知的財産ニュース 未来の生活基盤になる海、環境型養殖技術がカギ

2012年9月17日
出所: 韓国特許庁

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優秀な特許開発で輸入代替及び所得増の効果が期待

韓国における漁業生産量は、世界14位[1]であり、そのうち、海水面の養殖の生産量は、130万トンという世界4位の養殖先進国だとされている(添付1を参照)。世界における漁業の発展方向は、海の環境保護のために持続的な取り組みが行なわれている一方、水産物の生産構造も「取る漁業」から「育てる漁業」にシフトしている。

一方で「育てる漁業」の代表である養殖場の養殖業者による安易な拡大、養殖場から排出される餌の残りかすや排泄物などにより海の生態系が大きく汚染されていることを受け、持続可能な環境型養殖技術の研究開発が活性化している。

韓国特許庁によると、水産分野関連の特許出願は、この10年間、5,446件が出願されたという。このうち、環境配慮型の養殖技術の出願は、2001年まで僅か2件に過ぎなかったが、2002年以降71件が出願され、その後10年間本格的に行なわれた。特に2006年以降から5年間出願された特許が47件(66%)である(添付2を参照)。急増の背景には、従来の養殖業より環境を汚染せず、水産物の生産量を確保できる持続可能な養殖技術の開発に取り組んできた結果だとみられる。

環境配慮型養殖に関する代表的な最新の特許技術として、餌の残りかすに含まれている有機物と魚類の排泄物はナマコの餌に使用したり、分解された溶存無機物は海藻類にあげたりすることで、養殖場の環境汚染を最小限化しながら多様な養殖種を育てる多栄養立体養殖技術(IMTA、国立水産科学院)がある。

また、環境配慮や高付加価値などを目標にした養殖藻類の品種を開発して特許出願したケースもある。海苔の場合、疾病に強い優秀な品種が開発され、赤腐れ病(海苔が溶け落ちる病気)が発生した際に違法に使われていた無機塩酸の量を大幅減らし、海洋汚染を予防できるようになった。

全羅南道の海洋水産科学院海南(ヘナム)支所は、赤腐れ病に耐性が強く、普通の海苔より2倍以上成長が速い品種の開発に成功した。韓国で最も多く生産されている「放射模様の海苔」は、その種の大半が日本から輸入されていたが、その改良品種「全南スーパー海苔1号」が特許及び商標登録されたことで、年間数億ウォン以上の輸入代替効果が期待されている。試験養殖が行なわれた2011年ベースで「全南スーパー海苔1号」が普通の海苔より4倍以上の生産量と2.3倍の収益を上げ、今後、海苔養殖農家の収益増加も大きく期待されている。

韓国特許庁の食品生物資源審査課のホン・スンピョ課長は、高付加価値品種の開発及びきれいな水産物を生産する環境配慮型養殖技術の特許出願が着実に増加しているのは、最近、韓中FTA交渉の本格化で危機感が高まっている水産業において新たな突破口になりうる一方、海の環境汚染の問題を解決できる希望になると述べた。

資料1.水産業関連の主な指標

各国の養殖水産物の生産量(単位:百万トン)

区分

海水面の養殖業

区分

内水面の養殖業

2004

2009

2004

2009

合計

27.5

34.8

合計

24.2

33.8

1

中国

19.2

22.4

中国

16.4

22.2

2

インドネシア

0.4

2.8

インド

2.7

3.5

3

フィリピン

1.3

1.9

ベトナム

0.7

1.8

4

韓国

0.9

1.3

バングラデシュ

0.8

1.0

5

日本

1.2

1.2

インドネシア

0.5

1.0

6

ノルウェー

0.6

1.0

ミャンマー

0.4

0.7

7

チリ

0.7

0.9

タイ

0.5

0.5

8

北朝鮮

0.5

0.5

ブラジル

0.2

0.3

9

タイ

0.4

0.3

フィリピン

0.2

0.3

10

スペーン

0.3

0.2

米国

0.4

0.3

小計

25.5

32.5

小計

22.7

31.8

11-20

1.3

1.6

11-20

0.8

1.2

21-30

0.5

0.6

21-30

0.3

0.4

資料:月刊KMI水産動向2012年03‐04月号(2012.5.1.,韓国海洋水産開発院発行)
(元出処:FishStatJ. Aquaculture Production. 1950-2009)

資料2.水産養殖技術関連の特許出願件数

水産養殖の分野別の出願件数

区分(出願年度)

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

合計

水産分野全体

560

517

519

553

551

534

513

565

558

576

5,446

水産食品分野

206

186

174

194

205

196

173

176

199

187

1,896

漁労分野

93

76

85

84

75

92

99

105

90

58

857

養殖分野

261

255

260

275

271

246

241

284

269

331

2,693

一般養殖

191

188

183

147

189

171

170

178

199

291

1907

環境配慮型養殖

1

5

1

6

11

8

6

12

12

9

71

その他の養殖

(人工藻場など)

69

62

76

122

71

67

65

94

58

31

715

図:水産養殖の分野別の出願件数グラフ

全南スーパー海苔1号と一般の海苔を比較
(全羅南道海洋水産科学院海南(ヘナム)支所から提供)


注記

[1] 資料:2009年基準、2010年近海漁業総調査要約本(2010.12.韓国国立水産化学院が発行)

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