知的財産ニュース 韓国知財セミナー「最新の知財訴訟状況」(特許庁委託事業)を開催しました

2012年8月22日

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韓国知財セミナー「最新の知財訴訟状況」(特許庁委託事業)を開催しました

現在、アップルとサムスン電子とが全世界で知的財産権侵害に関する訴訟を繰り広げ、注目を集めております。これまでも、日本企業を含め、韓国企業との間での知財紛争は、しばしば発生しておりましたが、韓国企業の技術力向上に伴い、今後、知財訴訟がますます頻発する懸念があります。一方で、韓国における知財紛争の状況については、必ずしも十分なデータ等、状況が整理されておりませんでした。そこで、去る7月25日、東京ジェトロ本部において、漢陽大学校法学専門大学院の尹宣煕教授、及び法務法人南岡の鄭址錫弁護士をお招きし、韓国における知財紛争の状況を詳しいデータと共にご紹介いただくと共に、世界の話題ともなっているアップルとサムスン電子による訴訟の状況を整理してご紹介する、韓国知財セミナー「最新の知財訴訟状況」を開催いたしました。

セミナーは、募集開始から3日で予定定員を上回る申込みがあり、韓国における知財紛争に関し、日本企業の関心の高さが伺えました。

そこで、本セミナーの概要について、以下のとおりご報告いたします。

セッション1「韓国における知財訴訟の概要」

(講師:漢陽大学校法学専門大学院 尹 宣煕(ユン・ソンヒ)教授(法学博士))

先生のご講演では、韓国における知的財産に対する歴史的な意識の変化をはじめ、特許出願状況、無効審判の状況、知財訴訟の状況、韓国における日本企業の知財紛争状況、知財侵害への対応策等について、豊富なデータと共に詳細にご説明いただきました。

韓国での出願状況は、企業の知財に対する考え方の変化等により、出願の量から質への転換が図られ、2007年にピークアウトしたものの、金融危機が発生した2008年以降においても、14万件前後で維持しているとのことです。また、韓国における海外出願人の状況では、日本企業と米国企業の出願が多く、特に特許・意匠では、日本企業が優勢であるとのご説明をいただきました。


韓国の全体特許出願件数の年度別の状況、韓国特許動向2000~2012 p.9を引用

次に、無効審判の状況ですが、外国企業を請求人とするものが多く、とりわけ、商標に関する無効審判が多くなっているとのことです。また、無効認容率(無効とされる率)は、発表する韓国政府機関によって多少差があるものの、特許の場合、概ね60%前後で推移しており、発明に進歩性がない(従来の発明と比較して容易に発明できる)ことを理由とするものが60%~70%と非常に多いことが指摘されました。

韓国企業と外国企業間の審判請求の状況、2011年知識財産白書 P.601引用

区分

'05年

'06年

'07年

'08年

'09年

'10年

'11年

請求人

被請求人

韓国企業

外国企業

特許

85

88

73

70

72

58

118

実用

1

-

-

8

2

1

-

デザイン

1

6

-

5

-

3

2

商標

126

107

147

137

105

130

91

213

201

220

220

179

192

211

韓国企業

外国企業

特許

16

14

55

37

21

12

20

実用

6

5

5

3

1

-

-

デザイン

3

11

2

7

-

5

14

商標

258

281

300

353

226

257

274

283

311

362

400

248

274

308

最後に、訴訟状況ですが、韓国政府の諸機関から発表されるデータにばらつきがあり、
必ずしも正確な状況は不明ですが、先生が特許庁、韓国知識財産保護協会(KIPRA)等の資料により調査した結果では、日本企業が当事者となる知財訴訟事件は、米国企業についで2位となっており、また、日本企業は、韓国の大手企業よりも、むしろ中小企業を訴える例が多く(下表48件)、また、逆に日本企業が韓国大手企業から訴えられる例(同21件)も少なくないとのことです。訴訟が多く発生している技術分野は、IT大国である韓国の状況を反映して、電気電子・情報通信分野で66%と大半を占めていますが、化学・バイオ、機械分野でも少なからず訴訟が発生している状況とのことです。

企業規模別の相手国別全体国際特許紛争状況、特許庁、KIPRA、韓国企業の国際特許紛争事件分析 P.31 再引用

企業形態

区分

米国

日本

台湾

スウェーデン

ドイツ

フランス

スイス

中国

大企業

被訴

175

43

13

2

3

3

-

1

提訴

24

21

6

1

1

0

-

3

中小企業
中堅企業

被訴

129

48

1

16

14

10

10

1

提訴

23

6

3

1

2

1

1

5

その他

被訴

8

15

-

-

-

-

1

-

提訴

5

3

1

1

-

-

-

-

合計

364

136

24

21

20

14

12

10

最後に、侵害の対応策ですが、これは、ケースによって詳細が異なるものの、基本的には、紛争当事国の知財権制度を十分に収集・把握すると共に、侵害主張の特許分析を行い、特許ライセンス等交渉の可能性を探りつつ、権利範囲確認審判や無効審判等の審判請求を行っていくという基本に忠実に行動することが重要であるとして、セッション1の講演を締めくくられました。

セッション2「アップル、サムスン電子の知財訴訟概要」

(講師:法務法人南岡 鄭 址錫(チョン・ジソク)弁護士/弁理士)

セッション2のご講演では、世界的に大規模な訴訟を繰り広げているアップルとサムスン電子によるスマホ訴訟合戦についてご説明いただきました。

一連の訴訟に先立つ2011年3月2日、iPad2の発表会場にて、スティーブ・ジョブスは、プレゼンの画面にサムスン電子等、スマートフォン製造メーカーのロゴを映し出し、「2011:Year of the copycats?」(2011年は、サル真似の年?)と競争企業をからかうような発表を行いましたが、これがアップル、サムスン電子の訴訟合戦の予告だったようです。事実、その1カ月後、アップルは、サムスン電子をアメリカで提訴します。

この訴訟は、2012年7月25日現在まで、10カ国で50件余りの訴訟が進行中であり、米国5件、ドイツ12件、オーストラリア2件、韓国2件、オランダ2件、日本6件、フランス2件、イギリス1件、イタリア2件、EU(スペイン)3件の訴訟が進行中とのご説明をいただきました。

アップルは、2011年4月15日、一連の訴訟の開始となる訴えを米国カリフォルニア北部地方裁判所に提起し、特許権、デザイン特許のほか、米国特有の権利であるトレードドレスをサムスン電子が侵害しているとの主張を行いました。これに対し、サムスン電子は、すぐさま反撃に出ます。サムスン電子は、同月21日、ソウル地方裁判所にアップルを特許権侵害により訴えたのです。先生によると、通常、訴訟提起には十分な時間が必要であるため、アップルが米国で訴訟を開始した後、サムスン電子がきわめて短期間のうちにソウルで訴訟を提起したということは、サムスン側も、アップルが訴訟提起を行う可能性を予測しており、事前に十分な準備をしていたのではないかとのことです。そして、その後、日本、ドイツ、オランダ、英国、フランス、イタリア等において次々と訴訟が広がっていきました。

図:HOME画面ロゴ画像比較

また、一連の訴訟では、大きく分けると、アップル側によるユーザーインターフェイスに関する特許や、意匠(デザイン)を中心にした権利侵害の主張に対し、サムスン側は、通信方法やデータ処理等、より技術的な観点からの権利侵害を主張している点が特徴的です。さらに、サムスン電子が主張した特許は、標準規格に関する特許(いわゆる標準特許)が含まれていたため、FRAND条項(標準特許は、公正、合理的、非差別的に提供されなければならないという一定のルール)に違反するとの議論も生じました。

これまで、各地での訴訟は、サムスン側、アップル側ともはっきりとした勝利を得ておらず、予断を許さない状況が続いておりますが、先生によると、7月30日、米国において陪審裁判が開始され、また、8月10日には、韓国で裁判の判決が言い渡される予定であるため、今後、第1審の判決が出そろってくるのではないかとのことでした。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
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