VAT登録の要否:EUへ輸出する場合

質問

イタリアへ輸出するにあたり、先方より当社のVAT登録番号を要求されました。商品の発送地は日本で、イタリアへ直接出荷します。また当社の拠点は日本国内のみで、EUに支店もありません。この場合、当社はVAT登録が必要ですか。

回答

欧州の事業者が海外のサプライヤーに対して付加価値税(VAT)登録番号を要求することは多くあります。EU域内取引では、輸入VATの仕入税額控除のため、買手はサプライヤーのVAT登録番号を入手し、自国の税務当局へ報告する必要があるためです。VAT登録の要否は、事業者がEU域内でVAT課税対象となる活動を行っているかどうかで判断されます。

VATの課税対象となる活動は、資産の譲渡、役務の提供、EU域内取得、資産の輸入です。本件は資産の譲渡に該当しますが、商品の受け渡し条件(インコタームズ)によって、対応が異なります。

I. VAT課税対象となる受け渡し条件

CIF(運賃保険料込み条件)やFOB(本船甲板渡し条件)等の場合、事業者の活動はVAT課税対象ではなく、VAT登録番号を取得する必要はありません。

受け渡し条件が、DDP(仕向地持ち込み渡し・関税込み条件)の場合は、 以下の2種類のDDPがあり、対応が異なります。

  • 輸入VAT支払い義務を含むDDP
  • 輸入VAT支払い義務を含まないDDP
  1. 輸入VAT支払い義務を含むDDP

    貴社は通関とVAT管理、両方の目的のために現地代理人を任命し、輸入関税および現地輸入VATを支払います。欧州域内の事業者へDDP(VAT込み)条件によって物品を販売するには、原則として、商品代金と合わせて現地国内VATを課税・徴収し、イタリア当局に納税する必要があります。ただし、本件のケースでは、イタリアでは外国企業による資産の譲渡に対して「リバースチャージ制度」が適用されるため、貴社はイタリアでのVAT登録および国内VAT納付は必要ありません。

    「リバースチャージ制度」
    EU理事会指令は、各加盟国に対し、EU域外の事業者が行う資産や役務の提供にかかわる納税義務を受益者に転嫁する、いわゆるリバースチャージ制度の導入を認めています。加盟国によってその導入の範囲は異なります。国ごとに確認してください。

    輸入VAT支払い義務を含むDDPの場合、以下の2点に注意してください。

    1. EU加盟国での資産の譲渡に対してリバースチャージ制度が適用される場合(注)、売主(貴社)が買主(イタリア顧客)に対して発行するインボイスには、イタリア顧客のVAT登録番号、リバースチャージが適用される旨、およびイタリアでの根拠条文を明記する必要があります(イタリアVAT法DPR 633/72第17条2項)。
    2. イタリアは、非居住者が所在する国との間の互恵関係を前提に、非居住企業が納付したVATの還付を認めています。ただし、日本はこの互恵関係が認められていないため、貴社がイタリアへの輸出時に支払った現地輸入VATは還付されません。イタリアで輸入VATの還付を受けるためには、貴社はイタリアでVAT登録を行い、イタリアでの税務申告をする際に前段階税として控除または還付を申請する必要があります。

    注)資産の譲渡に対してリバースチャージを適用している加盟国:フランス、イタリア、スペイン、ベルギー、オランダ、ポルトガル、スウェーデン、フィンランド、エストニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、クロアチア、マルタ。※ただしドイツは含まず。(2016年1月1日時点 European VAT Compass IBFD)

  2. 輸入VAT支払い義務を含まないDDP
    貴社は通関目的のためにのみ代理人を任命します。輸送コスト、保険代、通関費用はすべて貴社が負担する必要があります。ただし、輸入VATは輸入者であるイタリアの顧客が支払います。この場合、貴社の活動はVAT課税対象に該当しないため、貴社はイタリアでのVAT登録番号を取得する必要はありません。

II. 留意点

  1. イタリアでの今回のケースでは、どのような決済条件であってもVAT登録番号を現地で取得する必要はありません。ただし、イタリアのように非居住企業に対するVAT還付ができない加盟国の場合、支払い済みの現地輸入VATを還付請求するには現地でのVAT登録およびVAT申告が必要です。
  2. EU加盟国へのDDP条件での納品の際は、商流・物流を事前分析し、慎重な対応が求められます。
  3. VAT登録番号を取得する手続きは複雑です。VAT法に精通した法律事務所、会計税務事務所あるいはVAT専門業者に依頼することをお勧めします。

※本資料は、日本貿易振興機構(ジェトロ)の委託を受けたオプティ株式会社が作成しました。ジェトロおよびオプティ株式会社による法的な見解・助言でないことをあらかじめ了承ください。また、本件では、イタリアの事例を説明していますが、他の加盟国の場合には全く異なる税務上の取扱いとなる場合があります。実際のビジネスに当たっては、本資料のみに依拠せず、別途専門家から助言を受けてください。

関係法令

Eur-lex:
付加価値税の共通システムに関する欧州理事会指令2006/112/ECPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(475KB)

EU関税法(第5条、第64条)
COUNCIL REGULATION(EEC) No 2913/92 of 12 October 1992 establishing the Community Customs CodePDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(315KB)

調査時点:2015年12月
最終更新:2021年11月

記事番号: O-110801

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