知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国特許庁が知識財産処へと昇格
2025年11月12日
The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.206)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)
韓国特許庁は2025年10月1日から知識財産処へと昇格しました。従前は、産業通商資源部の外局として存在していましたが、組織再編により、国務総理所属の知識財産処が発足することとなりました。また、科学技術情報通信部が所管していた知識財産基本法も、新たに発足した知識財産処が所管することとなりました。今回はこの組織再編を通じて見る韓国の知財行政の方向性を中心に解説を行います。
1.政府組織法一部改正法律案
韓国政府組織を改編する法律である、「政府組織法一部改正法律案」が9月26日に国会本会議を通過し、9月30日に国務会議で審議、議決されました。李在明(イ・ジェミョン)政権初の政府組織改編案となる同法案は10月1日に公布され、即日施行されました。JETRO(韓国)のビジネス短信(2025年10月14日)によりますと「今回の改編は、政府組織全体に国政の哲学とビジョンを反映し、政府が適切に業務を遂行できる政府組織体系を構築することを目的に行われた。具体的には、特定部署に集中した機能と権限を再配置し、気候変動、人工知能(AI)大転換などの未来の課題に先行的に対応するために、気候エネルギー環境部が新設され、企画財政部の分割、検察庁の廃止が行われることになった。特に、予算審査日程や諸制度整備などを考慮し、企画財政部の分割は2026年1月2日まで、検察庁の廃止は2026年10月1日まで猶予期間が設けられた。また、旧産業通商資源部傘下にあった特許庁は、国務総理所属の知的財産処に改編された」と報道されています。
2.具体的な組織改編
改編前の組織として、韓国特許庁は、産業通商資源部の外局として知財行政を管轄し、一方で、韓国政府の知的財産の創出・保護・活用を促進するための政府の基本政策に関する「知識財産基本法」は、科学技術情報通信部が所管していました。今回の改編により、韓国特許庁は独立して、国務総理所属の知識財産処として昇格するとともに、知識財産基本法も、知識財産処の所管となりました。この他にも、国務総理所属の組織として、企画予算処や、統計庁の機能を受け継ぐ国家データ処も設置されました。韓国特許庁が所属していました産業通商資源部は、エネルギー部門が環境部に統合され、産業通商部となり、環境部は、気候エネルギー環境部となりました。韓国特許庁は、英語表記は「Korean Intellectual Property Office (KIPO)」でしたが、新たに発足した知識財産処は、英語表記で「Ministry of Intellectual Property (MOIP)」となりました。「処」という同一の呼び方が日本には存在しないため、イメージがつきにくいところがありますが、英語表記で「Office」だった組織が「Ministry」となったことで、昇格したという点が把握できます。
3.MOIP
2025年9月30日まで存在した韓国特許庁(KIPO)は、大田市に存在し、庁長、次長、1官9局1団57課、3所属機関、1,785人規模で運営されていました。10月1日より発足した知識財産処(MOIP)は、他の「処」が存在する世宗市には移転せず、そのまま大田市に残り、処長、次長、1官10局1団62課、3所属機関、1,800人規模で運営されることとなりました。韓国特許庁(KIPO)最後の庁長となりました金完基(キム・ワンギ)氏は続投せず、知識財産処(MOIP)発足時点では、処長空席で発足となりました。
韓国特許庁(KIPO)の部署であった「産業財産政策局」、「産業財産保護協力局」、「産業財産情報局」は、それぞれ「産業財産」という名称が「知識財産」に変更され、「知識財産政策局」、「知識財産保護協力局」、「知識財産情報局」へと変更となり、また新たに「知識財産紛争対応局」が新設されました。新設された「知識財産紛争対応局」は、改編前の「産業財産紛争対応課」の業務を引き継ぐ形で局へと昇格となり、海外での知的財産保護等を扱う部署となります。
まとめ
李在明政権の国政運営の青写真である「国政運営5カ年計画(案)」などが発表されていますが、中でもAI3大強国になる点や、K―フードやK―コンテンツなどの追い風に乗っている分野の知名度を生かして、その他の分野も世界展開を積極的に行う方向性がうかがえます。今回の政府組織全体の改編からも、AI3大強国に向けて、知的財産やデータの重要性を意識している点がわかります。また、知識財産処(MOIP)に新設された、「知識財産紛争対応局」も海外における知的財産の支援が中心となることから、今後、海外展開に政府としてもより積極的に取組む点が見てとれます。新たに発足した組織の方向性はこれから新処長の指導力のもと明確になると思われます。今後の動向を注視したいと思います。
今月の解説者
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。
本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
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