日本食材サポーター店インタビュー SOMENOYA Barcelona

スペイン・バルセロナに拠点を置くSOMENOYA Barcelonaは日本のとうふを現地で製造販売する日本企業だ。そのはじまりは、2010年4月に元新聞記者の清水建宇氏が創業した「Tofu Catalán」に遡る。2022年に清水氏から日本の老舗とうふ店「染野屋」が事業を継承した。「染野屋」は江戸時代の1862年に茨城県取手市の宿場町で創業。ラッパを吹きながら街を練り歩く移動販売で知られ、江戸時代から続くとうふ製造の技術を今に伝える企業だ。その技術をスペインにも根づかせるべく、2023年1月からは日本の職人が現地に住み込み、現地職人への技術指導を行った。伝統を受け継ぎつつ、茨城県産の米や、染野屋が開発した植物性代替肉「ソミート（SoMeat）」など、日本の食文化を丸ごと発信する拠点として、SOMENOYA Barcelonaは新たな歩みを進めている。

同社では、とうふのほかにも日本の食材や技術を活かした製品を展開している。代表的なのが、植物性の代替肉「ソミート」。これは染野屋が日本国内で開発した大豆ミートで、動物性原料を使わずに“肉らしい”食感と旨味を再現した製品だ。国内工場で丁寧に製造されており、ビーガンやヘルシー志向の欧州の消費者からも人気を博している。
さらに、茨城県産米もSOMENOYA Barcelonaの重要な日本産食材の一つだ。豊かな自然環境の中で育ったこの米は、冷めても硬くなりにくいという特徴があり、現地のイベントや弁当販売などでも使われ、日本の食文化の象徴として高く評価されている。

日本について一定程度の知識があるスペイン人の多くはとうふを「TOFU」の名で認知している。製造方法や味は異なるが、現地スーパーでもTOFUを販売するほどだ。SOMENOYA Barcelonaに来店する客も約8割がスペイン人だという。皆、本物のとうふや豆乳を求めて来店するためリピーター客も多い。自社の小売店舗での販売のほか、レストランや現地スーパーなど、現在の取引先は200社を超える。日本食レストランやアジア系食材店にとどまらず、スペイン料理レストランや現地のスイーツ屋など、取引先の業種の幅が広いのも特徴だ。スペイン人の多くは、とうふをビーガン食品と捉える人が多いという。ただ、「ビーガン食品の縛りをなくしていきたい」と同社の小林正哉氏は言う。同社は「ソミート」を開発する一方で、「ビーガンに限定されない、日本のおいしい食品」としての普及を目指している。茨城県産米を使った弁当やおにぎりも販売され、バルセロナの人々に日本の味を身近に感じてもらうきっかけとなっている。

SOMENOYA Barcelonaがスペインでの事業運営において最も重視しているのは、「信頼関係の構築」である。日本の商習慣がそのまま通用しない場面も多い中で、消費者や取引先、関係業者との信頼を一つひとつ積み重ねることが、事業の基盤となっている。たとえば、地元イベントへの出展を通じて消費者との接点を増やしている。バルセロナで開催される日本文化イベント「MATSURI」への参加もその一例である。こうした活動は、商品開発のヒントを得る機会であると同時に、従業員のモチベーション向上にもつながっている。また、取引先との関係構築にも力を入れており、納品時には現地を訪問して担当者と直接対話を行うほか、とうふセミナーの開催など、単なる商品提供にとどまらない付加価値の創出を心がけている。さらに、日本産食材サポーター店制度認定制度への登録も、「日本産食材」を取り扱う店舗としての証明になり、現地のブランディング強化に役立つ制度だという。

スペインでは寿司やラーメンなどの日本食が右肩上がりで人気を高めているが、フランスやドイツ、オランダと比べると、日本食材の流通量はまだ限られている。同社ではこの課題を受け、自社で輸出入機能を持ち、日本食材の仕入れ・販売体制の強化を進めている。海外展開を目指す日本企業の輸出入業務サポートも拡大していく予定だ。また、店舗内ではとうふや豆乳に加え、弁当・惣菜・おにぎり、日本食材の販売コーナーも展開し、今後は店舗の拡張とともにこれらの品揃えをさらに充実させる方針だ。大豆関連製品だけではない、「日本のおいしいものを売っている店」として、地域に根ざした存在となることを目指している。
「おいしいものに国境はない」という理念のもと、SOMENOYA Barcelonaは、世界中の人々に日本のとうふ、ひいては日本の食文化を届ける挑戦を続けている。