知財判例データベース 従業員の職務発明補償金請求権の消滅時効の起算点は、権利の承継時点ではなく、社内規定等で定めた補償金の支払時期であると判断した事例
基本情報
- 区分
- 特許,職務発明
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告(A社の元従業員) vs被告(A社)
- 事件番号
- 2025ダ219873職務発明補償金等請求訴訟
- 言い渡し日
- 2026年06月24日
- 事件の経過
- 破棄差戻し
概要
原審判決(第2審)は、原告の職務発明に関して特許を受ける権利を被告が承継した時点(2005年11月18日)を補償金請求権の消滅時効の起算点として、本件訴えの時点では既に10年の消滅時効が完成していたという理由により、原告の職務発明補償金に関する請求を棄却した。これに対し大法院は、被告の補償規定で定めた支払要件ないし手続(特許権譲渡等を通じて利益が発生し、社内職務発明補償審議委員会での補償金についての審議・議決等)が完了した時から補償金請求権の行使が可能であることから、2005年11月18日は補償金請求権の消滅時効の起算点と認められないとして原審判決を破棄した。
事実関係
原告は、2004年8月16日から2010年7月16日まで被告(A社)所属の研究員として勤務し、携帯電話端末ソフトウェア開発業務等を担当した。被告は、2005年11月18日に原告等から「キー入力エラー防止機能を有する移動通信端末及びその方法」を発明の名称とする本件職務発明に関して特許を受ける権利を承継した後、国内外で合計12件のファミリー特許を出願し、そのうち11件について特許権の設定登録を受けた。被告は、2015年9月30日、B社との間で本件職務発明を含む上記12件のファミリー特許をB社に譲渡する契約を締結し、それに基づき本件職務発明に関する特許権をB社に移転した。
これに関連し、被告が2003年9月9日に改定・施行した2003年職務発明補償規定、及び2005年9月14日に改定・施行した2005年職務発明補償審議規則(以下、併せて「被告の補償規定等」)によると、従業員から承継した職務発明の実施、実施許諾、譲渡等を通じて被告が得る利益を、製品適用補償、戦略特許補償、ロイヤリティー収益補償、ロイヤリティー削減補償等に類型化し、各補償類型別に定めた支払要件が発生すれば、被告の職務発明補償審議委員会の審議・議決等による支払手続きを経て当該類型の補償金を発明者である従業員に支払うものとして規定されている。
原告は、2020年5月29日、被告に対し、職務発明補償金の支払いを求める訴えを提起し、第1審法院は原告の請求を一部認容する判決を下した。
原審(特許法院2025年10月30日言渡2024ナ10355判決)の判断:消滅時効の完成により補償金請求権が消滅したとして原告の請求を全部棄却
被告は2005年11月18日に原告から本件職務発明に関して特許を受ける権利を承継したことから、原告の本件職務発明補償金請求権はその債権が成立した時点である2005年11月18日から消滅時効が進行する。本件訴えはそれから10年が経過した後の2020年5月29日に提起されたため、原告の本件職務発明補償金請求権は消滅時効の完成により消滅している。
旧特許法(2006年3月3日付法律第7869号により改正される前のもの)第40条第1項において規定する職務発明補償金請求権は、使用者等が職務発明に関して特許を受ける権利や特許権等を承継した時点を基準とし、その職務発明により使用者等が得ることが合理的に予想される利益額と、職務発明の完成に使用者等及び従業員等が貢献した程度とを考慮して、全体として単一に推算される金額の金銭債権として上記承継時点で発生する法定債権と解すべきで、これとは異なり、承継後に使用者等の職務発明に関する実施・譲渡・実施許諾等利用形態やその利用期間を基準に区分して別個に成立すると解すことはできない。ただし職務発明を承継した時点を基準として将来使用者等が得る利益を予想して補償金を決定するには困難が伴うことから、その承継後の実施・譲渡・実施許諾等の利用形態に応じて実際に発生した利益がある場合には、これを使用者等が得る利益を算定する際に参酌することができるとしているにすぎない。したがって、勤務規定等において職務発明に関する利用形態や利用期間を基準として個別の補償形態や補償額決定基準を定めているとしても、これが職務発明補償金請求権自体の行使において、いかなる法律上の障害になるということはできない。
判決内容
従業員等の職務発明補償金請求権は、通常、職務発明に関して特許を受ける権利や特許権を従業員等から使用者等が承継した時点で発生するが、職務発明に関する勤務規定等で職務発明補償金の支払要件や支払手続等を規定する方式で支払時期を定めている場合には、従業員等はそのように定められた支払時期に職務発明補償金請求権を行使することができる(大法院2011年7月28日言渡2009ダ75178判決、大法院2024年5月30日言渡2021ダ258463判決等)。
被告の補償規定等によると、「本件職務発明に関する特許に関して有償で譲渡又は実施を許与し、又は権利の行使を通じて有形の利益を得た場合」等、被告の補償規定等により各補償類型別に定めた支払要件が発生した時に、被告は職務発明補償審議委員会の審議・議決等の支払手続きを経て当該類型の補償金を発明者である従業員に支払うこととされている。これは被告の補償規定等により職務発明補償金に関し不確定期限の支払時期を定めている場合に該当する。原告は、特別な事情がない限り、このような支払時期が到来した時に本件職務発明に対する補償金請求権を行使することができる。
それにもかかわらず原審は、原告の職務発明補償金請求権に関して被告の補償規定等に支払時期に関する定めがあると認められず、権利行使に法律上障害があるといえないという理由により、これを履行期限の定めがない債権であるとして本件訴えの前に時効により消滅したものと判断した。原審の判断には、職務発明補償金請求権の消滅時効の起算点に関する法理を誤解した誤りがある。
専門家からのアドバイス
職務発明補償金請求権については消滅時効の一般法理の適用を受ける。したがって、当該権利を行使できる時点から消滅時効は進行し、一般の債権と同じく10年間行使しなければ消滅時効は完成する。一方で、権利を行使できない法律上の障害がある場合には消滅時効は進行しないとされている。
大法院は、以前より、「補償金請求権の消滅時効の起算点は、通常、使用者が職務発明に関して特許を受ける権利を従業員から承継した時点」であるとした上で、「会社の勤務規則等において職務発明補償金の支払時期(すなわち「不確定期限の支払時期」)を定めている場合には、その支払時期が消滅時効の起算点となる」という立場を明らかにしてきた(大法院2011年7月28日言渡2009ダ75178判決、大法院2024年5月30日言渡2021ダ258463判決等)。
これに関して、本事案における被告の補償規定等では、特許の実施許与・譲渡・権利行使等を通じて被告が利益を得た場合に補償審議委員会の審議・議決等の支払手続きを経て補償金を従業員に支払うとされていた。この規定が職務発明補償金に関して「不確定期限の支払時期」を定めている場合に該当するか否かで本件下級審判決では互いに食い違った判断となったが、本大法院判決は、上記規定は「不確定期限の支払時期」を定めている場合に該当すると判断したのである。また、本大法院判決の言渡日と前後して、同様の趣旨の大法院判決が多数言い渡されている。
大法院は今回の判決を通じて、会社の補償規定等において支払要件と支払手続を定めているものは職務発明補償金に関し不確定期限の支払時期を定めた場合に該当すると認定した。したがって、職務発明関連の規定や契約を社内で運用している企業の立場では、職務発明に係る権利を承継した後にかなりの時間が既に経過していた場合であっても、その後会社が当該規定等を活用する時点で補償金問題が新たに発生する可能性もある。本大法院判決を考慮すると、職務発明補償金請求権の消滅時効に関する不確実性を最小化するように、補償規定の改定について検討する必要があるといえる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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