知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国知識財産処にIP(知的財産)―AX(AI大転換)の総括組織発足

2026年06月10日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.213)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2026年5月20日、韓国知識財産処は、急激な人工知能(AI)技術の発展に伴う知的財産のパラダイム変化に積極的に対応し、AIを基盤とした知的財産行政システムの高度化を推進するため、総括組織である「知識財産人工知能転換推進団」を新設し、本格的な業務に着手すると発表しました。世界的に広がるAIの影響に対して、韓国知識財産処においても、対応する部署を新設することとなります。

1.知財業界におけるAI

知財業界におけるAIの影響が、複数顕在化しています。特許・実用新案、意匠、商標といった産業財産権の分野では、AIの超人的な処理を活用して、過去に同様の発明や名称が存在したのか調査する作業の自動化や、特許庁への出願に用いる出願関係書類の自動作成などへの活用が行われています。また外国文献の翻訳や、長大な資料の要約などにもAIが活用されています。発明やデザイン自体をAIに実施させる、または補助させるケースも出てきています。なお、AIを発明者として認めるか否かは複数の議論がなされているところ、現時点で特許出願においては、日韓両国においてAIを発明者とは認定しない点で共通しています。今後の議論によりこの点は変化が起こり得る可能性はあります。企業活動においては、他社の権利を侵害していないかのFTO調査や、ライバル企業の特許を無効化するための証拠探し等への活用もみられています。このように多方面において、AIの影響が存在し、これらに対応する部署も必要性が高まっている状況下で、今回、韓国知識財産処に専門の部署が設立されることとなりました。

2.新設部署のミッション

今回の発表によりますと、新設される「知識財産人工知能転換推進団」の核心的なミッションは、大きく分けて以下の3つであると示されています。

  1. 人工知能(AI)の大転換に合わせた知的財産の法・制度の見直し・改正および関連基準の再構築
    米国・欧州などの主要国および世界知的所有権機関(WIPO)のAI関連の動向をモニタリングし、知的財産分野においてAIを公共・民間部門に導入する際に順守すべき倫理規定などを研究し、知的財産関連の法・制度の改正が必要かどうかを綿密に検討した上で、立法を推進する。
  2. AI-Nativeな知的財産行政システムの構築に向けたIP(知的財産)-AX(AI大転換)戦略の策定
    国家人工知能戦略委員会が発表した人工知能行動計画など、韓国政府の方針に合致する知的財産分野におけるAI大転換(AX)を推進するため、知的財産分野の行政・公共サービスのうち、AIを導入・普及させる必要がある業務を発掘し、手続き・システムを改善する。また、内部職員のAIリテラシー向上のために、教育および能力強化プログラムを提供する。
  3. 民間知的財産(IP)産業の人工知能転換支援および人工知能学習データの開放推進
    知的財産(IP)サービス企業が、知的財産(IP)ビッグデータやAIなどを活用して、高度化された特許・技術検索、企業分析、判決予測サービスなどを提供できるよう、ビジネスモデルの設計とサービス開発を支援する。また、そのために活用度の高いAI学習データの開放も支援する。

上記1については、AIによる発明を法的にどのように扱うのかという論点での対応となりますが、急激なAI技術の進展により、補助ツールとしての側面からさらに進化して、発明の主体として認めるか否かという所を含めた議論が今後活発化すると思われます。

上記2については、行政サービスにおいてどのようなAIの活用が理想的であるのか、また、当該AIを利用する職員に関して、AIの単純な利用に限らず、情報漏えいなどのリスクも含めた人材育成の重要性が高まっており、この対応も推進されることとなりそうです。

上記3については、民間におけるAIの利活用を意識した検討となりますが、AIを最大限活用するための学習データとして、知財情報は非常に有益であるため、この知財情報の活用支援も検討がなされることとなります。

まとめ

AIの進展により、知財の世界にも影響が出ており、出願の増加や、これまでにない技術の創造など、業界が活性化に向かう現象が起きつつあります。一方で、適切な時期に合わない産業財産権の出願が真にイノベーションに資するか、また、速度の増加が人間の対応能力を著しく超えた状態で、適切な手続きや企業活動などの運用が継続できるか、など不安要素も考えられます。新設部署での議論が待たれます。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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