知的財産ニュース サムスン電子がアップルを相手に提起した標準特許侵害差止め請求に関する公正取引委員会の決定

2014年2月25日
出所: 公正取引委員会

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サムスン電子がアップルを相手に提起した標準特許侵害差止め請求は公取法に違反しないと判断

公正取引委員会は、サムスン電子(株)がアップルを相手に、第3世代移動通信技術関連の標準特許の侵害差止め請求訴訟を提起した行為は、公正取引法上の市場支配的な地位の乱用行為及び不公正取引行為に該当しないと判断し、無効の決定を下した。

1. サムスン電子の行為事実及びアップルの申出内容

(1)行為事実

両者間の特許係争を解決するための交渉を進めていたところ、アップルが2011年4月15日、米国でサムスン電子を相手にデザイン権及び標準特許の侵害差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起すると、
サムスン電子は、2011年4月21日、ソウル中央地方法院にアップルを相手に第3世代移動通信技術関連の4件の標準特許及び1件の非標準特許の侵害差止め及び損害賠償を求める訴えを提起した。
※標準特許侵害を理由にサムスン電子が販売差止めを請求した機種は、 iPhone 3GS, iPhone 4, iPad1(Wifi+3G), iPad2(Wifi+3G)

(2)主な申出の内容

米国のアップル本社(Apple Inc.)とアップルコリア(有)は、サムスン電子が標準特許に基づき差止め請求を提起したことにより、市場支配的な事業者が特許侵害訴訟を不当に利用し、事業活動を妨害したと公取委に申出(2012.4.3)
また、こうした行為は、必須要素技術に対するアクセスの拒絶にも該当し、サムスン電子は、技術の標準化過程において特許情報の公開義務を違反したため、事業活動の妨害などに該当すると主張

2.違法であるか否かの判断

※サムスン電子は、4件の標準特許の個別技術市場において独占力を有しており、国内の移動通信機器の市場でその支配力を行使する市場支配的な事業者に該当

(1)特許侵害訴訟の不当な利用(事業活動の妨害行為)に該当するか否か

⇒ 潜在的な実施者であるアップルと、標準特許権者であるサムスン電子が誠実に交渉に臨んだか否かに対する判断が重要

交渉経過及び交渉に対するアップルの立場などを総合的に踏まえ、アップルは、誠実に交渉に臨んだとは見なしがたい。
交渉を進めていたところ、先に特許侵害を訴訟することで、交渉の雰囲気を特許係争局面に誘導した。
状況がアップルに有利に進むと※、サムスンの特許価値を従前に認めていた水準より低評価した実施条件を提案するなど、実施料率の格差を縮んだり、解消したりするために誠実に交渉に臨んだとは見なしがたい。
※EU競争当局がサムスン電子に対する審査報告書を発布(2012.12.21)したほか、米国貿易委員会(ITC)決定に対し米国行政部が拒否権を行使(2013.8.9)した。

訴訟の終結時まで、サムスン電子に如何なる実施料も支払う意思がないということで、逆特許抑留※の典型的な姿さえ示した。
※逆特許抑留:標準特許権者の差止め請求が認められない場合、潜在的な実施者が誠実にライセンス交渉をしないか、実施料の支払いを遅延・回避すること

サムスン電子がFRAND宣言をした標準特許権者として特許ライセンス交渉を誠実に移行したか否かが問題になるが、次を総合的に考えたところ、サムスン電子が交渉を誠実に移行しなかったとは見なしがたい。
差止め請求訴訟の提起を前後に、様々な条件をアップルに提案したほか、アップルが提示した実施料率との格差を解消するための実質的な交渉※を進めた。
※具体的な実施条件は非公開

実施料率は、様々な要因により決定されるだけに、提案した実施料率※がFRAND条約に違反する過度なものであるとは見なせない。
※ライセンス対象特許の具体的な内容、技術的な価値、ライセンス範囲および期間、相互実施許諾の如何、関連商品の売上高など

標準特許権者の侵害差止め請求が事業活動の妨害に該当するというためには、特許侵害訴訟を不当に利用することにより、ほかの事業者の生産、販売などの活動を困難とする事情がなければならないが、
本件において、今後、法院判決を通じてアップルの製品が特許侵害を理由に販売が中断されるとしても、これは、特許権者の正当な権利行使の結果と見なせるため、不当な事業活動の妨害とは見なせない。

(2)必須要素技術に対するアクセス拒絶に該当するか否か

標準特許は、必須要素技術の要件が多少欠如するため、サムスン電子の差止め請求は、必須要素技術の使用、またはアクセス拒絶に該当するとは見なしがたい。

必須要素技術に該当されるための要件(必須性、独占的な統制性、代替不可能性)のうち一つである「独占的な統制性」が充足できない。
標準特許権者は、潜在的な実施者にFRAND条件に基づき実施許諾する義務が発生し、当該標準特許権の独占的所有、若しくは統制に一定の制限をする。
第3世代移動通信(UMTS/WCDMA)技術と関連し、50社以上の会社が15,000件以上の標準特許を保有(Fairfield Resources International、2009年報告書)しているため、必須特許が1つだけ存在する通常の場合と区分される。

(3)適時公開義務の違反による事業活動妨害行為に該当するか否か

サムスン電子は、標準化過程で特許情報の公開を故意に遅延することで、適時公開義務※に違反したとは見なせない。
※特許権者が標準採択の過程で特許権を隠匿(Patent Ambush)し、後で特許抑留する恐れを回避するためである

サムスン電子の特許標準の公開平均期間は1年7ヶ月で、ほかの企業※に比べ相当の期間に公開しなかったと見なしがたく、標準化課程でほかの事業者を排除させる目的で特許を隠蔽したと見なす証拠がない。
※Nokia1年5ヶ月、Motorola 3年8ヶ月など

3.今回の事件の意義及び今後の計画

今回の決定は、標準特許権者の侵害差止め請求行為が知的財産権の乱用行為として公正取引法に違反するか否かを判断した初めての事例である。
審決例が存在しない新しい類型の事件として、違法の如何を判断するにおいて国内外の判例及び海外競争当局の議論の動向、FRAND法理、両社の誠実な交渉の可否など、多角的な検討を経て判断を下した。

今後、増加が見込まれる標準特許権者の不公正取引行為に対し、グローバルスタンダードに見合う方向で法執行を強化していく計画である。
標準特許権者が差止め請求できる場合及び差止め請求の提起前に踏むべき手続きなどを具体的に設けることにより、法執行の一貫性と予測可能性を向上し、企業の乱用行為を事前に予防する。
さらに、標準特許権者が競合事業者を市場に排除するか、事業活動を妨害する目的で直接、または特許管理会社(NPE)を通じた間接的な知財権乱用行為にも積極的に対応する計画である。
対策を策定するとき、海外動向の分析、関連業界の意見聴取、知財権専門化の諮問、特許庁などの関係部署の協議を通じて、様々な意見を聴取する計画である。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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