税制面における香港統括会社の優位性

質問

東アジア地域を管轄する地域統括拠点の設立を検討しています。税制面における香港の優位性を教えてください。

回答

総論

香港は中国という巨大市場に隣接しており、英語を公用語とする点や税制といったビジネス環境の優位性から、かつては多くの企業が中国事業の統括拠点を香港に設置してきました。ただし現在は、中国の規制緩和等の理由により、香港の統括拠点としての存在意義は低下していると言われています。さらには香港では2020年6月に香港国家安全維持法が、2024年3月23日には国家安全維持条例がそれぞれ施行され、その影響が懸念されています。ジェトロ等が2025年2月7日に発表した「第15回香港を取り巻くビジネス環境にかかるアンケート調査」によれば、「情報に制限がかかる恐れがある」「労働力の流出や海外移住に伴う離職」「香港の「法の支配」「司法の独立」が失われる恐れがある」といった懸念事項が挙げられています。

法人税

税率

香港の法人税は税率が16.5%と周辺諸国の中で最も低いといえます。実効税率では日本の半分程度の税負担となります。さらには、低所得部分は軽減税率となること、課税所得の範囲についても香港外に源泉がある所得を非課税となっていること、優遇税制の適用を受けられる場合もあることから、日本や周辺諸国に比べて税負担が低くなる可能性がある点が大きな特徴です。

税率比較の図(2026年3月時点)
順位 国名 法人税率
1 香港 16.50%
2 シンガポール 17%
3 台湾 20%
3 カンボジア 20%
3 タイ 20%
3 ベトナム 20%
7 インドネシア 22%
7 ミャンマー 22%
9 マレーシア 15/17/24%
9 韓国 10/20/22/25%
11 中国 25%
11 フィリピン 25%

軽減税率制度

通常の法人課税所得のうち、最初の200万香港ドル(HKドル)に対しては8.25%の軽減税率が適用されます。

国外所得課税

香港では基本的に、香港を源泉とする所得のみが課税の対象です(地域主義(Territorial Source Principle))。しかし、2023年1月から国外源泉所得免税制度 (Foreign-sourced Income Exemption、以下「FSIE制度」)が改正、2024年1月1日から修正版の施行がされ、香港外の源泉所得についても香港で課税されるケースが発生します。このFSIE制度は、Multinational enterprise groups(多国籍企業グループ、以下「MNEグループ」)の構成企業が香港で受領する特定の外国源泉所得(利息、配当、知的財産所得、資産譲渡益)を、香港の法人所得税の課税対象とするものです。MNEグループとは、最終親会社の所在国以外の国・地域に、少なくとも1つのエンティティまたは恒久的施設(PE)を有するグループを指します。よって日本企業が香港に統括拠点を設置した場合において当該統括拠点が稼得する外国源泉所得は、基本的にはFSIE制度の対象になるものと考えられます。なお、香港統括拠点が特定の例外要件(経済的実体要件、ネクサス要件、資本参加免除要件、またはグループ内譲渡の軽減措置)を満たす場合は、免税となります。

キャピタルゲイン課税

香港では基本的にキャピタルゲインは非課税です。しかし、上述のFSIE制度の対象である香港統括拠点が、香港国外で生じたキャピタルゲインを香港で受け取る場合や、香港で行われる事業の債務の弁済に充当した場合等は、香港で課税対象となります。なお、香港統括拠点が、経済的実体要件を満たしている場合、経済的実体の要件を満たしていない場合においても資本参加免除要件の要件を満たしているときは免税となります。経済的実体要件とは、香港統括拠点が事業活動の性質と実態に見合った従業員を雇用しているか、管理運営が原則として自社で実施されているか、物理的拠点を有するか等により判断されます。また資本参加免除要件は、キャピタルゲインの対象となる株式を、キャピタルゲイン受領直前の12ヶ月以上の期間において5%以上継続保有しているか、対象株式を発行している法人の所在地国における法人所得税率(適用税率)が15%以上であるか等により判断されます。

優遇税制(CTC)

香港では、多国籍企業がグループ全体の資金管理を効率化できるよう、企業財務センター(Qualifying Corporate Treasury Centre、以下「QCTC」)制度による税制優遇措置が導入されています。この制度を活用すると、香港統括拠点がグループ内で行う金融・財務活動から得られる利益に対して、通常の法人所得税率16.5%の半分である8.25%の軽減税率が適用されます。これにより、例えば海外子会社への貸付による利息収入の税負担を大きく減らすことができます。

  • 対象業務:グループ内での資金の借入・貸付、保証、キャッシュプーリングなどの財務管理業務
  • 選択の特徴:一度選択すると原則撤回できません。また制度の適格性を満たさなくなった場合、法人所得税率は通常の16.5%となります。
  • 留意点:QCTCを選択した法人は、香港の二段階税率(最初の200万香港ドルに8.25%)の軽減措置は使えません。

実務上は、香港税務当局の事前確認(Advance Ruling)や過去の裁決事例に基づき、「社内間借入・貸付の頻度・規模・継続性」などが要件充足の判断材料となります。

香港統括会社の活用

租税条約

香港は、日本を含む多くの国・地域と租税協定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを締結しています。ここにはASEAN諸国(ミャンマー、フィリピンを除く)が含まれるほか、日本はもちろん中国、韓国、インドなどアジアの主要国は概ねカバーされています。租税条約上の恩恵とは具体的には締約相手国側における税金の免除・軽減となります。たとえば各国に所在する事業子会社から配当・利子・使用料という形で利益を吸い上げる場合、当該各国において源泉税の負担義務が生じることが一般的です。ここでもし租税条約が締結されている場合には、源泉税が減免されるといった恩恵を享受することができます。

配当金

地域統括拠点が傘下の事業子会社から配当の形で所得を得る場合、一般には2段階で課税されることになります。1段階目は配当を行う事業子会社側において、配当を支払うタイミングで課せられる源泉税です。2段階目は、配当を受け取る地域統括拠点側における課税です。1段階目の事業子会社側の源泉税については租税条約による減免の可能性があります。この恩恵を享受するためには広い租税条約のネットワークを持つ国に地域統括拠点を設置することが有利となります。香港は多くの主要なアジア諸国と租税条約を締結しており、恩恵を享受できる可能性が高くなっています。

利子

事業子会社に貸付を行い利子収入を得る場合には、原則として香港の課税対象となります。なお一定の利子収入については免税措置が取られています。課税対象となる利子収入は原則的には通常所得に含まれ法人税16.5%の負担となります。日本親会社が貸し付けた場合には日本側では約33%程度の法人税負担が生じますので、香港の地域統括拠点で利息を受け取る場合には税負担を下げることができます。前述の優遇税制CTCの適用を受ける場合には、より大きな税負担軽減効果を得られます。また配当と同様、事業子会社側で源泉税負担が生じますが、こちらも租税条約による減免を期待できます。

ロイヤルティ収入・マネジメントフィー収入

事業子会社からロイヤルティ収入・マネジメントフィー収入を得る場合も基本的な考え方は利子収入と同じです。事業子会社側で損金になる一方で受け取り側では益金となることから、税率差を利用することでグループ全体の税負担を軽減することが可能です。また事業子会社側で生じる源泉税についても同様です。

各国から日本親会社への支払に係る源泉税率(租税条約適用後)
国または地域 配当 利息 ロイヤルティ
香港 免税 免税 4.95%
中国 10% 10% 10%
シンガポール 免税 10/15% 10%
台湾 10% 10% 10%
カンボジア 14% 14% 14%
タイ 10% 15% 15%
ベトナム 免税 5% 10%
インドネシア 10/15% 0/10% 10%
マレーシア 免税 10% 10%
韓国 5/15% 10% 10%
ミャンマー 免税 15% 15%
フィリピン 15% 10% 10%
各国から香港統括拠点への支払に係る源泉税率(租税条約適用後)
国または地域 配当 利息 ロイヤルティ
香港
中国 5/10% 7% 5/7%
シンガポール 免税 15% 10%
台湾 21% 15/20% 20%
カンボジア 10% 10% 10%
タイ 10% 15% 5/10/15%
ベトナム 免税 5% 7/10%
インドネシア 5/10% 0/10% 5%
マレーシア 免税 10% 8%
韓国 10/15% 10% 10%
ミャンマー 免税 15% 15%
フィリピン 15/25% 15% 20%

中国との比較

中国の事業子会社から日本親会社に配当等を行った場合と、中国の事業子会社から香港の地域統括拠点に配当等を行った場合を比較すると、前述の表の通り事業子会社側の源泉税率が低くなり、税務効率が良くなることが考えられます。

留意が必要となる税制

外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)

香港のような税負担が低い国または地域(軽課税国)に子会社を持つ場合には、日本の外国子会社合算税制への注意が必要です。外国子会社合算税制が適用された場合地域統括会社の所得が日本の親会社の所得に合算され日本で課税されてしまい、香港の低税率のメリットを享受できなくなってしまいます。外国子会社合算税制は、軽課税国に事業実態のない会社を設立し、そこに所得を集中させることにより日本の税負担を軽減・回避することを防止するための制度です。具体的には軽課税国に設立された外国子会社のうち、租税負担割合が一定(ペーパー・カンパニー等は27%、それ以外の外国子会社等は20%)未満の会社です。また、事業実態の有無が重要となり、具体的には外国子会社が一定の基準(経済活動基準)を満たすかにより判定されます。軽課税国に設立された会社であっても事業実態がある場合には基本的には適用を受けることはありません。
同税制では部分的な所得合算を求められる場合もあり、さらなる注意が必要です。具体的には、外国子会社に配当や利子、使用料、有価証券の譲渡益などの受動的所得がある場合には、それらについては合算課税の対象となります。なお、配当のうち持分の25%以上(資源投資会社は10%以上)を6ヵ月以上保有する法人から受けるものやグループファイナンスから生じる利子等は合算対象となる受動的所得から除かれています。

移転価格税制

地域統括拠点を香港のような軽課税国に設置する場合には、グループ全体の税効率の観点からは同拠点になるべくグループの課税所得を集中させることが望ましいと考えられます。しかし、香港の地域統括拠点に課税所得を集中させようとグループ内取引における取引価格を設定しても、それが第三者との間で設定される取引価格とは異なる場合には、移転価格税制が適用され思わぬ税負担が生じてしまうリスクがあります。移転価格税制とは、国外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、国外の関連企業との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度です。移転価格税制の対象取引は、対象会社と国外関連者(基本的には50%以上の株式保有関係がある海外グループ会社)との間で行われる取引全般となります。 独立企業間価格とは上述の通り資本関係の無い第三者との間で設定される取引価格ですが、その算定は対象会社が国外関連者に対してどのような機能を持ち、どのようなリスクを負担しているか等という観点からの分析によって行われることになり容易ではありません。 移転価格課税への対応には一般的に多大な事務負担が強いられますので、事前に慎重に検討しておくことが望ましいと考えられます。

最後に、香港では政治面で中国化が進められ、2018年から2019年にかけてデモが激化するなど不安定な情勢となり、外資系企業には香港からの撤退や進出見送りの動きがみられました。また米中対立の香港経済への影響や、2020年6月末に施行された「香港国家安全維持法」や、2024年3月23日に施行された「国家安全維持条例」が在香港企業の活動への影響等も引き続き注視する必要があります。ただし前述の「第15回香港を取り巻くビジネス環境にかかるアンケート調査」によれば、「香港国家安全維持法」の施行による在香港の各社拠点への影響について「特に影響していない」と回答した企業は69.3%、「国家安全維持条例」の施行については69.6%と、実際の企業活動への影響は限定的という見方もあるようです。

調査時点:2022年3月
最終更新:2026年3月

記事番号: C-220813

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