVINAは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびJAVINAが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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