海外発トレンドレポート

世界最大の映画市場、輸入作品は規制あり
(中国・上海発)

2023年2月3日

市場概況及び関連統計

(1)市場概況

経済成長に伴い購買力を高めた消費者が増加したことを背景に、中国の映画市場は2010年に初めて100億元(1元=約19.3円、2022年12月現在)の興行収入を達成し、この時期を境に急成長期に突入した。2019年の興行収入は642億元と、9年間で6倍に達した。ただし、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の蔓延により映画産業は大きな打撃を受け、2020年の興行収入は200億元にとどまった。2021年の興行収入は約480億元まで回復したが、2019年の水準には未だ至っていない。

中国では、映画市場の規律等環境整備と国産映画産業育成のため、2016年11月に「中華人民共和国映画産業促進法」※1が全国人民代表大会常務委員会で可決され、2017年より正式に施行された。これらの法律や政策により外部環境が整備され、中国資本による投資が拡大する中で、中国の映画産業は実力を蓄え、良質な中国国産映画作品を次々と生み出している。一方、映画市場は急成長期を終え、2016年以降は成長率自体が下げ止まっており、また海外映画も参入していることから、今後一層の競争激化が予想される。

(2)関連統計

中国の映画市場は、コロナ禍の影響により、2020年に興行収入と来場者数が近年見られないほどの低水準に落ち込んだ。しかし、中国政府によるコロナ対策が奏功し、2020年8月から徐々に各地の映画館が再開した。対照的に世界各国は同時期にほぼ停滞状態だったため、中国の興行収入がアメリカを追い抜き、2020年に初めて世界1位となった。2021年に入ってもなお回復基調を続け、世界1位を維持している。※2

※1
出典:新華網「中華人民共和国映画産業促進法」(2016年11月)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
※2
出典:猫眼電影公式アプリケーションのデータをもとにIP FORWARD株式会社が作成

中国映画市場の興行収入(2012~2021年)

中国映画市場の興行収入は、2012年の170億元から毎年右肩上がりに増加し、2019年は641億元を突破した。2020年はコロナ禍の影響で204億減に急減したものの、21年は472億元にまで回復している。同様に成長率も2020年にマイナス69%まで大きく落ち込んだが、21年は131%へ回復している。

出所:猫眼公式アプリケーションのデータをもとに、IP FORWARD株式会社が作成

一方、2021年やそれ以前の興行収入を見ると、日本映画の市場占有率は低く、今後の成長可能性を残していると言える。日本映画は2020年に合計11本が上映され、輸入本数ではアメリカに次ぐ第2位であったが、総興行収入では3.4億元と、全体の1.7%にすぎなかった。これに対しアメリカ映画は、同年30本が上映され、総興行収入は25.4億元と、全体の12.4%を占めた。また、これまで中国で上映された日本映画はアニメが主力であり、種類が比較的偏っている 。※3さらに、国産映画と輸入映画の興行収入の割合の推移を見ると、コロナ禍の影響で海外での映画の制作、配給が遅れたことも影響していると思われるが、国産映画の割合が徐々に増加している 。※4

※3
出典:猫眼公式アプリケーションのデータをもとにIP FORWARD株式会社が作成
※4
出典:国家電影事業発展専項資金管理委員会弁公室「2021年度中国電影市場数据報告」(2022年2月)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

中国国産・輸入映画の興行収入の割合(2011~2021年)

中国における国産映画と輸入映画の興行収入の割合は、2012年は国産が48.7%、輸入が51.3%とほぼ拮抗していたが、2021年現在は国産が92.5%を占めており、輸入映画の比率が大きく縮小している。

出所:国家電影事業発展専項資金管理委員会弁公室「2021年度中国電影市場数据報告」

消費者/ユーザーの動向

まず、題材について、これまで中国で上映されてきた作品のジャンルを見ると、日常生活を題材とした作品が全作品の約半分の51%を占めている。現代社会生活を描写する作品が好まれる傾向であることが分かる。アニメとコメディー作品はそれぞれ10%となっている※5。実際、中国の映画・ドラマ制作会社も日常生活やアニメ関連IPを中心に調達し、作品開発を行う傾向がある。

一方、コロナ禍の影響で、映画館が十分稼働できないうえ、業界全体の制作ペースが落ちており、収益性が悪化しているとみられる。特に、輸入映画の作品上映数の急減は肌で感じることができる。また、近年はTiktokの流行により、映画鑑賞よりも、スマートフォンで短編動画を楽しむ人が増加している(テレビドラマも同じ問題に直面している)。このため、短編動画を手掛ける映画会社が増えている。

※5
出典:中国映画網公式ウェブサイトのデータをもとに作成

中国映画市場における題材別の作品本数割合

中国映画市場における題材別作品本数の割合を見ると、最大が日常生活の51%、次いでアニメとコメディーがそれぞれ10%、アクションが8%、その他が22%となっている。

出所:中国映画網公式ウェブサイトのデータをもとに、IP FORWARD株式会社が作成

留意すべき規制

輸入映画を中国で上映するためには、国家電影局の検閲を受け、映画上映許可証(通称「ドラゴンシール」)を取得しなければならない※6

輸入映画の映画上映許可証は、実務上、中国政府の指定する中国電影集団公司進出口分公司のみ申請可能である。中国電影集団公司進出口分公司がいったん作品内容を審査し、問題ないと判断した場合に、同社から国家電影局に対して検閲を申請する。検閲を通過した場合、映画上映許可証が発行される。また、輸入映画に関しては、本数制限が存在しており、2020年までは年間120本前後で推移しているが、近年はコロナの影響で、海外映画は減少傾向にある。

ちなみに、中国の映画会社と共同制作した合作映画もある。合作映画は、輸入映画と同様、国家電影局の検閲を受け、映画上映許可証を取得しなければならない※7。ただし、プロセスは輸入映画と異なり、(1)制作前に、脚本内容について一旦検閲を受けて、撮影許可証を取得し、(2)製作後、上映前に国家電影局による内容審査を受ける必要がある。

※6
映画管理条例24、28条
※7
中外映画合作撮影製作管理規定16条

市場参入のアドバイス

日本の著名人気作「ドラえもん」や「ONE PIECE」等の映画の輸出は引き続き需要が見込まれるほか、有望なIPや脚本等を持って市場参入を試みるべきである。中国企業にインタビューを行うと、日本のIPや脚本に関心を持つ企業が少なくない。但し、日中間のビジネス慣習を近づける必要があろう。特に、日本企業の意思決定の遅さに関する指摘が多い。すなわち、日本企業は意思決定を慎重に行いがちだが、市場変化の激しい中国でビジネスチャンスを重視する中国企業は、早期に契約締結し、作品製作に着手することを望むケースが多い。以上を含め、日本企業が中国市場に参入し、中国企業と取引を成功させるには、下記の事項を意識しながらビジネスを進める必要がある。

  1. 互いに平等なパートナーであることを常に意識し、中国事業者(バイヤー、プラットフォーム側等)の意見を尊重すること
  2. 権利の所在を明確に整理すること
  3. 契約条件の検討等における意思決定のスピードを上げること
  4. 上映前のプロモーションが重要であるため、積極的に実施していくこと
  5. 製作段階から監修まで、積極的に中国企業とコミュニケーションを取ること

作成
ジェトロ・上海事務所
執筆
上海擁智商務諮詢有限公司(IP FORWARDグループ) 張 雋
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本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)上海事務所が上海擁智商務諮詢有限公司に作成委託し、2022年9月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロおよび上海擁智商務諮詢有限公司は一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよび上海擁智商務諮詢有限公司が係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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