知的財産ニュース 特許庁、中小企業の技術・アイデア奪取を撲滅させる総合対策づくり

2017年9月20日
出所: 韓国特許庁

下請け関係でない場合にも中小・ベンチャー企業の特許、営業秘密への侵害があれば、それに対して懲罰的損害賠償を導入し、公募展や取引相談関係などにおいて提供された特許登録されていないアイデア・技術資料を奪う行為も不正競争行為と規定し禁止する。

韓国特許庁は9月20日(水曜)の午前10時、政府ソウル庁舎で国務総理と民間委員長主宰の第20次国家知識財産委員会で「中小・ベンチャー企業革新成長のための知識財産保護強化策」を提案し、報告・確定した。

今回の強化策は、韓国における特許侵害に対する損害賠償額はGDP差を考慮してもアメリカの1/6に過ぎず、事業提案などの取引過程で中小・ベンチャー企業のアイデアが奪われる被害が増加(注1)するなど、知識財産に対する保護水準が低い状況の中、中小・ベンチャー企業の技術革新と成長を阻害する状況を改善するためにまとめられた。下請け法上、技術資料提供要求・流用禁止規定があるが、下請け関係では取引断絶の懸念があるため通報は容易ではなく、下請け関係でない場合には法が適用されていない状況だ。今回の対策は下請け関係以外に一般的な取引関係で発生する技術・アイデア奪取も対象となるため保護範囲が拡大すると予想される。
注1 中小企業における技術流出1件当たりの被害規模:(2015年) 13.7億ウォン→ (2016年) 18.9億ウォン

また、中国など海外オンライン ショッピングモールで韓国製品をコピーした偽造商品が多量に流通し、海外での知的財産紛争により輸出中断などの被害が発生するなど、海外での知的財産保護が不十分なために中小・中堅企業の海外輸出に支障をきたしている状況に対応し、天文学的な費用が伴う知的財産訴訟に耐えきれない中小・ベンチャー企業が訴訟をあきらめる事例が頻発するなど社会的弱者の苦しみが増している現実を改善するための方案も盛り込まれた。

特許庁は今回の強化策の確定を通じ、「中小・ベンチャー企業の技術革新と成長を通した第4次産業革命の主導」という政策ビジョンを実現するための三つの戦略を推進することにした。

Ⅰ. 最初に、中小・ベンチャー企業の特許、アイデア、技術および営業秘密に対する保護を強化するために損害賠償および処罰を大幅に強化して、新しい保護制度導入を推進する。

優越的地位にある者などの(1)悪意の特許侵害時、最大3倍まで損害賠償額を拡大する懲罰賠償制度を導入して中小・ベンチャー企業など弱者の技術保護を強化していくことにした。また、知的財産訴訟で中小・ベンチャー企業が体験する最も大きな障害である証拠資料の提示および立証の困難を解消するために、(2)一定の条件下で特許侵害者に特許実施形態を提示させるようにして、(3)特許法に反映(2016.6施行)された訴訟時の証拠提出強化規定(注2)を商標法、デザイン保護法、不正競争防止法など知的財産法令全般に拡大することを推進する予定だ。
注2 侵害を立証するために必ず必要な場合、営業秘密であっても提出義務を課す

また、(4)事業提案など多様な取引関係で発生する中小企業のアイデア奪取・使用行為を不正競争防止法上の不正競争行為として新設し、禁止・損害賠償請求が可能になるように改善する。特許登録されなかったアイデア・技術でも当事者間の信義誠実の原則に違反し、提供目的に反して営利的に使われた場合には民事での救済が可能になる。

最近、JUICY、ペク喫茶店など低価格のコーヒー・飲料ブランドが人気を得ているが、すぐにこれを模倣するブランドが数十も現れるなど、若者・アイデア創業者や生計型加盟店主などの被害が大きくなっている。これを解決するために(5)フランチャイズ事業など営業上の特徴的外観を模倣するトレードドレス侵害行為を不正競争行為として明示する予定だ。

(6)悪意のある営業秘密の侵害に対しても最大3倍まで損害賠償額を拡大する懲罰賠償制度を導入し、営業秘密の侵害に対する罰金上限額を10倍に増やす(注3)など営業秘密保護水準も大幅に強化する。(7)デザイン盗用行為に対しては特許庁の職権で調査・是正勧告措置を行い、特許庁所属の商標権特別司法警察隊がデザイン盗用行為に対する取り締まり・捜査まで行うことができるように機能を拡大する。
注3 (国内流出) 5千万ウォン→ 5億ウォン、(海外流出) 1億ウォン→ 10億ウォン

Ⅱ. 二番目に、輸出中小・ベンチャー企業の海外知的財産を保護するための政策支援を拡大する。

(1)海外現地で中小・ベンチャー企業の知的財産保護を支援する海外知識財産センター(IP-DESK)をインド、東南アジアなどに徐々に拡大し、2022年までに16カ国22カ所に拡大(注4)していく予定だ。(2)中国などで発生しているK-ブランド盗用と海外偽造商品流通に対しては早期モニタリングシステムを構築して被害企業に直ちに通知し、商標登録阻止のための法律対応、不法オンライン掲示物削除などの措置も支援する。(3)K-ブランド盗用情報を誰でも閲覧できるように「無断で先に獲得された商標の被害情報提供サイト」も今年末から運営する。
注4 (2017) 8カ国14カ所→ (2019) 10カ国16カ所→ (2022) 16カ国22カ所

また、(4)知的識財産紛争対応コンサルティングと訴訟保険加入支援件数を2022年までに現在の水準の2~4倍に拡大(注5)するなど、輸出中小・ベンチャー企業の知的財産紛争対応支援も強化することにした。合わせて、(5)米国、欧州など主要先進国との知的財産審査協力システムを構築して、中国との特許共同審査(注6)を推進するなど北東アジアでの協力も強化する。(6)UAEに輸出した韓国型特許行政サービスを隣接国家に拡散し、適正な技術の普及、知的財産教育コンテンツの開発・普及など、途上国支援も拡大して輸出企業に有利なグローバル条件を作っていくことにした。
注5 海外知的財産紛争対応コンサルティングの拡大(2017年416件→2022年1,000件)、知的財産訴訟保険加入支援の拡大(2017年220件→ 2022年1,000件) 注6 両国に同一の発明が特許出願された場合、審査に必要な先行技術文献情報を共有し、審査結果の正確性・一貫性を高める制度(2015.9月から米国と施行)

Ⅲ. 三番目に、中小企業、学生など社会的弱者の知的財産保護のためのインフラを強化する。

(1)中小・ベンチャー企業を対象に現行水準(注7)より特許年次登録料の減免比率を高める、あるいは減免区間を拡大するなど費用負担を軽減して、特許維持期間が長引くように支援する予定だ。(2)社会的弱者の知的財産審判・訴訟時の公益弁理士の直接代理サービスも2017年の120件から2022年には300件水準に拡大する。合わせて(3)個人創業者、スタートアップ、女性などの知的財産を基盤にした創業活動の支援と知的財産専門家のプロボノ活動も拡大していくことにした。
注7 現行の中小企業減免比率:特許登録後1~3年70%、登録後4~9年30%

(4)産業財産権紛争調停・仲裁センターを設立し、調停委員を40人から80人の2倍に拡大すると同時に1人調停制度を導入するなど低費用で迅速な紛争解決ができるように、総じて紛争解決を活性化し、中小・ベンチャー企業の知的財産紛争負担も緩和していくことにした。これと共に、(5)国民が直接参加する体験型知的財産保護教育、公募展・キャンペーン開催、知的財産の虚偽表示改善などを通して知的財産保護への認識も高めていく予定だ。

特許庁長は「第4次産業革命を主導するためには中小・ベンチャー企業の革新的アイデアがビジネスにつながるように知的財産を強力かつ速かに保護しなければならない」とし「今回の対策に含まれた各種制度改善と事業計画を問題なく推進して中小・ベンチャー企業の技術・アイデアがまともに保護されて技術革新と成長を引き出す好循環を産む知的財産エコシステムを構築するために万全を期する」と述べた。

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