海外発トレンドレポート
グローバル市場における子供向けアニメーションのトレンド
(米国・LA発)
2023年2月24日
「Kidscreen Summit 2023」に見るアニメーション共同制作市場
北米最大の子供向けエンターテイメント見本市Kidscreen Summit (キッズスクリーンサミット、以下KSS)が2023年2月に米国フロリダ州マイアミで行われ、子供向け映像コンテンツの関係者が51カ国から1075社・1750名以上が参加した。
本見本市は、完全パッケージ(完パケ)の売込み・買付けのための見本市ではなく、主に共同制作を前提とした素材や企画の売込み、おもちゃ・ゲーム等の関連商品の提携先探しのための商談およびネットワーキングの場である。
本レポートでは、同見本市の参加者や関係者等への聞き取りを踏まえ、グローバル市場における子供向けアニメーションの共同制作に関するトレンド、および海外でアニメーションを共同制作するための素材・企画の売込み方法と配信会社等の動向について報告する。
KSSに適したコンテンツ素材・企画とは
本見本市は、3歳~5歳のプリスクールから高学年まで幅広い年齢層向けの映像コンテンツが対象だが、日本が得意としてきたアニメ・コンテンツはほとんど見られず、所謂、アニメーションが中心である。当初から海外との共同制作を前提に作られたアニメーション素材や企画が適していると言える。また、KSSは他の見本市と比較して、コンセプトやストーリーがより固まり完成形に近いコンテンツが適している傾向があるとの意見も聞かれた。
事前アポと短時間かつ英語による売込みが商談の鍵
完パケの場合と比べ、共同制作はバイヤーの立場が非常に強いことが特徴である。素材・企画のセラー側(制作会社等)が、数少ないバイヤーの時間を何とか獲得し、短時間で素材・企画の魅力を英語で売込み、少しでも関心を持ってもらえるかが勝負となる。
KSSの参加者の内訳は、バイヤーに該当する放送局やストリーミングサービス会社が12%、仲介機能を持つ配給会社が10%、コンテンツの素材・企画を売り込む制作会社等が43%、その他(商品関連企業、政府などを含む)が35%だった。今年の参加バイヤー数は、昨年のオンラインおよびハイブリッド開催の2回分の参加バイヤー数合計よりも多く、出展ブースへのバイヤーからの飛込み商談もあったとの声も聞かれたほどであった。ただし、会場で偶然バイヤーを捕まえられる可能性は高くない。
したがって、素材・企画の売込みには、事前にバイヤーとの個別アポイントを取得することが鍵となる。KSSが主催するSpeed Pitching(放送局やストリーミング会社と制作会社等の1対1ピッチ面談)の枠を確保することも非常に有益である。商談は1対1で短時間にピッチ形式で流れ作業のように実施されることが多いことから、通訳を介さず英語で直接バイヤーの興味を引くことができるような売込み体制を整えて参加することが重要である。
日本と海外でのビジネスモデルの違い
余談だが、海外でのアニメーションの共同制作においては、日本で主流の映像配信収入中心の映像パブリッシングモデルではなく、映像配信収入に加え、おもちゃやゲームなどの関連ライセンス収入もマネーソースとするキャラクターフランチャイズモデルを最初から想定してビジネスモデルを検討することが多いようである。KSSにおいても、映像バイヤー以外に、商品の製造者やライセンサーなどの参加が多く見られたのはその証左である。
バイヤー各社とも数年後を見据え、関心傾向は様々
放送局やストリーミングサービス企業など各バイヤーの関心傾向や売込みに当たっての注意点は下記のとおり。なお、各社ニーズは様々であるものの、数年後を見越した企画提案を求めている点はどの社も同様であった。
※下記情報は、2023年2月時点の各バイヤー担当者のコメントをまとめたものであり、各社方針や探している作品ジャンルなども随時変更、更新される点は留意願う。
Disney Branded Television:
米国ディズニーでテレビコンテンツを統括するDisney Entertainmentの中で、子供および家族向けコンテンツの担当部門がDisney Branded Televisionである。同部門ではDisney Junior 、Disney ChannelおよびDisney XDの3つの放送チャンネル向けに、主に2歳から11歳までの年齢層向けの素材・企画を調達するとともに、Disney+の子供向けコンテンツとして11歳から14歳向けも調達している。
Disney Junior は、2歳から5歳向けが対象。視聴者が登場キャラクターに親近感を持ち、番組を見ていない時にも登場キャラクターを真似したくなるよう作品が望ましい。一方、Disney ChannelとDisney XDは、6歳から11歳向けが対象。前者は女子向け、後者は男子向けの取扱いが多いが、両チャネルともジェンダーニュートラルなコンテンツも探しており、そうした素材・企画であれば、両チャンネルで放送できるため、取扱いもより大きくなる。多様性、平等性、包括性(Diversity, Equality, and Inclusion)の描写が入っていることを必須としているほか、シリーズを連続して視聴する必要がなく、1話だけでも繰り返し視聴できるコンテンツを求めている。現在流行っているコンテンツではなく、これから何が流行るのかを先取りして探し調達したいという意向が強い。
PBS Kids:
PBS Kidsはセサミストリートで有名な米国の公共放送Public Broadcasting Service(PBS)の子供向け(2歳から8歳が対象の)放送局。現在パペット作品は積極的に探しておらず、コスト面の理由もあり2Dコンテンツが多い。
2歳から5歳向けが中心で、子供が自分の周辺世界を知りたいという探求心を刺激するキャラクター関連コンテンツを探している。教育的要素が含まれていることが条件で、言語、数字、および芸術の分野に関心が高い。
通年で募集しており、なるべく早い段階から共同制作に入りたいという意向が強く、完パケの買付けは非常に稀。素材・企画を持ち込む制作会社側が、作品の権利を保持する代わりにすべての資金責任も負う形をとり、PBS Kidsとして資金提供は行わない。なるべく企画の初期段階からPBS Kidsと組むことにより、資金集めが容易になるとの考え。配給は、PBS Kidsとしては米国地域のみ担当し、その他の地域についての配給権を保持することはないが、海外の公共放送網と繋ぐことは可能。
Apple TV+:
Apple TV+は、米国アップルが3年前にサービスを開始したストリーミングサービス。子供向けには、3歳から5歳のプリスクール、および6歳から11歳向けコンテンツを求めている。同社ではオリジナル作品の制作を基本とし、完成作品の買付けはスヌーピーなどの例外を除いてまず行っていない。3分程度の短編や逆に60分以上の長編でもなく、ストリーミングに適した連続視聴できる1話22分程度のシリーズ作品を探している。
直接の売込みは受け付けておらず、基本的にエージェント経由。売込みに際してはPitch Pageと呼ばれる3-5ページ程度に登場人物、ストーリーや世界観が描かれた提案書を提出してもらうが、脚本やサンプル動画などの提出は必要ない。Pitch Pageが採択された場合、Apple TV+側が資金を出して3パターンの脚本とビジュアルデザインの開発を依頼することとなる。
なお農場関連、犬関連など既に配信されている作品と類似のコンテンツは求めていない。教育作品の取扱いはない。
Nickelodeon:
Nickelodeonは、米国Paramount Global傘下の子供向け放送局。数カ国を除きほぼ全世界で作品を展開。従来のケーブル放送向けの30分コンテンツに加え、ストリーミングサービス配信向けの短編コンテンツなども取り扱っている。現在制作中の51作品のうち、同社だけで制作しているものは一部であり、残りの多くは他社と連携して制作している。そうした連携先を常に探しており、送られてきた企画は随時グローバルの担当者全員で共有し選定を行う。
各国それぞれにトレンドが異なるため、一概にフォーカスを定義することはできないが、米国外のグローバル向けトレンドとして、実写作品のニーズが高まっており、積極的に探している。なお、企画に当たっては、映像コンテンツのみではなく、関連商品の展開についても併せて検討してほしいとのこと。
Warner Bros. Discovery:
Warner Bros. Discoveryは映画配給なども行うエンターテイメント企業。子供向けテレビ作品の買付けおよび共同開発担当部門にて、6歳から11歳向けCartoon Network、および2歳から5歳向けCartoonito用の作品を探している(なお、18歳以上のアニメを扱うチャネルAdult Swimは同部門の対象外)。現時点では実写作品は探していないものの、方針は流動的で来月には変更している可能性も。作品選定は公開の1年半前のタイミングで行うため、2025年に放送されることを意識して企画提案することが望ましい。
素材・企画を持ち込む制作会社側が、作品の権利を保有する代わりにすべての資金責任も負う形をとり、資金提供は行わない。
売込みに当たっては、資金調達の計画、海外配給計画、Warner Bros. Discoveryと組みたい理由をよく検討の上、1枚程度の提案書にまとめ2分程度で簡素に説明できる形が望ましい。
YouTube Kids:
YouTube Kidsは、YouTube上にアップロードされた子供対象の作品のみを集約し配信するサービス。一般公開されている作品ガイドラインに基づき、まずコンテンツ配信者自身が該当性を判断の上、アップロード時に” YouTube Kids”のアイコンをクリックすれば、YouTube Kidsコンテンツとして自動的に配信される。配信後は、よりガイドラインに沿った作品が検索によりヒットしやすくなるシステムを採用。
以前はYouTubeの資金提供によりオリジナル作品を制作したこともあったが、現在はその予定はない。作品配信者への支払いについては、他のYouTube コンテンツと同様、作品の視聴回数等に応じ、広告収入の一部を配信元へ支払う仕組み。
2022年上半期のYouTube Kidsの視聴動向としては、宇宙関連の作品の再生回数が急速な伸びを示し、太陽系に関する作品の再生回数は300%以上増加した。その他、再生数が伸びていた分野としては、爬虫類関連(190%)、スポーツ関連(180%)、レーシングゲーム関連(140%)、ミュージシャン関連(140%)、犬関連(100%)など。
Netflix:
Netflixは、米国ストリーミングサービス大手。子供およびファミリー向けコンテンツとしては、いかに他の年齢層の家族と一緒に楽しめるコンテンツにできるかに重点を置いている。Netflixが資金を出しオリジナル作品として制作する作品は、エージェント経由か、Netflixが既に関係を有するアニメーションスタジオ等経由で持ち込まれることが一般的。ピッチに当たっては、従来のような作り込んだ資料は必要なく、アイディア段階で持ち込んでもらい一緒に開発を行っていく形を希望している。
なお、完パケの配信については、買付担当者が別途、直接メールを受け付けている。
- 作成
- ジェトロ・ロサンゼルス事務所
- 取材・執筆
- 津脇慈子、ジョン真愛、トーレス久美子
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