知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)デザインを重視する韓国企業 -韓国デザイン登録制度の活用状況-

2017年07月12日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.103)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生(特許庁出向者)

デザイン登録制度(日本では意匠制度)とは、工業製品等のデザインを特許庁に登録し、特許と同様に排他的な独占権(デザイン権)を得る制度です。韓国におけるデザイン登録出願は、2016年で6万5,643件を数え、日本における意匠出願(約3万件)の2倍以上となっています。JETROソウルではこのような現状を踏まえて韓国におけるデザイン登録制度の活用状況等を調査しましたので、本稿ではその内容を簡単に紹介します。

商品開発とデザイン

韓国企業がデザインを重視した商品開発を行っているということは良く言われています。
上記調査で行った大手電気メーカーへのインタビューでも「デザインをまず優先的に開発してから機能を開発する作業をしている」とのコメントがありました。また、韓国政府としても高付加価値製品の開発に向けて、技術開発の初期段階からデザイナーも参加させた商品開発の手法を推奨しており、中小企業向けの支援事業も行っています。例えば、産業通商資源部及び特許庁が行っているグローバルヒット365プロジェクトでは、市場・環境分析を介して顧客指向、現地化されたブランドやイノベーションデザインを作成し、これに合わせて、技術開発や海外権利化を支援しています。また、韓国特許戦略院へのインタビューでは、時間的な視点では、投資回収率が技術開発よりもデザインの方がはるかに高いとのコメントもありました。

デザイン権の出願・取得状況

過去20年のデザイン登録出願(総数約68.7万件)を出願人種別で見ると、国内個人(43.6%)、国内中小企業(30.2%)が際立って多く、国内大企業(13.7%)や外国法人(7.3%)を引き離しています。
出願が多い分野について、1位から7位まで(ここまでで出願全体の83.6%を占める)をみると、次表のとおりとなっています。

韓国分類によるデザイン物品群 (13群中7位まで) 出願数(万件)
D (住宅設備用品) 10.00
H (電気電子機械器具及び通信機械器具) 8.83
L (土木建築用品) 8.33
C (生活用品) 8.06
F (事務用品・販売用品) 7.94
B (衣服・身の回り品) 7.15
M (基礎製品) 7.06

電子通信機器等が分類されるH群F群は比較的国内大企業の出願が多いものの、その他の群については国内個人・中小企業の出願が多くなっています。出願の時期としては、アンケートやヒアリングを行った範囲では商品の販売開始1か月前との回答が多かったです。
また、登録率は例年7~8割であり、登録されたデザイン権の存続期間は平均59ヶ月程度となっています。物品別にみると、最も存続期間が長いものは食料品用加工機械の平均72.1ヶ月です。実体審査を省略する一部審査物品のデザイン権存続期間は概して権利存続期間が短く(平均48ヶ月)、例えば衣服類は平均46.5ヶ月となっています。権利存続期間は最大で出願から20年であるため、商品毎のライフサイクルに合わせて比較的短い権利期間を設定していることがわかります。
また、生活用品や住宅設備分野企業へのインタビューでは、商品の機能について特許として登録を受けることは難しい場合、デザインという側面から意味があるのなら、デザイン登録出願を行うというコメントもあり、商品の形状に機能的な意味がある場合は特許の補完としてデザイン登録出願を行うというケースもあるようです。

デザイン権の活用状況

デザイン権の活用方法としては、他社に売却又はライセンスするということはあまり無いようですが、自社製品の保護を挙げる企業が目立ちました。他社に権利侵害された際の対応としては、警告状の送付を経て、侵害訴訟まで争うという会社もあれば、侵害されても放置するという企業もありました。競争の激しい業界においては、権利を自ら取得しないと他社に自社のデザイン権を先取りされてしまうこともあり、商品毎に必ず権利を取るということで、商品開発のサイクルが早いことも相俟って、中小企業においてもデザイン権を多く取得しています。
商品の模倣は、機能(特許)よりもデザインを模倣することが比較的簡単であることから、デザイン権の取得は模倣対策の鍵となっており、商品開発の競争が激しい業界を中心にデザイン登録制度が活発に利用されていることがわかりました。
上記調査の報告書は弊所ホームページで掲載いたしますので、是非ご覧ください。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 笹野 秀生(特許庁出向者)
95年特許庁入庁。99年に審査官昇任後、情報システム室、審判部審判官、(財)工業所有権協力センター研究員、調整課品質監理室長を経て、2014年6月より現職。

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195