知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)芸能人写真などの無断使用は注意!

2023年08月09日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.179)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2023年6月26日、韓国特許庁は、芸能事務所等へのパブリシティー権契約・侵害現況実態調査結果の発表を行いました。今回はその詳細についてお伝えします。

1.「パブリシティー権」とは?

「パブリシティー権」は「肖像権」とも呼ばれ、氏名や肖像、署名などがもつ財産的価値を独占的、排他的に支配する権利(商業的に利用できる権利)とされています。換言すれば、人気アイドルの写真などを無断で使用して、あたかも本人が商品を宣伝しているような宣伝行為を行えば、当該権利の侵害となり得ます。

韓国においては、第3次国家知的財産基本計画の5大戦略の1つに「新韓流の普及をけん引するKコンテンツの育成」が挙げられ、当該戦略を推進する上でも、「パブリシティー権」の取り扱いが重要となっています。

2.芸能事務所等への調査結果

今回実施された調査では、韓国内の映像、スポーツ等主要産業の関連事業者82社を対象に、パブリシティー権に関連する契約の現況や侵害現況などが調査されました。これによると、権利に理解はあるものの、事業者側のパブリシティー権の専門人材が不足気味であり、対応に難航している実情がうかがえます。

2.1.認知度

芸能事務所のパブリシティー権に対する認知度、および、契約書に当該権利に関連する事項を含むか否かについていずれも80%前後の回答結果となっています。さらに踏み込んで3社に2社は不正競争防止法の改正によりパブリシティー権の保護が可能になったという事実を知っていました。芸能ビジネスにおける実務では、当該権利による保護が重要であり約8割の事務所が何らかの対応を講じていることがわかります。

ここで、契約書に含まれるパブリシティー権関連事項は、肖像(88.2%)、氏名(76.5%)、芸名(64.7%)、音声(50.0%)、身体形態(写真・絵など、42.6%)の順となっています。現状では、この順で重要性が認知されていますが、将来的には、OTTやSNSを含めたWEB上での展開など、現状とは違う要素の重要度も上昇するものと思われます。

2.2.侵害状況

パブリシティー権侵害を経験した芸能事務所は全体の8.6%であり、最も高かった類型は、所属芸能人の顔などを無断で広告に利用する「広告出演契約なしに無断利用」(57.1%)であると報告されています。また、芸能事務所が最も困難性を感じている事項は、「パブリシティー権が侵害されたという事実を突き止めること」(64.6%)の回答が最多となりました。事実の突き止めが困難性の高い現状では、権利侵害は氷山の一角である可能性もあります。また、80%以上の芸能事務所は、現状では社内にパブリシティー権の専門チーム・人材を保有していないと回答しており、人材育成や人材確保が急務となっています。社内での対応に限界がある場合は、専門家への相談も有効と考えられます。

2.3.侵害時の対応

パブリシティー権侵害行為は、不正競争行為に該当して民事上の損害賠償請求および侵害差止請求が可能であり、特許庁行政調査の対象に該当します。行政調査を申請して進める場合、費用は全額無料で、韓国特許庁内部の調査の専門組織(不正競争調査チーム)による迅速・公正な調査が行われるとのことです。調査の結果、侵害行為が認められる場合、違反行為者に行為を差し止める是正勧告が下され、是正勧告を履行しない場合は違反行為の内容などがメディアに公表されるなど、影響力のある有効な対応となっています。

3.知的財産権の重要性

韓国特許庁は、BTS関連偽造品の取締りで2030釜山エキスポの誘致をサポートするなど、これまでもKポップ関連韓流コンテンツの重要度の高まりとその知財保護の重要度に即した対応を行っています。また、パブリシティー権のみならず、特許・商標・意匠・著作権・ライセンシング等、知財を活用したビジネスモデルが重要性を増しており、企業活動や、国民の意識向上が一層重要となってきています。なお、アイドルのみならず一般の人物に対しても、知的財産権の取り扱いには十分ご注意ください。

4.ごあいさつ

2023年6月末にジェトロ・ソウル事務所に着任し、今号から執筆を担当することとなりました大塚です。最新の興味深い知財に関するトピックを、分かりやすく紹介していきたいと思います。

今後も本欄をどうぞよろしくお願いいたします。原則毎月第2水曜日に掲載されます。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学 客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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