知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国特許庁の2024年度予算から見る、政府の技術施策方針

2024年02月14日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.185)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2023年12月21日に、韓国特許庁の2024年予算が議決されました。2023年度は7,390億ウォン(約832憶円)だったところ、2024年度は7,017億ウォンとなり、前年度比で5.1%の減となりました。一方で、重点的に予算配分が拡大された主要事業費が存在し、当該主要事業費は前年度より29憶ウォンの増加となりました。知財行政における主要事業費から2024年度がどのような技術施策の方向性となっているのか解説します。

1.主要事業4つの領域

2024年度予算が重点配賦された主要事業は、次の4領域の事業となっています。いずれも現在韓国が取り組むべき最優先の課題に関連した事業領域となっており、韓国政府の科学技術施策の方向性をうかがい知ることができます。

  • 知的財産を支援して韓国企業の輸出力を強化する事業
  • 人工知能(AI)を活用した知的財産の審査・評価システムのイノベーションを図る事業
  • 国家コア技術など知的財産保護の機能を高める事業
  • 未来人材育成に向けた知的財産教育への投資を拡大する事業

2.輸出力強化

韓国企業の海外での事業支援を目的として、海外知識財産センター(IP-DESK)を、2023年度は11カ国に展開しているところ、2024年度には、40カ国に拡大することとなりました。IP-DESKは、優れた知的財産権を保有する中小企業の輸出を支援し、海外で知財権に関する紛争が発生した場合にも手厚く対応してくれる心強い組織となります。韓国経済の要ともいえる、輸出を知財の側面から支援する事業領域の強化となります。予算額は、2023年度が33憶ウォンだったところ、2024年度は54憶ウォンとなり、21憶ウォンの増額となりました。

3.AI活用

特許庁が所管する特許権や商標権等の審査について、出願件数が一定規模で推移しているものの、審査実務を行う審査官数は公務員定数の関係ですぐに増加を行うことが困難な状況です。そこで、特許庁の審査・審判業務を効率的に行うことが可能となるように、AIを活用した、特許検索・分類サービスを研究するための予算として、AI基盤の特許行政の改革予算が、2023年度は19億ウォンだった予算を、2024年度は、20億ウォンに増額となりました。また、知的財産市場の公正な取引の秩序確立のためにIP取引・移転用の価値評価システムを設けることとし、知的財産活用・拡散のインフラ構築予算として、2024年度に新規で、9億ウォンの予算が設けられました。

4.国家コア技術保護

半導体技術をはじめ、国家コア技術の海外流出を阻止するための方策がさまざま検討されています。これらの対応を強化するため、特許庁の関連予算も増額となりました。国家コア技術・防衛産業技術など経済安全保障に関わる特許出願を把握・管理する予算を、2023年度は、23億ウォンだったものが、2024年度は、34億ウォンに増額となり、営業秘密保護の相談対象も国家戦略技術の研究開発(R&D)を行う機関にまで拡大し、その予算も2023年度は、25億ウォンだったものが、2024年度には、32億ウォンと増額編成されました。さらには、知的財産紛争の迅速な解決を支援する産業財産権紛争調停委員会の運営予算も拡大され、2023年度は、3億ウォンだったものが、2024年度は、6億ウォンとなりました。

5.知財人材育成

地域主力産業などに特化した知財融合人材を育成するための事業として大学に知財融合学位課程を開設し、知的財産教育の拠点として役割を行う知的財産重点大学が存在します。特許庁は2021年から圏域別に知的財産重点大学を指定しており、2023年には、慶尚国立大学(蔚山・慶南)、全南大学(光州・全南)、忠北大学(忠北)、忠南大学(大田・世宗・忠南)、慶北大学(大邱・慶北)、江原大学(江原)の6大学が指定されています。当該知財重点大学を9校拡大し、当該予算として、2023年度は44億ウォンだったものを、2024年度は、66億ウォンに増額となりました。また、中部圏の地域発明教育の軸となる広域発明教育支援センターの建設に関連する予算も、2023年は、6億ウォン(設計費)だったところ、2024年度は、10億ウォンと増額編成になりました。

6.まとめ

「輸出」、「AI活用」、「国家コア技術保護」、「知財人材育成」という4つのキーワードが2024年の知財行政に関する重要なトピックとなりそうです。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学 客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT 知財人材部長等を経て現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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