知財判例データベース 医薬品の物質特許の延長された特許権の効力が塩変更化合物にも及ぶとした大法院判決
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告 A社、B社(特許権者等) vs 被告 C社
- 事件番号
- 2017ダ245798特許権侵害差止等
- 言い渡し日
- 2019年01月17日
- 事件の経過
- 2019年7月4日確定
概要
コハク酸ソリフェナシンを主成分とし過敏性膀胱症状の治療を医薬用途とする医薬品許可に基づいて特許権の存続期間の延長登録がされた原告の物質特許に対し、被告が、その延長された存続期間中において、医薬品の主成分のうち塩を変更したフマル酸ソリフェナシンについて同等の医薬用途とする医薬品許可を受け、製品を製造、販売する行為が侵害に該当するかどうかが問題になった件である。大法院は、存続期間が延長された医薬品特許権の効力が及ぶ範囲について判断をし、塩等において差があったとしても、該当塩が容易に選択可能であり、治療効果や用途が実質的に同一ならば、存続期間が延長された特許権の効力が上記被告製品の製造、販売行為にも及ぶと判断した。
事実関係
本件特許発明は「過敏性膀胱症状等に治療効果を有する特定の基本骨格を有する化合物」を特徴とする物質特許であるが、この遊離塩基形態の特定化合物は、コハク酸やフマル酸をはじめとした多様な酸と塩化合物を形成することができる。原告は、特許発明と関連する医薬品についてコハク酸ソリフェナシンを主成分として輸入品目許可を受け、これに基づいて特許権の存続期間延長登録出願をし、存続期間の満了日が2015年12月27日から2017年7月13日に延長された。被告は、延長された存続期間中である2016年7月25日に、フマル酸ソリフェナシンを主成分とし、神経性頻尿、不安定膀胱、慢性膀胱炎における尿失禁および頻尿といった泌尿器疾患の予防または治療を医薬用途とする医薬品製造販売品目許可を受けた。これに対して原告は、被告製品の製造販売等の行為が特許権等を侵害するという理由により侵害差止等を請求した。
第1審法院は、旧特許法第95条の「延長登録の理由になった許可等の対象物」は原告A社が活性・安全性等の試験を実施し原告B社が輸入品目許可を受けた「コハク酸ソリフェナシン」であることから、存続期間の延長登録がされた本件特許権の効力は「コハク酸ソリフェナシン」を主成分とする製品に関する実施行為にのみ及ぶものであり「フマル酸ソリフェナシン」を主成分とする被告製品に関する実施行為には及ばないと判断した。
これを不服として原告らは特許法院に控訴したところ、特許法院も原告らの延長された特許権の効力が被告製品に関する実施行為に及ばないと判断した。具体的に、その理由について特許法院は「存続期間が延長された特許権の効力は、上記製造・輸入品目許可事項によって特定された医薬品だけでなく、実質的に同一の品目として取り扱われて一つの製造・輸入品目許可を受けることができるように規定された医薬品または既に医薬品製造・輸入品目許可を受けた医薬品と実質的に同一であって、別途に医薬品製造・輸入品目許可を受ける必要がない医薬品等にも及ぶと言うべきである」とした上で、「フマル酸ソリフェナシン」を主成分とする被告製品は「コハク酸ソリフェナシン」を主成分とする原告医薬品とは別途の製造・販売品目許可を受けなければならない医薬品に該当するので、延長された本件特許権の効力は被告製品には及ばないと判断した。
大法院では、上述した第1審法院及び特許法院の判断を覆し、下記の通り判断した。
判決内容
大法院は、まず医薬品許可に基づいて延長された特許権の効力の範囲に関する判断基準について、次の通り提示した。
「存続期間が延長された特許権の効力について旧特許法第95条は『その延長登録の理由になった許可等の対象物(その許可等において物について特定の用途の定めがある場合には、その用途に使用される物)に関するその特許発明の実施以外の行為には及ばない』と規定している。特許法は、このように存続期間が延長された特許権の効力が及ぶ範囲を規定しており、請求の範囲を基準とせずに「その延長登録の理由になった許可等の対象物に関する特許発明の実施」と規定しているだけであって、許可等の対象「品目」の実施に制限してはいない。
このような法令の規定と制度の趣旨等に鑑みれば、存続期間が延長された医薬品特許権の効力が及ぶ範囲は、特許発明を実施するために薬事法によって品目許可を受けた医薬品と特定疾病に対する治療効果を示すものと期待される特定の有効成分、治療効果及び用途が同一かどうかを中心に判断すべきである。特許権者が薬事法によって品目許可を受けた医薬品と、特許侵害訴訟で相手方が生産等をした医薬品(侵害製品)が薬学的に許容可能な塩等において差があっても、発明の属する技術分野で通常の知識を有する者(以下「通常の技術者」という)であれば容易にこれを選択できる程度に過ぎず、人体に吸収される有効成分の薬理作用により示される治療効果や用途が実質的に同一ならば、存続期間が延長された特許権の効力が侵害製品に及ぶと言うべきである」
続いて、本事案について大法院は、下記の理由により特許権者の医薬品と被告製品は有効成分の薬理作用により示される治療効果が同一であると判断した。
- 被告製品は、塩変更医薬品として「医薬品の品目許可・申告・審査規程」第2条第8号が定めた安全性・有効性審査資料提出医薬品であって、上記規程第28条第5項に規定された要件である「国内で許可された医薬品(原告が輸入品目許可を受けた「ベシケア錠」を意味)と化学的に基本骨格が同一であり、効能、効果、用法、用量、副作用、薬理作用等が許可された医薬品とほぼ同等であると推定され、経口投与剤として消化器官内で必ず分解され、国内で許可された医薬品と同一の成分となって吸収されることが明確であるものであって、その塩類等が医薬品として頻繁に使用されるもの」に該当するという理由により、製造・販売品目許可申請時に、「ベシケア錠」についての毒性、薬理作用、臨床試験成績に関する資料等の、多数の安全性・有効性資料を援用することによって毒性に関する資料、薬理作用に関する資料提出の免除を受け、さらに被告は、健康な者を対象とした臨床1相試験においてソリフェナシンの血中濃度について被告製品と特許権者の医薬品が対等な水準であることを確認する内容の生物学的同等性試験資料を提出して製造・販売品目許可を受けたという点
- 特許権者の医薬品であるソリフェナシンコハク酸塩は体内に経口投与されてソリフェナシンとコハク酸に分離され、ソリフェナシンのみが膀胱に到達して、受容体と反応して薬理効果を発揮するようになるという点
加えて、大法院は下記の事項を挙げ、コハク酸塩をフマル酸塩に変更することは、通常の技術者であれば誰でも容易に選択できる事項に過ぎないと判断した。
- 特許発明の明細書は、アンモニウム塩以外にコハク酸、フマル酸等を有効成分であるソリフェナシンと塩を形成できる選択可能な有機酸として記載しているという点
- 被告製品のフマル酸塩は、コハク酸塩と共によく使用される薬学的塩である「クラス1(Class1)」に分類され、ソリフェナシンコハク酸塩の体内投与及び吸収過程は、ソリフェナシンフマル酸塩の場合にも同一であるということが広く知られているという点
専門家からのアドバイス
大法院が初めて、医薬品許可により延長された特許権の効力の範囲について、その具体的な判断基準を提示したという点で、本判決は非常に大きな意味がある。すなわち、本判決は、存続期間が延長された医薬品特許権の効力は、薬事法によって品目許可を受けた、まさにその医薬品に対してのみ及ぶというのではなく、「存続期間が延長された医薬品特許権の効力が及ぶ範囲は、特許発明を実施するために薬事法によって品目許可を受けた医薬品と特定疾病に対する治療効果を示すものと期待される特定の有効成分、治療効果及び用途が同一かどうかを中心に判断すべきである」という具体的な判断基準を明らかにした判決であると評価することができる。
こうした本判決の判断基準が定着していけば、今後は、後発製品が塩変更医薬品であると同時に、その塩変更が容易で、かつ治療効果も実質的に同一であるといえる場合には、本事案の同様、そうした後発製品に対し、存続期間が延長されたオリジナル医薬品の特許権の効力が及ぶと判断されることとなろう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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