ルーマニアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は2.1%と前年から鈍化。
  • 貿易赤字幅は10年ぶりに縮小、隣国ウクライナ向け輸出が大幅増。
  • 対内直接投資は大型ガス開発や再生可能エネルギーで活発な動き。
  • 対日輸出は最大品目の加熱式たばこが好調、貿易黒字幅が拡大。
  • 日系企業の主な投資案件はインフラ、電子部品製造、デジタル開発など。

公開日:2024年10月9日

マクロ経済 
国内総固定資本形成が大幅な伸び

2023年の実質GDP成長率は2.1%と、前年の4.1%から伸びが鈍化した。GDPを需要項目別にみると、国内総固定資本形成が前年比14.4%増(寄与度3.6%ポイント)で最も寄与度が高く、成長をけん引した。EU復興基金などを活用したインフラやエネルギー分野での公共投資の拡大が背景にある。次いで寄与度の高い民間最終消費支出(寄与度1.8%ポイント)は、消費者物価指数(CPI)上昇率の高止まりもあり、2.8%増と前年の5.1%増から減速した。一方で、2024年中にも法定最低賃金の10%引き上げが予定されており、所得拡大に支えられ消費の伸びは今後も一定の水準を維持するとみられる。財貨・サービスの輸出は前年の9.7%増を大きく下回る1.4%減でマイナスに転じた。

GDPを産業別にみると、建設が11.0%増と好調だったほか、農業が前年に深刻な干ばつの影響で23.4%減と落ち込んだ反動もあり10.2%増となった。情報通信は5.1%増で前年の22.7%増から鈍化したものの堅調な伸びを維持し、EU域内のITエンジニアリング供給源としてオフショア開発やデジタル拠点開設のニーズに支えられた。鉱業・製造業は2.3%減と2年連続でマイナス成長となった。

足元の景況感は持ち直しの動きがみられる。2023年の企業倒産は前年比0.02%増の6,650社と横ばいで、新型コロナウイルス感染拡大の影響で倒産が相次いだ2021年(前年比7.9%増)や2022年(8.2%増)と比べて歯止めがかかった。ロシアのウクライナ軍事侵攻によるエネルギー価格上昇を受けた高インフレで、CPI上昇率は前年には13.8%に達したが、徐々に下落し2023年は10.4%だった。ルーマニア国立銀行(NBR、中央銀行)は2023年1月に政策金利を7.00%に利上げして以降、据え置いている。CPI上昇率は2024年末までに4.9%まで低下するとの予測だが、インフレ目標の2.5%までは注視するとしている。政府は、2024年の実質GDP成長率を3.4%と見込んでいる。

表1 ルーマニアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 5.7 4.1 2.1 △ 0.8 1.4 1.0 △ 0.5
階層レベル2の項目民間最終消費支出 6.8 5.1 2.8 △ 1.8 2.0 0.2 2.1
階層レベル2の項目政府最終消費支出 0.2 △ 5.7 6.9 11.3 3.6 1.3 1.7
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 2.9 5.9 14.4 3.5 4.4 2.5 5.5
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 12.6 9.7 △ 1.4 △ 3.2 1.5 △ 0.7 △ 1.5
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 14.8 9.5 △ 1.4 △ 3.0 0.6 1.0 0.9

〔注1〕四半期の伸び率は前期比。季節調整済み。
〔注2〕 2022年は暫定値、2023年は推定値。
〔出所〕ルーマニア国家統計局

貿易 
貿易赤字幅は10年ぶりに縮小

2023年の貿易は、輸出が前年比1.3%増の930億9,800万ユーロ、輸入が3.2%減の1,220億4,600万ユーロとなり、貿易赤字は289億4,800万ユーロと10年ぶりに前年から縮小した。

輸出を品目別にみると、最大品目である機械・電気機器(構成比28.2%)は前年比8.7%増となった。その内訳は、電気機器および部品(18.1%)が11.3%増、原子炉・ボイラー・機械類(10.1%)は4.3%増だった。次に輸出額が大きい輸送用機器(16.6%)は8.2%増で、うち自動車・トラクター部品(7.7%)が12.6%増、乗用車(6.9%)が9.5%増と好調だった。一方、鉱物性製品(5.5%)は前年に世界的な燃料価格の高騰を受け大幅に増加した反動で30.2%減と大幅に減少し、輸出全体の伸びを押し下げた。

輸出を国・地域別にみると、全体の7割強を占めるEU(構成比72.6%)は前年比1.7%増でほぼ横ばいとなった。最大の輸出先であるドイツ(20.8%)は6.3%増、次ぐイタリア(10.2%)は2.2%増だった。中・東欧各国向けの輸出では、ハンガリー(5.7%)が前年に60.0%増と大幅に増加した反動で22.3%減、ポーランド(3.7%)も2.1%減と減少したが、ブルガリア(4.2%)は8.5%増、チェコ(3.2%)は12.8%増と好調だった。

EU域外では、ウクライナ(2.7%)が60.2%増と伸びたほか、最大の輸出先であるトルコ(3.3%)は8.6%増、次ぐ英国(2.9%)は4.0%増となった。一方、モルドバ(2.2%)は8.4%減、中国(0.9%)は20.8%減、ロシア(0.3%)は40.8%減といずれも減少した。

表2 ルーマニアの主要品目別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・電気機器 24,170 26,268 28.2 8.7 30,703 32,094 26.3 4.5
階層レベル2の項目電気機器および部品 15,137 16,848 18.1 11.3 18,029 18,599 15.2 3.2
階層レベル2の項目原子炉・ボイラー・機械類 9,032 9,420 10.1 4.3 12,674 13,495 11.1 6.5
輸送用機器 14,294 15,465 16.6 8.2 10,939 13,166 10.8 20.4
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 6,374 7,175 7.7 12.6 4,449 4,966 4.1 11.6
階層レベル2の項目乗用車 5,841 6,394 6.9 9.5 3,284 3,947 3.2 20.2
卑金属・同製品 9,093 8,229 8.8 △ 9.5 13,469 12,303 10.1 △ 8.7
階層レベル2の項目鉄鋼 3,296 2,253 2.4 △ 31.7 4,895 4,029 3.3 △ 17.7
植物性生産品 6,750 6,639 7.1 △ 1.6 4,375 3,913 3.2 △ 10.6
階層レベル2の項目穀物 4,303 4,129 4.4 △ 4.1 966 703 0.6 △ 27.2
プラスチック・ゴム製品 5,548 5,742 6.2 3.5 8,441 7,918 6.5 △ 6.2
鉱物性製品 7,311 5,101 5.5 △ 30.2 15,953 10,759 8.8 △ 32.6
階層レベル2の項目鉱物性燃料および鉱物油 7,090 4,941 5.3 △ 30.3 15,401 10,396 8.5 △ 32.5
調製食料品・飲料・たばこ 3,424 3,954 4.2 15.5 5,524 6,181 5.1 11.9
繊維 3,709 3,756 4.0 1.3 5,852 5,680 4.7 △ 2.9
雑製品 3,282 3,257 3.5 △ 0.8 2,958 3,018 2.5 2.0
化学品 3,186 3,191 3.4 0.2 13,823 12,757 10.5 △ 7.7
合計(その他含む) 91,945 93,098 100.0 1.3 126,034 122,046 100.0 △ 3.2

〔注〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕 ルーマニア国家統計局

表3 ルーマニアの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域名 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 66,456 67,575 72.6 1.7 89,336 89,501 71.0 0.2
階層レベル2の項目ユーロ圏 48,352 52,012 55.9 7.6 59,933 64,652 53.0 7.9
階層レベル3の項目ドイツ 18,259 19,404 20.8 6.3 22,436 23,672 18.8 5.5
階層レベル3の項目イタリア 9,261 9,467 10.2 2.2 10,311 10,565 8.4 2.5
階層レベル3の項目フランス 5,535 5,907 6.3 6.7 4,904 5,218 4.1 6.4
階層レベル3の項目オランダ 3,223 3,147 3.4 △ 2.3 5,025 5,239 4.2 4.3
階層レベル3の項目スペイン 2,866 3,002 3.2 4.8 3,223 3,432 2.7 6.5
階層レベル3の項目ベルギー 1,881 2,221 2.4 18.1 3,021 3,066 2.4 1.5
階層レベル3の項目スロバキア 1,788 2,021 2.2 13.0 2,393 2,424 1.9 1.3
階層レベル3の項目オーストリア 2,213 1,983 2.1 △ 10.4 3,980 4,269 3.4 7.3
階層レベル2の項目非ユーロ圏 18,104 15,563 16.7 △ 14.0 29,403 24,849 20.4 △ 15.5
階層レベル3の項目ハンガリー 6,788 5,274 5.7 △ 22.3 8,190 7,902 6.3 △ 3.5
階層レベル3の項目ブルガリア 3,563 3,865 4.2 8.5 8,805 5,686 4.5 △ 35.4
階層レベル3の項目ポーランド 3,500 3,427 3.7 △ 2.1 7,442 7,626 6.1 2.5
階層レベル3の項目チェコ 2,657 2,997 3.2 12.8 3,396 3,635 2.9 7.0
トルコ 2,819 3,061 3.3 8.6 6,048 6,364 6.8 5.2
英国 2,633 2,739 2.9 4.0 986 1,115 1.2 13.0
ウクライナ 1,544 2,474 2.7 60.2 2,199 1,469 1.6 △ 33.2
米国 2,265 2,150 2.3 △ 5.1 1,347 1,377 1.5 2.2
モルドバ 2,266 2,075 2.2 △ 8.4 1,113 1,085 1.2 △ 2.5
中国 1,083 857 0.9 △ 20.8 7,382 6,760 7.3 △ 8.4
日本 661 762 0.8 15.3 396 408 0.4 3.1
韓国 402 536 0.6 33.3 674 578 0.6 △ 14.2
インド 283 322 0.3 13.7 757 1,284 1.4 69.6
ロシア 399 236 0.3 △ 40.8 3,857 325 0.3 △ 91.6
カザフスタン 51 108 0.1 111.0 3,221 2,735 2.9 △ 15.1
合計(その他含む) 91,945 93,098 100.0 1.3 126,034 122,046 96.8 △ 3.2

〔注〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕ルーマニア国家統計局

輸入は鉱物性製品が大幅減、国別ではブルガリアが減少

輸入を品目別にみると、最大品目である機械・電気機器(構成比26.3%)は前年比4.5%増で、うち電気機器・および部品(15.2%)が3.2%増、原子炉・ボイラー・機械類(11.1%)が6.5%増となった。次に輸入額が大きい輸送用機器(10.8%)は20.4%増と好調で、輸入額全体の伸びに寄与した。自動車・トラクター部品(4.1%)が11.6%増、乗用車(3.2%)が20.2%増とともに増加した。一方、そのほかの主要品目は、化学品(10.5%)が7.7%減、卑金属・同製品(10.1%)が8.7%減、鉱物性製品(8.8%)が前年の反動で32.6%減の大幅減となったほか、プラスチック・ゴム製品(6.5%)が6.2%減と軒並み減少した。

輸入を国・地域別にみると、全体の7割強を占めるEU(構成比71.0%)が前年比0.2%増とほぼ横ばいだった。最大の輸入元であるドイツ(18.8%)が5.5%増、続くイタリア(8.4%)が2.5%増となったほか、西欧諸国からの輸入は軒並み増加した。一方、中・東欧各国からの輸入ではブルガリア(4.5%)が35.4%減と大幅減、ハンガリー(6.3%)も3.5%減と低調だった。ポーランド(6.1%)は2.5%増、チェコ(2.9%)は7.0%増、と増加した。EU域外では、最大の輸入元である中国(7.3%)が8.4%減だったが、次ぐトルコ(6.8%)は5.2%増となった。ウクライナ(1.6%)やロシア(0.3%)は、それぞれ33.2%減、91.6%減と前年の大幅増から縮小に転じた。

対内・対外直接投資 
欧州最大級の天然ガス生産に大型投資

NBRによると、2023年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比34.3%減の65億9,421万ユーロとなった。

2023年発表の主な対内直接投資案件は、大型のガス開発や再生可能エネルギーのほか自動車分野でテストセンターを拡充させる動きがみられた。オーストリアのエネルギー大手OMVペトロム(Petrom)は2023年6月、ルーマニア最大の天然ガス生産、供給を行う国営石油会社ロムガス(ROMGAZ)と共同でルーマニア黒海沿岸での天然ガス生産に最大40億ユーロを投じる決定を発表した。欧州最大級の海底ガス田・ネプチューン深海プロジェクトの運営者として、2027年のガス採掘開始を目指す。報道によると、同プロジェクトは2012年の発表時から暫く進展が見られなかったが、欧州がロシア産天然ガス依存からの脱却を急ぐ事情などを背景にこれまで投資障壁となっていた規制の改善が進んだ。

再生可能エネルギー分野では、2023年3月にドイツのAEソーラー(AESOLAR)が10億ユーロを投じ、太陽光パネル工場を建設する計画を政府に表明した。初期フェーズでは2ギガワット(GW)相当の生産規模を予定する。将来的には10GW相当まで生産規模を拡大する予定。イスラエルのエコナジー(Econergy)とノファール・エナジー(Nofar Energy)は2023年11月、1億200万ユーロを投じてルーマニアに建設した南東欧域内で最大級となる155メガワット(MW)の太陽光発電所の商業運転を開始したと発表した。ギリシャ電力公社(PPC)は2023年10月、イタリアのエネル(Enel)グループのルーマニア子会社が手がける再生可能エネルギー事業を含む電気・ガス事業などのエネルギー関連事業を12億4,000万ユーロで完全取得した。

自動車分野ではドイツ企業の動きが目立った。コンチネンタル(Continental)は2023年3月、総額800万ユーロ超を投じ北東部ヤシの拠点に自動車ブレーキシステムのテストセンターなどを新設したほか、ルーマニア国内複数の製造拠点や研究開発センターに新規設備や最先端技術を導入し、2023年の投資額は1億ユーロ超に上った。ヴィテスコ・テクノロジーズ(Vitesco Technologies)は2023年9月、1,300万ユーロ超を投じて電動車両向け製品のテストセンターを新設したと発表した。レオニ(LEONI)は2023年6月、投資額1,750万ユーロに上るワイヤーハーネス生産工場を新設し、1,200人の新規雇用を見込んでいると発表した。

所得向上で拡大する消費市場への参入もみられた。オランダの小売大手アホールド・デレーズ(Ahold Delhaize)は2023年10月、ルーマニアでスーパーマーケット1,645店舗を展開するプロフィ・ロム・フード(Profi Rom Food)を約13億ユーロで買収することで合意したと発表した。先行してルーマニア国内で同社が展開しているスーパーマーケットチェーンのメガ・イマージュ(Mega Image)の969店舗は都市部が中心だが、今回の買収により販売網を全国に広く展開する狙いだ。メキシコの製パン大手のグルーポ・ビンボ(Grupo Bimbo)は2023年3月、ルーマニアで1999年に設立され国内で10の製パン所を展開するベル・ピタール(Vel Pitar)を買収して市場に参入した。ショッピングモールなどの商業複合施設の開発では、オランダのNEPIロックキャッスル(Rockcastle)が2023年10月、南西部の中核都市クライオバに大型商業複合施設を開設した。英国の不動産投資会社LCPは2023年12月、ベルギー本拠の不動産開発大手ミティスカ・レイム(Mitiska REIM)がルーマニア国内25カ所で開発した商業複合施設を2億1,900万ユーロで取得した。

表4-1 ルーマニアの主な対内直接投資案件(2023年)[M&A以外]
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
エネルギー OMVペトロム(Petrom) オーストリア 2023年6月 最大40億ユーロ OMVペトロムとルーマニア国営石油会社ロムガス(ROMGAZ)が、ルーマニア黒海沿岸における欧州最大級の海底ガス田プロジェクトへの共同出資を発表した。
再生可能エネルギー AEソーラー(AESOLAR) ドイツ 2023年3月 10億ユーロ ドイツのAEソーラーは、年間10ギガワット相当の生産規模に上る太陽光パネル工場を建設するとルーマニア政府に表明した。
再生可能エネルギー エコナジー(Econergy)、
ノファール・エナジー(Nofar Energy)
イスラエル 2023年11月 1億200万ユーロ イスラエルの再生可能エネルギー2社が共同で建設した南東欧域内で最大級となる155メガワットの太陽光発電所の商業運転を開始したと発表。
自動車 コンチネンタル(Continental) ドイツ 2023年12月 総額1億ユーロ 自動車部品大手コンチネンタルは、ルーマニア北東部ヤシの拠点にブレーキシステムのテストセンターを2023年3月に新設したほか、2023年にルーマニア国内の複数の製造拠点や研究開発拠点への設備投資を行った。
不動産 NEPIロックキャッスル(Rockcastle) オランダ 2023年10月 非公表 南西部の都市クライオバに大型商業複合施設を開設したと発表。
表4-2 ルーマニアの主な対内直接投資案件(2023年)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
小売 プロフィ・ロム・フード(Profi Rom Food) アホールド・デレーズ(Ahold Delhaize) オランダ 2023年10月 13億ユーロ ルーマニアでスーパーマーケット1,645店舗を展開するプロフィ・ロム・フードを買収することで合意したと発表。同買収によりルーマニアにおける販売網を全国に展開する狙い。
エネルギー エネル(Enel)・ルーマニア ギリシャ電力公社(PPC) ギリシャ 2023年10月 12億4,000万ユーロ ギリシャPPCは、イタリアのエネルグループのルーマニア子会社が手がける電気・ガス・再エネ事業などのエネルギー関連事業を完全取得したと発表した。
金融 ユニクレジット(UniCredit)・ルーマニア アルファバンク(Alpha Bank) ギリシャ 2023年10月 3億ユーロ ギリシャのアルファバンクはイタリアのユニクレジット銀行のルーマニア支社の株式9.9%を取得すると発表。アルファバンク・ルーマニア支社と統合することで市場シェア拡大を図る。
不動産 ミティスカ・レイム(Mitiska REIM) LCP 英国 2023年12月 2億1,900万ユーロ LCPは、ベルギー不動産開発大手ミティスカ・レイムがルーマニア国内25カ所で開発した商業複合施設の取得を完了したと発表。ルーマニアの不動産売買では最も高額な取引の一つ。
食品 ベル・ピタール(Vel Pitar) グルーポ・ビンボ(Grupo Bimbo) メキシコ 2023年3月 非公表 製パン大手グルーポ・ビンボは、ルーマニア国内10カ所に製パン所を展開するベル・ピタールを買収したと発表。34カ国目の市場となるルーマニア市場に参入する。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

NBRによると、2023年の対外直接投資は3,729万ユーロの引き揚げ超過となり(国際収支ベース、ネット、フロー)、前年の12億3,276万ユーロの引き揚げ超過から大幅に減少した。主な対外直接投資案件としては、通信サービス会社ディジ・コミュニケーションズのスペインの子会社ディジ(Digi)・スペインは2023年3月、アンダルシア州で英国投資会社アブディーン(abrdn)と共同で250万世帯向け光ファイバー網の整備事業に投資することに合意したと発表した。共同投資額は最大3億ユーロの見込み。サプライチェーンマネジメント会社ユーロコパー(Euroccoper)は2023年8月、モルドバに2カ所の通関オフィスを開設し、首都キシナウに倉庫を新設したと発表した。2013年設立のスタートアップでゲーム開発を手掛けるアンバー(Amber )は2023年9月、台湾とフィリピンに新たにゲーム開発スタジオを設立したと発表。同社はメキシコ、ウクライナ、コロンビア、カナダ、米国、シンガポール、ポーランドにも開発拠点を有する。

表5-1 ルーマニアの主な対外直接投資案件(2023年)[M&A以外]
業種 企業名 投資先国・地域 時期 投資額 概要
情報・通信 ディジ・スペイン(Digi Spain) スペイン 2023年3月 最大3億ユーロ 通信大手ディジ・コミュニケーションズ(RCS&RDS)のスペインの子会社であるディジ・スペインは、アンダルシア州で英国投資会社アブディーン(abrdn)と共同で250万世帯向け光ファイバー網の整備事業に投資することに合意したと発表。
物流 ユーロコパー(Euroccoper) モルドバ 2023年8月 非公表 サプライチェーンマネジメント会社ユーロコパーは、モルドバに2カ所の通関業務オフィスを開設し、首都キシナウに倉庫を新設したと発表。
ゲーム開発 アンバー(Amber ) 台湾、フィリピン 2023年9月 非公表 ゲーム開発会社アンバーは、台湾とフィリピンに新たにゲーム開発スタジオを設立したと発表。同社はメキシコ、ウクライナ、コロンビア、カナダ、米国、シンガポール、ポーランドにも開発拠点を有する。
表5-2 ルーマニアの主な対外直接投資案件(2023年)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
ビットディフェンダー(Bitdefender) ソフトウエア開発 ホランギ・サイバーセキュリティ(Horangi Cyber Security) シンガポール 2023年8月 非公表 ウイルス対策ソフトウエア開発を手掛けビットディフェンダーは、シンガポールの同業ホランギ・サイバーセキュリティの買収を完了したと発表。サイバー攻撃対象領域の監視能力などの強化を図る。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
加熱式たばこ製品の輸出増で貿易黒字が拡大

2023年の対日貿易は、輸出が前年比15.3%増の7億6,200万ユーロ、輸入が3.0%増の4億800万ユーロとなり、前年に引き続き対日貿易収支は黒字で、黒字額は3億5,400万ユーロとなった。

対日輸出を主要品目別にみると、輸出の約8割を占める最大品目のたばこ・たばこ製品(構成比78.0%)が50.3%増となり、前年に引き続き加熱式たばこなどが好調だった。一方、木材・木炭(9.5%)は59.0%減、電気機械・電気機器(3.6%)は12.4%減と減少した。また、光学機器・精密機器(2.2%)は48.2%増、衣類・衣類付属品(0.8%)は41.4%増、天然蜂蜜(0.6%)は27.3%増と伸びた。日本への天然蜂蜜の輸出額はドイツ、イタリアへの輸出に次いで多く、EU域外で最大の輸出先となった。

対日輸入を主要品目別にみると、最大品目である輸送用機器(構成比35.1%)が前年比28.0%増だった。そのうち、乗用車(30.8%)は36.2%増と好調だったが、自動車・トラクター部品(2.0%)は37.3%減と前年に続き大幅に減少した。その他、電気機械・電気機器(16.5%)が12.2%減、鉄鋼(4.5%)が31.0%減、鉄鋼製品(3.7%)が18.4%減、ゴム・ゴム製品(3.2%)が43.8%減といずれも大きく減少した。

表6-1 ルーマニアの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
たばこ・たばこ製品 395 594 78.0 50.3
木材・木炭 177 73 9.5 △ 59.0
電気機械・電気機器 31 28 3.6 △ 12.4
光学機器・精密機器 11 17 2.2 48.2
ゴム・ゴム製品 7 7 0.9 3.6
衣類・衣類付属品(編んでいない物) 4 6 0.8 41.4
乳製品、卵、蜂蜜、動物由来の食用製品 4 5 0.6 27.3
階層レベル2の項目天然蜂蜜 4 5 0.6 27.3
原子炉・ボイラー・機械類 13 5 0.6 △ 64.6
輸送用機器 3 3 0.4 26.1
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 2 3 0.4 103.8
家具、その他 3 3 0.3 △ 12.3
合計(その他含む) 661 762 100.0 15.3

〔出所〕 ルーマニア国家統計局

表6-2 ルーマニアの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース] (単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 112 143 35.1 28.0
階層レベル2の項目乗用車 92 126 30.8 36.2
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 13 8 2.0 △ 37.3
電気機械・電気機器 77 67 16.5 △ 12.2
原子炉・ボイラー・機械類 53 54 13.1 1.2
鉄鋼 27 18 4.5 △ 31.0
鉄鋼製品 19 15 3.7 △ 18.4
プラスチック・プラスチック製品 13 15 3.6 10.9
光学機器・精密機器 12 14 3.3 14.2
ゴム・ゴム製品 23 13 3.2 △ 43.8
医薬品 9 8 2.0 △ 9.2
その他の化学製品 6 6 1.5 11.1
合計(その他含む) 396 408 100.0 3.0

〔出所〕 ルーマニア国家統計局

日系企業はインフラやデジタル開発で動き

2023年の日系企業による投資事例では、大型のインフラ開発や生産拠点の設置のほか、デジタル開発分野で動きがみられた。IHIインフラシステムがイタリアの建設会社ウィビルド(Webuild)との合弁で建設を進めていたドナウ川下流ブレイラ市とトゥルチャ市間の吊り橋が2023年7月に開通した。ルーマニア道路インフラ公社から2018年1月に設計と建設を一括で請け負う形で受注していた。全長1,974メートルで、橋を支えている主塔間の距離である中央径間はルーマニア国内では最長で、EU域内では3番目の長さとなる。

自動車や電子機器用のトランスやリアクタなどの電子部品、接合材や絶縁材など電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は2023年5月、ルーマニアのヤロミツァ県フェテシュティに生産子会社を設立したと発表。同社は進出の理由として、充電器を始めとするモジュール製品の欧州における需要拡大に対応するためとしている。2024年11月の商業生産開始を目指す。その他、現地進出日系企業の活動では、2007年4月からルーマニアで欧州市場向けの電動工具を生産しているマキタが、2023年9月に累計生産台数が5,000万台に達したと発表した。

NTTデータ・ルーマニアは2013年に北西部のクルージュ・ナポカに拠点を開設し、事業を拡大させている。2024年3月には、ドイツ自動車大手BMWグループとルーマニアに合弁会社を設立することで合意したと発表した。主にBMWグループの欧州内ITサポートおよび、製造、開発、人事、販売、金融サービス分野のITプロジェクトやイノベーションの推進を目的としている。2024年末までに約250人のソフトウエア開発者を雇用する予定で、2027年までには従業員数を4桁に増やす計画だ。

二国間関係では、2023年3月に日本とルーマニアの関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げする共同声明を発表した。ルーマニアにとってアジアとの同パートナーシップ締結は韓国に次いで2カ国目となる。共同声明には政治・安全保障、経済・開発協力、文化・科学技術・研究開発・イノベーション・人的交流の3分野での協力強化が盛り込まれた。ルーマニア側からは、日本が協力する最先端のインフラ整備やエンジニアリングの例として、小型モジュール炉(SMR)、グリーン水素、高出力レーザー、ドナウ川の吊り橋、ブカレスト地下鉄6号線などに期待を寄せた。科学技術分野の協力の動きでは2023年10月、群馬大学理工学部とクルージュ・ナポカ工科大学(Technical University of Cluj-Napoca)との間で、国際共同研究に向けた学術交流協定が締結された。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 5.7 4.1 2.1
1人当たりGDP (米ドル) 14,895 15,821 18,176
消費者物価上昇率 (%) 5.1 13.8 10.4
失業率 (%) 5.6 5.6 5.6
貿易収支 (100万ユーロ) △ 23,122 △ 32,047 △ 29,057
経常収支 (100万ユーロ) △ 17,473 △ 26,040 △ 22,694
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 45,821 49,772 66,129
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ) 136,585 143,886 168,812
為替レート (1米ドルにつき、ルーマニア・レイ、期中平均) 4.16 4.69 4.57

注:
1人当たりGDP:2023年のみ暫定値
消費者物価上昇率:年平均
貿易収支:財のみ
貿易収支、経常収支:国際収支ベース
貿易収支、経常収支、対外債務残高:2023年のみ暫定値
出所:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:ルーマニア国家統計局
貿易収支、経常収支、対外債務残高:ルーマニア国立銀行
1人当たりGDP、外貨準備高、為替レート:IMF