知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国大企業同士による米国での知財紛争

2021年06月09日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.153)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

LGエナジーソリューションが電気自動車などに搭載するバッテリーに関する営業秘密を侵害したとしてSKイノベーションを訴えていた知財紛争で、2021年4月11日、両社は、SK側がLG側に総額2兆ウォン(約2,000億円)の賠償金を支払うことで全ての紛争を終結することを発表しました。
本稿では、この知財紛争を振り返るとともに、韓国知財界での受け止めについて、ご紹介します。

1.紛争の概要

  1. 営業秘密の侵害訴訟(LG→SK)
    2019年4月29日、LG化学(LGエナジーソリューションは、2020年12月に、LG化学の電池事業本部がLG化学の100%子会社として分社化して発足。以下、LG化学とLG エナジーソリューションとを合わせ、単に「LG」という。)が、米国国際貿易委員会(ITC)およびデラウェア州連邦地方裁判所にSKイノベーション(以下「SK」という。)を二次電池に関する営業秘密侵害で提訴し、この中で、LGは自社のコア人材をSKが大規模に引き抜くとともに営業秘密の侵害行為を否認するために組織的な証拠隠滅をしたと主張しました。
    営業秘密とは、秘密管理性、有用性、非公知性を有する技術上または営業上の情報のことをいい、今回の紛争では、退職者による営業秘密の流出とその侵害行為が問題となりました。
  2. 特許権の侵害訴訟(SK→LG、LG→SK)
    一方、2019年9月3日、SKは同社の二次電池に関する特許権を侵害したとして、ITCおよびデラウェア州連邦地方裁判所に対してLGを提訴し、これを受けて、同月26日、LGは同社の特許権を侵害したとしてSKに反訴を提起、両社の紛争は訴訟合戦の様相を呈することとなりました。
  3. ITCによる最終決定
    上記のうち、営業秘密の侵害訴訟に関して、2021年2月10日(米国時間)、ITCは、LGの営業秘密を侵害するリチウムイオン電池、単電池、電池モジュール、電池パックおよびこれらの部品の輸入を今後10年間禁じる一方、特定のFord Motor社製車両用にSKが米国内で製造する電池の部品の輸入については4年間、Volkswagen of America社製車両用にSKが米国内で製造する電池の部品の輸入については2年間、加えて、米国内でKIA社製車両用に販売された電池の修理・交換で使われる材料の輸入は許されることを旨とする限定排除命令を出しました。米国企業への影響に一定の配慮をした形の命令となってはいますが、SKは米ジョージア州に電気自動車向けのバッテリー工場を既に建設中であり、SKにとって厳しい内容となりました。
  4. 紛争終結へ
    ITCの決定に対しては60日以内に大統領が拒否権を発動することができるため、両社やSKの建設中の工場が立地するジョージア州知事などが盛んにロビー活動を行いましたが、中国などに知的財産の保護を求める立場の米国大統領が拒否権を発動する可能性は低いとみられていました。
    このような中、両社が拒否権発動期限をにらんで水面下で交渉を続けた結果、その期限当日である2021年4月11日に、両社は、SKがLGに総額2兆ウォン(約2,000億円)の賠償金を支払うことで全ての紛争を終結すると発表しました。

2.韓国知財界での受け止め

  • 今回の紛争は、韓国でも最も影響力の大きい大企業同士が、米国を舞台に大規模知財紛争を起こしたものであり、韓国知財界でも大きく注目されました。 LGが知財訴訟の舞台として米国を選んだ背景の1つとして、米国の充実した証拠収集制度(ディスカバリー制度)の存在があったと言われており、韓国では、この紛争を契機に、韓国知財制度の魅力向上のため、いわゆる「韓国型ディスカバリー制度」の導入機運が高まり、現在関連法案が国会で審議されています。
    当初、「韓国型ディスカバリー」の名前のとおり、米国のディスカバリー制度に近いものを導入することも検討されていましたが、現在では、ドイツの査察制度を参考(日本でもドイツ法を参考に、2020年4月1日施行の改正特許法で、査証制度が導入されています。)にした法案が検討されています。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾 (特許庁出向者)
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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