知財判例データベース 法的紛争のおそれ等の主観的・内部的要因による商標不使用は、不使用取消審判における「正当な理由」に当たらないと判示した事例
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- A (被請求人、原告、被上告人) vs B (請求人、被告、上告人)
- 事件番号
- 2024フ10504判決
- 言い渡し日
- 2026年03月12日
- 事件の経過
- 破棄差戻し
概要
商標権者の登録商標に類似する他人の先登録商標が存在していた状況で、当該商標権者が先登録商標に対する商標権侵害に該当するおそれがあるという理由により登録商標を使用しなかったことは、登録商標の不使用の「正当な理由」に当たらないと判断した。
事実関係
原告は貴金属類アクセサリーの販売業を営む者で、2014年からa商標の使用を開始し、2019年に化粧品を指定商品として商標を出願・登録し(以下、「原告商標」)、その後2022年初めに化粧品の包装デザインを依頼する等、商標の使用準備を行った。被告は2017年に化粧品を指定商品としてa商標に類似のa′商標を登録し、使用している者である(以下、「被告商標」)。原告は2019年に被告商標に対する登録無効審判を請求し、原告商標に対しては登録後3年が経過した時点(2022年後半)で不使用取消審判を請求した(なお被告商標は原告が請求した無効審判により2023年に無効が確定した)。
判決内容
原審で特許法院は、原告が原告商標を使用することは被告商標に対する商標権侵害の可能性が高く、被告商標に対する無効審決が確定した2023年までは登録無効になるかを確実に予測できなかったとした上で、原告商標の使用が被告商標に対する商標権侵害行為になるという点を知りながら原告にこれを使用するよう強制することは刑事処罰のリスクの甘受を強要するもので、もし原告が原告商標を使用したとすれば、これは一般需要者及び取引者に出所の混同を生じさせる結果となり、最終的には需要者の保護という公益にも反する結果になるという理由により、原告商標の不使用には「正当な理由」があると判断した。
- 原告商標は特許庁の審査官の審査により(被告商標と非類似であるという判断の下に)登録された商標であり、
- 業として商標を使用し又は使用しようとする事業者は当該事業分野において商標権の侵害に対する注意義務を負うところ、原告は化粧品営業のために準備行為をしたことから注意義務を負うと認めることができ、商標を使用するか否かは自ら決定できるという点で、原告が不使用により発生し得る結果を甘受して使用しなかったとすれば、その責任も原告に帰属するはずであり、
- 商標権侵害の成否が訴訟等で争われる場合、登録無効事由を根拠として権利濫用抗弁をする等、客観的な法的判断を求めることができ、
- 被告商標に対する登録無効事件は登録商標自体に無効事由があるかに関するもので、(仮に被告商標が有効であるという判断がされるとしても)被告商標の商標権を侵害するという法院等の具体的な判断であるとか、原告に原告商標を使用してはならない不作為義務が存在したということもできず、
- 疾病その他天災等の不可抗力によって営業できなかったためであるとか、法律の規制等によってその指定商品が国内で一般的・正常に取引されることができなかったためであると認めるだけの事情もないという理由を挙げ、原告が商標権侵害に該当するおそれがあるため本件登録商標を使用しなかったことは、原告が統制することができない客観的・外部的要因による不可避な事由によるものとは認められない。
加えて、仮に特定の商標を使用しないことに対し、他の商標の商標権を侵害するおそれがあるという点を正当な理由として認めるとすれば、その商標が実際に使用されていないのにもかかわらず登録が維持される結果になるため不使用取消審判の趣旨に反することになり得るとし、原告が被告商標に対して登録無効審判を請求したことについては、商標の使用行為とはいえず、登録商標を使用するために準備行為をしたという事情だけで登録商標の不使用に正当な理由があるとは認められないと判示した。
専門家からのアドバイス
審判請求日前3年間の商標不使用による不使用取消審判に関する韓国商標法119条3項は、「被請求人が使用しなかったことに対する正当な理由を証明した場合」には登録取消しを免れることができる旨を規定している。これに関して、本判決で大法院は「正当な理由」とは「被請求人が統制することのできない客観的・外部的要因」を意味するものであって、「被請求人の主観的・内部的要因」はこれに該当しないという点を明確にしている。
本件において被請求人である原告は、自身の登録商標が有効であったにもかかわらず、先登録商標権に対する侵害のおそれを理由に使用しなかったことを「正当な理由」の一つとして主張した。かかる原告の主張に関連して、韓国大法院2021年3月18日言渡2018ダ253444全員合議体判決は、先出願登録商標権に類似の商標について商標登録を受けた後出願登録商標権者が、自身の実施行為として先出願登録商標に類似の商標を使用する場合であっても、先出願登録商標権者の同意なしに使用したのであれば後出願登録商標の積極的効力が制限され、後出願登録商標に対する登録無効審決の確定有無にかかわらず先出願登録商標権に対する侵害が成立すると判示して既存の大法院判例を変更したことがあり、本件で原告はこうした法理に基づいて不使用に正当な理由があると主張した。原審において特許法院は原告の当該主張を認めたが、大法院は原審判断を覆し、商標権者が先登録商標の商標権侵害に該当するおそれがあると判断した部分は「原告の主観的・内部的要因」に過ぎず、商標不使用の正当な理由として認められる「被請求人が統制することのできない客観的・外部的要因」には該当しないと判断したのである。
本判決は、商標権者が自身の商標権確保のための努力だけでなく、商標の不使用取消審判への備えも同様に重要であることを示したものといえ、特に、営業不振や法的紛争のおそれからの商標不使用については「主観的・内部的要因」に該当し不使用の正当な理由として認められにくいという点について、十分に留意する必要があろう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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