知財判例データベース 被告製品が特許発明の構成要素を備えているとした被告の陳述が裁判上の自白として成立したと判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告(特許権者) vs 被告(侵害被疑者)
事件番号
2026ダ202753特許権侵害差止等(特)
言い渡し日
2026年07月16日
事件の経過
上告棄却(侵害を認めた控訴審判決が確定)

概要

 被告は第1審において、特許が無効であるため侵害ではないとして権利濫用の抗弁をするとともに、被告製品が特許発明の構成要素を備えている点については争わないと陳述し、これに対して第1審は被告の権利濫用の抗弁を認めて非侵害と判断した。しかし、別途に進められた無効事件で特許が有効である旨の判決が確定したため、被告は本件控訴審で上記陳述が錯誤によるものであることを改めて主張し、被告製品は特許発明の構成要素を備えていない旨を主張した。しかし、控訴審及びそれに続く大法院は、被告の陳述が裁判上の自白として成立すると判断した。

事実関係

 原告の特許発明は、二次電池の極板を移送して積載する「二次電池用極板スタッキング装置」に関するものである。第1審判決及び控訴審判決に記載された事実関係に基づいて本件の経過を時系列的に整理すると、下表のとおりである。

侵害事件 無効事件
2019年 原告の提訴 2019年10月 被告の無効審判請求
第1回弁論期日において被告は、被告製品が特許発明の構成を備えている点は争わないと陳述。また、原告が被告製品の納品事実を確認するための資料提出命令を申し立てたのに対し、被告製品が特許発明の構成を備えている点は争わないとして、資料提出は不要であると主張。
これにより第1審法院は資料提出を命じず。
2020年03月 審判請求棄却(特許有効)
2020年04月 被告の審決取消訴訟提起
2021年02月 審決取消判決(特許無効)
2021年03月 原告の上告
その後、大法院において審理進行
2023年11月 第1審言渡(権利濫用の抗弁を認めて非侵害と判断)
ただし、第1審判決文で「被告は被告製品が本件特許発明の構成要素をすべて含んでいることは争わない」と摘示。
2023年12月 原告の控訴
2024年12月 大法院において審決取消判決を破棄差戻し(すなわち、特許有効)。その後確定。
被告は控訴審において、第1審での陳述が錯誤によるものであり、被告製品は特許発明の構成要素を備えない旨を主張。
2026年02月 控訴審判決(侵害認定)
2026年07月 大法院判決(本判決、上告棄却)

控訴審判決において、裁判上の自白が成立するか否かに対する判断は、次のとおりである。

(1)関連法理
 特許侵害訴訟において相手方が製造する製品(以下「侵害対象製品」という)が特定の構成要素を有しているか否かは、侵害判断の前提となる主要事実として裁判上の自白の対象になり得る(大法院2006年8月24日言渡2004フ905判決等参照)。

 「侵害対象製品等が特定の構成要素を有している」という表現が事実に関する陳述であるのか、あるいはその構成要素が特許発明の構成要素と同一又は均等であるという法的判断ないし評価に関する陳述であるのかについては、当事者の陳述の具体的内容と経緯、弁論の経過等を総合的に考慮して判断すべきである。また、いったん裁判上の自白が成立した場合には、それが適法に取り消されない限り法院はこれに拘束されるため、法院は自白に背馳する事実を証拠により認定することができない(大法院2018年10月4日言渡2016ダ41869判決、大法院2022年1月27日言渡2019ダ277751判決等参照)。

(2)裁判上の自白が成立するか否か
 第1審における以下の被告の陳述及び訴訟の経過に鑑みると、被告製品が本件特許発明の構成要素をすべて含んでいるという被告の第1審法院における陳述は、当該製品の対応構成が同一又は均等であるか等の法的判断ないし評価に関する陳述ではなく、上記製品が本件特許発明の構成要素をすべて備えている事実に関する陳述として裁判上の自白が成立するとするのが妥当である。

  1. 被告は、第1審法院の第1回弁論期日において「被告が2013年から現在まで実施してきた150~240ppm(piece per minute)の二次電池ノッチング装備に適用された被告の実施技術は、原告の訴状の別紙に記載の「製品の説明」の内容と実質的に同一のものであり、被告の実施技術が本件特許発明と同一である点は争わない」と陳述した。
  2. 原告は、被告が中国の二次電池メーカーに納品したノッチング装備のモデル番号が「YE-150」と表記されていることを挙げて、2020年8月24日に資料提出命令を申し立てた。これに対して被告は、「被告の製品が本件特許発明の構成要素をすべて含む点についてはこれ以上争わないため、原告の資料提出命令申立は必要でない」という趣旨の意見を述べた。これにより第1審法院は、被告に被告の製品群に関する資料提出を命じなかった。
  3. 被告は、第1審法院の第2回弁論準備期日において「被告製品が本件特許発明の構成要素をすべて含む点については争わない」と陳述した。
  4.  以上で判断したとおり、被告製品が本件特許発明の構成要素をすべて含んでいるという被告の第1審法院における陳述は、事実に関する陳述として裁判上の自白が成立するため、自白が取り消されない限り被告製品は本件特許発明の権利範囲に属するといえる。

    (3)自白が取り消されるか否か
     自白の取消しにおいては、その自白が真実に反することと、その自白が錯誤によるものである証明がなければならず、その証明責任は自白の取消しを主張する者にある(大法院1963年2月21日言渡62ダ922判決等参照)。

     被告は、第1審における被告の陳述が裁判上の自白に該当するとしても、関連特許無効事件の大法院判決で判断された請求の範囲の補充的解釈によれば、被告の自白は真実に反して錯誤によるものであって、これを取り消すことができると主張した。

     しかし、被告が提出した証拠や被告が挙げている事情のみにより被告の自白が真実に反することが証明されたとするには不十分であり、他にこれを認めるだけの証拠もない。むしろ、次のような事情に鑑みると、被告の自白が真実に反するということは、なおさら困難である。したがって、被告の自白が錯誤によるものであるか否かをさらに判断するまでもなく、被告の自白取消しの主張は認められない。

    1. 被告が主張する関連特許無効事件において判断された本件特許発明の構成要素2、5に関する部分は、先行発明から当該構成を容易に導き出すことができるか否か、すなわち進歩性に関する法的判断に該当する。一方、被告製品が特許発明の構成要素を備えているか否かは、被告が実施する製品と特許発明を対比して各構成要素を備えている事実を判断する問題であって、本件特許発明の進歩性の有無に関する法的判断と何ら関連がない。
    2. また、被告の実施製品が本件特許発明の構成要素2、5をいずれも備えているという事実が真実に符合するとみる余地も大きい。
    3. ①本件特許発明の構成要素2は、請求の範囲において「スタッキングマガジン」が移送部の下部に配置されていると限定している一方、被告製品の対応構成である「積載マガジン」も移送部の下部に配置されているため、両対応構成は実質的に同一である。
      ②本件特許発明の構成要素5は「極板落下ユニット」に関して極板を垂直にプッシュして垂直に落下させると限定している一方、被告製品の対応構成もプッシュ部が極板を垂直にプッシュして垂直に落下させるため、両対応構成は実質的に同一である。

      (4)以上で判断したとおり、被告製品が本件特許発明の構成要素をすべて含んでいるという被告の第1審法院における陳述は、裁判上の自白が成立し、その自白が適法に取り消されたということもできない以上、本法院はこれに拘束されて自白に背馳する事実を証拠により認めることはできない。よって、被告製品は、本件特許発明の構成要素をすべて備えているものであり、その権利範囲に属する。

判決内容

 特許侵害訴訟において、相手方が製造する製品が特定の構成要素を有しているか否かは、侵害判断の前提となる主要事実として裁判上の自白の対象になり得る。また、いったん裁判上の自白が成立した場合には、それが適法に取り消されない限り法院はこれに拘束されるため、法院は自白に背馳する事実を証拠により認定することができない(大法院2022年1月27日言渡2019ダ277751判決等参照)。
 原審は、その判示された理由により、被告製品が「二次電池用極板スタッキング装置」を発明の名称とする本件特許発明の請求の範囲の構成要素をすべて備えているという被告の第1審法院における陳述は、裁判上の自白が成立し、その自白が適法に取り消されたといえないため、被告製品は本件特許発明の権利範囲に属すると判断した。原審判決の理由を上述の法理と、原審が適法に採択して調査した証拠とに照らして判断すると、原審の判断に、被告の上告理由の主張のような裁判上の自白の成立及び取消しに関する法理の誤解や理由の矛盾等によって、判決に影響を及ぼした誤りはない。

専門家からのアドバイス

 本件でも判示されているように、特許侵害訴訟において、被告製品が特許発明の構成を備えている旨の陳述は、裁判上の自白として取り扱われることとなる。こうした自白がなされた場合には、原告(特許権者)はその事実に対する立証責任が免除され、法院も自白した事実をそのまま認定しなければならない拘束を受け、自白の拘束力は上級審にも及ぶ。この場合、自白が真実に反する点のみならず、その自白が錯誤によるものである証明をしてこそ自白を取り消すことができる。
 特許侵害訴訟において、こうした自白がなされる場合は稀ではあるが、事案によっては被告側で原告特許が無効になる可能性が高いと判断し、かつ原告の侵害立証のための証拠の申出も不要である旨を主張して、当該事実についての自白をする場合がある。
 実際に本件では、被告が第1審において、被告製品が特許発明の構成を備えている点については争わない旨の陳述をした結果、それが裁判上の自白と認められることとなった。
 被告が第1審においてこうした陳述をした理由は明らかではないが、被告製品に関する資料提出命令の原告による申出を阻止するために、上記争点については争わない方向で裁判の戦略を取った可能性もある。その後、無効事件において特許の有効が確定したため、被告は当初の方向性を改め、無効事件における請求の範囲の解釈によると被告の陳述は錯誤によるものだと主張したが、控訴審法院は無効事件における判断は進歩性に関するものであって、被告が陳述した「被告製品が特許発明の構成を備える」という裁判上の自白とは関連がないものとして、被告の主張を斥けた。
 本件の事案からもわかるように、いったん裁判上の自白が成立すると、その後、それを取り消すことは容易ではなくなる。本件判決は、特許発明が無効であることを前提として、侵害訴訟において被告製品が特許発明の構成を備えている旨の陳述をすることには慎重であるべきことを教えてくれる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:横山、徐(ソ)、權(クォン)(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195