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海外発トレンドレポート
消費者に変化、小売分野で広まる社会貢献意識
(フィリピン・マニラ発)
2023年1月30日
ものや情報に溢れた現代、我々日本人にとって必要なものが手に入らないことはあまりない。一方、途上国に分類されるここフィリピンでは、まだまだものが足りないといったイメージを持つ人達も多いだろう。しかし消費者マインドは確実に変わりつつある。「何でもいい」から、「なぜそれか」に変容する意識に対応しなければ、マーケットのトレンドから置いて行かれてしまう。ソーシャル・エンタープライズ(社会的企業)2社を含む3社とのインタビューで見えてきた、GDPでは測れない消費意識の変容をお伝えする。
一つひとつ丁寧に手作り。日本のものづくりにも通ずる細やかさ
A社は、ジャーナルブック(日記帳)とそのカバー制作から始まった、様々な日用雑貨をデザイン・制作するソーシャル・エンタープライズであり、社会課題の解決を図っている。 同社で働く職人の多くは失業中か解雇された人、または遠距離勤務に悩む人々で、中には1日200円程度の収入で雑巾を縫っていた人も。現在では同社を通じて、1日に少なくとも1000円程の収入を得ている。
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質問:
答え:
財布、カバン、文房具などの日用品、小物を製造販売している。貧しいエリアの定職を持たない主婦、母親を雇い職業訓練の機会を与え、自立を促す社会貢献を目指している。扱う商品は全てハンドメイドで、素材は主に中国から仕入れている。主な卸先はマニラの小売店やカフェ、ブックストアなど多岐に渡り、自社で運営するECサイトでも積極的に販売している。
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質問:
主なターゲット層は。
答え:
マニラ首都圏に住む上位中所得者層から高所得者層で、贈答品や外国へのお土産に購入するケースが多い。全商品ハンドメイドで小ロット、従業員へ十分な給与を支払って、自立を促す目的等が重なり、高めの価格設定となっているが、売れ行きは好調だ。
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質問:
素材の仕入れ先は。
答え:
素材の仕入れ先は主に中国、次いで台湾。価格とクオリティ、素材の汎用性を求めた結果、自ずとそうなった。素材を選ぶ優先順位は、(1)クオリティ(厚みや質感)、(2)デザイン、(3)価格、(4)調達の利便性。
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質問:
日本製品の印象
答え:
とても良い。高価だが、素材その他を考慮すれば必然的な価格設定かもしれない。ただ他国の製品も見た目が似ていて、素材の善し悪しは消費者には分かりづらいところでもあるので、日本製品以外に流れるのもやむを得ない。
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質問:
なぜソーシャル・エンタープライズというコンセプトなのか。
答え:
例えばGDPに関して言えばまだ発展途上のフィリピンだが、確実に経済成長を続け、消費も拡大している。社会的意義やエコを織り交ぜたコンセプトの商品に対し、高価格・高付加価値を受け入れる土壌は養われてきていると感じる。実際、企業のCSRとして、弊社の製品をノベルティに利用したいという引き合いも多い。
地球上で最も環境にやさしい自転車を作り、人と地球を助ける
B社は主に国内産竹を用いた独自コンセプトを持つ自転車メーカー。マニラ旧市街の観光エリアに拠点を構え、製造販売の他に、現地観光客向けに自転車のレンタル及びツアーを実施しており、サステナブルライフを推奨している企業。
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質問:
御社の特徴は。
答え:
地元の農園と連携し、メインパーツとなる竹の栽培から関わり、国産素材の展開を図っている。“ソーシャルエコロジカルエンタープライズ”を目指し、フェアトレードの労働力とサステナブルな製造手法で竹製自転車をハンドメイドしている。製作者は、貧困層支援の地域開発コミュニティであるガワ・カリンガが運営する村出身の方。他にも奨学金制度や幼稚園の先生のスポンサー、子どもたちへの週1回の食提供、森林再生のための竹の苗床などのプログラムを行っている。人と地球を助けることに関心を持ち、社会と環境のスチュワードシップに専念している。
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質問:
パーツの仕入れ先は?
答え:
フレームの竹、接合部に使うアルミやスチールは現地で調達している。ブレーキ、ギア等のパーツは、日本のメーカーから仕入れている。自転車のパーツと言えば、日本以外は考えられない。
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質問:
御社の強みは
答え:
複数の要素をビジネスに取り入れ掛け合わせている点だろう。実態は「自転車屋」なのでウェルネスが中心だ。かつエコなどの社会貢献に目を向け、メインパーツの竹は地産地消し、観光も絡め、事業を多角的に展開している。一つのメーカーとして終わるのではなく、事業に多面性を持たせることで強固な事業体制を構築できている。まさに事業自体もサステナブルを目指している。
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質問:
フィリピンへ進出を目指す日本企業へのアドバイスは。
答え:
多面的に捉える思考が重要。自転車のパーツに関して日本メーカーは非常に強いが、単にモノを売る、という発想では競合との争いが不可避でモノの善し悪しの比較に終始してしまう。そうではなくて、製造過程の独自ストーリーや、それを使う事によって得られる社会的意義などを盛り込めたら面白い。

地元の農園の竹を利用した自転車
ホテルサプライではヨーロッパブランドが主流
C社は、1991年に世界的なテーブルウェアブランドの地域代理店としてスタートしたホテルサプライヤー。現在では、ベッドリネン、バスリネン、枕、羽毛製品、ロビー用品、ハウスキーピング用品、バンケット用品、ガラス製品、陶磁器、食器、ブッフェ用品など、ホテル、リゾート、コンベンションセンター、レストランが必要とするさまざまな製品を取り扱っている。
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質問:
現在扱っている商品・ブランドは。
答え:
Hyperlux(香港のステンレス製品、工場は中国)、Sola (スイスのカトラリー、工場は中国)、Legend(スリランカでのノリタケとの合弁会社)。ナルミも扱っていたが、非常に高級な商品なので、販売が大変だった。ルイジ・ボルミオリ(イタリアのガラス製品)や金庫のCISAも取り扱っている。1999年にはワインの輸入・販売事業を立ち上げ、イタリアワインの品揃えは国内でも有数であると自負している。現在では、チリからも高級ワインを取り寄せている。日本の有名ブランドであるノリタケは、大手財閥系のホテルで広く使われているはずだ。
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質問:
業界の概況は。
答え:
ホテルはコロナの打撃を直で受けた業界なので、ここ数年は非常に厳しかったが、22年はコロナ前の19年の売上高を6%以上上回ったと言われており、23年はさらに伸びると予想されている。それに伴い我々の業界でも引き合いが増えてくることを期待している。
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質問:
日本ブランドの印象は?
答え:
テーブルウェアに関しては、ノリタケ、ナルミ以外のブランドはあまり思いつかない。販売力と価格によっては購入を検討すると思う。が、フィリピン国内の消費者の大部分は大衆、つまり価格に敏感な低所得層の人々であるため、どうしても低価格に流れてしまうのではないか。セラミックのナイフなどは素晴らしいが、価格を考えると一般家庭向きでは無く、富裕層向けならニーズがあるかもしれない。
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質問:
日本の商品や企業に求める事は。
答え:
商品にリーチするチャネルが少ないと思う。実際、日本食レストランのオーナーの中には日本まで厨房用品や食器類を買いに行く人もいると聞いた事がある。我々は通常国内外の展示会に参加して情報を集めているが、弊社に関して言えば、行き先は欧州各国に限られる。それは取引先のニーズが西洋デザインであるからだ。しかし日本のもの作りの良さや品質は誰もが認めるところであるので、地道に紹介をしていけば興味を持つところが出てくるのではないか。また今までの経験上、とかく日本の企業は英語が通じにくく、この点は単純かもしれないが、非常に重要な点である。毎回通訳を通してのやり取りに大変な思いをした覚えがある。
執筆者総評
今回、ソーシャル・エンタープライズ2社とホテルテーブルウェアの大手代理店に話を聞いた。ヒアリングを通して見えてきた共通点を要約すると下記である。
なお今回ソーシャル・エンタープライズ2社を選択した理由は、(1)多くのヒアリング先を探す中でこのような企業の存在が浮き彫りになったことと、(2)一般的な消費財を扱うディストリビューターに関しては他でも情報が取りやすいと考えたためである。
- フィリピンではソーシャル・エンタープライズそのものが増えており、ニーズは高い。GDP等の数字では測れない市場が確実に存在する。その点と日本のものづくり精神や技術、おもてなしマインドは親和性があるため、勝機を見出せるのではないか。
- 商品力以外に、商品にまつわるストーリーや、消費者に「自分ゴト」として受け取ってもらう事が重要である。
- 作成
- ジェトロ・マニラ事務所
- 執筆
- Visum Global Philippines Inc. 井谷 厳紀
- レポートの利用についての注意・免責事項
- 本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)マニラ事務所が委託先Visum Global Philippines Inc.に作成委託し、2022年11月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびVisum Global Philippines, Inc.が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。
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